CIPS Connections
Original interview in English is here.
Chinese translation is here.

国際的に著名なコンピュータ科学者であり,先見の明と示唆に富むリーダー 公立はこだて未来大学学長 中島秀之
Interview by Stephen Ibaraki, FCIPS, I.S.P., MVP, DF/NPA, CNP

Stephen Ibaraki (カナダ情報処理学会フェロー,情報システムプロフェッショナル(政府認定),Microsoftフェロー,ネットワーク協会フェロー,ネットワークプロフェッショナル)の独占インタビュー, 今週は国際的に著名なコンピュータ科学者,中島秀之博士です.

Hideyuki Nakashima 中島秀之教授は2004年より公立はこだて未来大学の学長をなさっています.その前は産業技術総合研究所サイバーアシスト研究センター長でした.

研究分野はマルチエージェント,人工知能(特に知識表現と推論),認知科学などにまたがります.最近は複雑情報処理システムの方法論や情報処理技術の社会応用に興味を抱いていらっしゃるそうです.

学会活動も活発で,現在,日本情報処理学会の副会長ならびに 同学会のフェローでいらっしゃいますが,2003年から2年間は日本認知科学会の会長を務められましたし,1999年から2004年にかけてはマルチエージェント国際財団理事でした.2000年にはマルチエージェント国際会議(ICMAS)のプログラムチェア,2006年には自律エージェントとマルチエージェント国際会議(AAMAS)のジェネラルチェアと環太平洋人工知能国際会議(PRICAI)のジェネラルチェアを務められました.その他に人工知能国際会議(IJCAI), ICMAS, AAMAS そしてUbiCompなどのプログラム委員を多数経験されています.

中島さんは1983年に東京大学で情報工学の博士号を取得されています.

HPはhttp://www.fun.ac.jp/~nakashim/welcome.htmlにあります.

索引とリンク
Q1   2004年に未来大学の学長になられたときには,そのような要職にしては最もお若い学長だったのではないでしょうか?素晴らしいことだと思います.学長として何を達成なさりたいか教えてください.
Q2   未来大学の焦点は何ですか?
Q3   複雑系科学科を通じて何の達成を望んでいますか?またそのインパクトはどのようなものでしょうか?
Q4   学長として最も困難だった問題とその解決法について話してください.
Q5   ビジネス,産業,政治,教育,マスメディアと消費者に対する情報科学の役割と影響ならびに技術の応用についての例をお願いできますか.
Q6   あなたの現在の役割における最大の難関は何ですか?
Q7   コンピュータ科学の分野へは具体的にどんな貢献を考えていらっしゃいますか?またそれをどのようにして実現される予定ですか?
Q8   「コンピュータなしには実現できないような新しい現象」の例を挙げていただけますか?どのような応用を考えていますか?どのように使われ,日常生活にどのような変化を与えますか?
Q9   複雑系情報処理の新しい方法論は世界にとってどのような意味を持ちますか?インターネット,ビジネス,産業,政治,教育,マスメディアと消費者に対する影響は何ですか?
Q10   マルチエージェントシミュレーションの例を示していただけますか?また,進化計算はどのように優れているのでしょう?
Q11   知識表現,推論そして認知科学におけるあなたの仕事について話してください.
Q12   その新しいアプローチや研究中のアイデアについてもう少し話していただけませんか?東洋的世界観はどのように違うのですか?その要素は何ですか?
Q13   マルチエージェントに関する仕事について話してください.
Q14   ロボカップシミュレーションリーグについてもう少し説明してください.また,協調アーキテクチャで試みた他の例についても話してください.
Q15   人工知能の現状はどうなっていますか?その方向性や,ビジネスと消費者に対する影響は何ですか?
Q16   2020年頃にはどのような問題が解決していると思いますが?コンピュータの計算能力が人間を上回るのはいつごろだと思いますか?
Q17   サイバーアシスト研究センターでのセンター長としての仕事を教えてください.最も誇れるのはどの分野の仕事ですか?
Q18   「サイバーアシストプロジェクトのゴールは,特別な知識や訓練なしに使える,人間中心の情報処理支援システム(知能ブースター)の開発である」とありますが,この概念の他の実例を教えていただけますか?
Q19   「情報洪水やプライバシの問題を扱う」とありますが,どのように行うのですか?
Q20   「我々の目標は情報のフィードバック制御システムを備えた未来の都市の設計図を示すことである.これはセンサーとアクチュエータそしてそれらを制御する情報処理システムから構成される.」ということですが,この方向のプロジェクトについて紹介してください.
Q21   「情報処理技術の社会応用」の未来像はどのようなものですか?
Q22   「コンピュータが人間には見えなかった情報を発見するわけです.Web 1.0ではICTが中心技術であり,Web 2.0ではIPTが中心技術であるとも言えましょう.」とありますが,Web 2.0の技術要素と方向性について語ってもらえますか?オンライン・コミュニティーやユーザによるタグ付けなどに対する関心が高まっています.
Q23   社会応用について説明してください.それらはどのように感じられ,聞こえ,見えるものでしょうか?ビジネス,政府,教育,そしてマスメディアにとってどのような好機が生まれますか?
Q24   それらのプロジェクトを発展させ,皆が使えるようにするにはどうすれば良いでしょう?たとえばセマンティックマッチングや世界的な文書共有とその共同オーサリングについてはどうでしょう?
Q25   情報処理技術の負の側面は何ですか?
Q26   情報処理学会(IPSJ)での役割と,そこで達成したいことを教えてください.
Q27   情報処理学会により多くの実務家を入れる手段としては何を提案しますか?
Q28   高校や大学のITカリキュラムをどのように変えようとしていますか?
Q29   中島さんたはMITの大学院で学んでおられますが,そこ頃のことや,どのような革新的なことを行ったかを教えてください.
Q30   MITでのBrooksやMinskyとの仕事の話をしてください.
Q31   未来のインターネット環境についてビジネス界が知っておかねばならないことは何ですか?その影響やビジネスチャンスは何ですか?また,どうしてビジネスにとって大事なのですか?
Q32   このインタビュー記事の読者には様々な分野やバックグラウンドの人がいます.その人たちに向けてセマンティックコンピューティングやセマンティックサーチ(意味検索)についてもう少し詳しく説明いただけますか?それらの応用は何ですか?
Q33   現代の組織やビジネスが直面している最大の問題は何ですか?そしてあなたの推奨する解決策は?
Q34   この質問はあなたの直線の答えに関係します.マッシュ・アップ(mash-up)やアンカンファレンス(unconferences)ついてどう考えますか?
Q35   ITにおける技術者不足についての意見をください.それはどれくらい深刻ですか?原因と解決策は何ですか?
Q36   コンピュータ技術分野でのキャリアを目指す人にとって,そこで成功するための秘訣は何でしょうか?
Q37   「セカンドライフ」と呼ばれる新しい人気フォーラムと言うか仮想世界があります.この仮想世界で会議をしたり商売をしたりできます.大学のキャンパスさえ存在します.このような世界(http://secondlife.com/)についてどう考えますか?

議論:

初めに: 中島さんの生涯は大きな成功であるとともに,様々なことを達成しておられます.それを聞かせていただき,あなたの深い考え方を読者と分かち合っていただけることに感謝します.

A: こちらこそ,世界に向けて意見を発する場を作っていただいて感謝しています.

Q1: 2004年に未来大学の学長になられたときには,そのような要職にしては最もお若い学長だったのではないでしょうか?素晴らしいことだと思います.学長として何を達成なさりたいか教えてください.

A: 私の考え方を世界に伝達するためにこの職を使いたいと考えています.公立はこだて未来大学(FUNと呼んでいます)は情報科学に焦点を当てた大学ですので,その目的に適していると考えています.

単純化のために私の人生を100年と考えます.これを2分割して,最初の50年間は学習と訓練によって情報処理の本質に関する知識を洞察を得るために使って来ました.50歳に近づいたときに,残りの50年間は私の学んだものを若い世代に伝えることに使おうと決めました.そして,偶然にも大学からの招待は私が50歳の年に来ました.

Q2: 未来大学の焦点は何ですか?

A: 未来大は2000年に設置された新しい大学です.情報科学に焦点を当てた大学で,システム情報科学部という1学部に複雑系科学科とメディア・アーキテクチャ学科の2学科が設置されています.未来大における研究と教育は情報科学,認知科学,情報システムデザイン,そして複雑系科学をカバーします.個人的には大学の2学科の研究融合に期待しています.知能システムは複雑系であることは明らかですが,それ以外にも様々な分野融合が考えられます.たとえば複雑系ダイナミクスを新しいデザインに活かすことが可能でしょう.

Q3: 複雑系科学科を通じて何の達成を望んでいますか?またそのインパクトはどのようなものでしょうか?

A: 我々の複雑系科学科は学科としては日本で最初のものですし,我々の上田教授はカオス現象の世界最初の発見者です.ですからこの学科は未来大の看板と言うことができます.

しかしながら,複雑系という概念は否定形を含まない文章で定義することができないことからもわかるように,実用的なシステムを構築するために使うことが困難です.複雑系は通常「より単純は部分に分割することによって全体を理解することができないシステム」というように記述されます.この概念は何に使えるのでしょう?新しい情報システムの研究方向にどのように影響するのでしょうか?私はこれらの問いを両学科に投げかけて,新しい共同研究テーマが生まれることを期待しています.これに成功したときに,この新しい研究分野において我々が世界一になれると考えています.

Q4: 学長として最も困難だった問題とその解決法について話してください.

A:

  1. 大学の運営を効率化すること:
    大学における意思決定と組織改変は迅速かつ高効率で行う必要があります.私は国立研究所の出身ですが,そこでは研究プロジェクトがチームによって遂行されていました.ところが大学というところは教授と呼ばれる一匹狼の集団です.大きな伝統のある大学では,伝統と確立された研究分野を守っていれば良いのかもしれませんが,我々のような小さくて新しい大学で,しかも情報科学という新しい分野を対象にしている場合はそうは行きません.

  2. #1を達成するために私が最初にしたのは,大学の教育・研究におけるトップレベルゴールを明確にし,それを達成するための実行可能なプランを作成することでした.

Q5: ビジネス,産業,政治,教育,マスメディアと消費者に対する情報科学の役割と影響ならびに技術の応用についての例をお願いできますか.

A: Amazon.comを例にさせてください.Webを店舗とすることによってAmazonは本の売り方を変革しました.しかしながら,買われた本は消費者の家まで届けられなければなりませんが,この部分(輸送)はあまり改善されていません.ボトルネックとなるはずです.IT(情報技術)が輸送システムにも適用され,その効率を改善するようになると考えています.

政治のあり方や教育の方法などにも変化があると思います.将来は物理的移動が減るという言い方ができると思います.たとえばCDを買うために店に行く必要はすでに無くなっています.曲をオンラインショップからダウンロードすれば良いからです.同様に本もダウンロードできるようになるでしょう.仕事や教育の場も在宅になると思います.

Q6: あなたの現在の役割における最大の難関は何ですか?

A:

問題1:より多くの予算を獲得すること.

解: 非常に困難.

問題2:より多くの学生を獲得すること.
我々の大学は新しく小さい大学で,しかも日本列島の北の島に位置しています.東京の有名大学のようになることは困難です.情報技術に興味を持つ高校生の興味を引くことが課題です.

解: 一つの解は入試のやり方を変えることですが,入試に関しては文部科学省の厳しい制約があり,我々の自由にできる部分はごく僅かです.変えることができる部分に関しても実施の2年前に報告が必要とされます.

もう一つの解は高校の先生方に情報技術と複雑系の考え方を伝えることです.

Q7: コンピュータ科学の分野へは具体的にどんな貢献を考えていらっしゃいますか?またそれをどのようにして実現される予定ですか?

A: 情報処理あるいはコンピュータ科学というのは比較的新しい研究分野であり,自然科学とは違った方法論と評価基準を持つものです.むしろ

  1. 自然現象を分析しているのではなく,
  2. コンピュータなしには実現できないような新しい現象を創り出そうとしている.
という意味で数学に近いものです. この分野の研究者だけでなく世間の人々がこの違いを認識し,ITとその研究を理解してくれることを望んでいます.そうしなければITで実現するより良い社会システムについて考えることができません.

Q8: 「コンピュータなしには実現できないような新しい現象」の例を挙げていただけますか?どのような応用を考えていますか?どのように使われ,日常生活にどのような変化を与えますか?

A: コンピュータは情報を処理する能力を持った最初の機械(無生物)です.コンピュータは人間に比べ,記号をより早く大量に処理する能力を持っています.その例は日常様々なところで目にしているはずですが,意識されていないかもしれません.典型的な例はアポロの月への飛行ですが,これはコンピュータの助けなしには実行不可能でした.同じ意味であなたの車も60個程度の車載コンピュータの助けなしには動かないかもしれません.

もう一つの例を挙げましょう.検索エンジンはインターネットが提供する莫大な情報の海から必要な情報を探し出すためのものです.現在の検索エンジンは候補のリストを提示してくれるだけです.次世代の検索エンジンは検索結果全体を見て,あなた用に1ページの要約を作ってくれるかもしれません.

更に別の例です.現在のアメリカではどうなっているか知りませんが,日本ではほとんどの車にカーナビが装着されています.第2世代のカーナビはVICSという通信システムを備えていて交通情報を取得し,渋滞を避けたルートを提示してくれます.しかしながら,このシステムは最適に近いものですらないことが分かっています.その原因は交通情報の与えられた時刻と実際に車がその地点に到達する時刻のずれです.もっと良い方法があります.すべてのカーナビは現在地点,目的地,そしてそこに至るルートの情報を持っています.もし都市内のすべての車がこの情報を共有することができたなら,過去ではなく未来の交通状況をシミュレーションによって予測することができ,それを元により早いルートを選択できるようになります.

Q9: 複雑系情報処理の新しい方法論は世界にとってどのような意味を持ちますか?インターネット,ビジネス,産業,政治,教育,マスメディアと消費者に対する影響は何ですか?

A: 複雑系の最大の特徴は予測不可能性にあります.そのためシステムを完全に制御することを諦める必要があります.インターネットの振る舞いも経済現象も完全には予測できません.従来の意味でこれらのシステムを制御することはできません.制御に限界があることの認識が新しいシステムを設計する第一歩となります. 新しいシステムが設計できないという意味ではありません.コンピュータの力を借りる新しいアプローチがいくつかあります.マルチエージェントシミュレーションや膨大なパラメータ空間を探索するための進化計算などが武器になります.

Q10: マルチエージェントシミュレーションの例を示していただけますか?また,進化計算はどのように優れているのでしょう?

A: 先ほど未来のカーナビの可能性についてお話しました.その有効性はサイバーアシスト研究センターでのマルチエージェントシミュレーションで実証されました.同時にフルデマンドバスという新しい交通システムの有効性についても実証しました.それによると,東京やニューヨークなどの大都市においてはすべてのバスは呼び出し(デマンド)によってのみ動く方が効率が良いことがわかりました.シミュレーションの力の源は大きな広範囲のパラメータ調べることができる点にあります.ニューヨークのような都市で大規模にフルデマンドバスの実証実験を行って失敗すると社会的に大きな損失ですから,成功がわかっていないと冒険できません.進化計算というのはそのような大規模な探索空間から最適なパラメータを探すのに効果的です.

Q11: 知識表現,推論そして認知科学におけるあなたの仕事について話してください.

A: 人間は置かれた状況に合うように思考方法を調節する能力に大変優れています.これは自動的に起こり,誰も自分たちのその能力に気づいていないように思われます.しかしながら,柔軟な推論を行えるプログラムを作ろうとすると,この状況を考慮する能力(これを思考の状況依存性と呼んでいます)を持たせるのは大変難しいことがわかります.どうやってよいか全く分からないのです.初期のAI研究ではこれは「フレーム問題」(McCarthy and Hayes1969)と呼ばれていました.

最近,東洋的世界観がこの問題の解決への鍵になるのではないかと考えています.これについては現在,認知科学や建築学の研究者と一緒に研究中です.

Q12: その新しいアプローチや研究中のアイデアについてもう少し話していただけませんか?東洋的世界観はどのように違うのですか?その要素は何ですか?

A: その答えは少し哲学的になってしまいます.「効率」や「要素」について聞いてはいけません.それらは西洋的な概念です.

あなたの質問に答えるには本を一冊書かねばならないでしょう.このイン タビューのような限られたスペースでは問題を単純化しなければ記述できない からです.でも,考え方の方向性だけは示せるかもしれません.我々が高層ビ ルやハイウェイなどの人工物を構築する場合の伝統的手法は,建設開始前に完 全に設計してしまうことです.コンピュータのプログラムもこのようにして作 られます.しかしながら,(知能などの)複雑系を動かす前に完全に設計でき るというのは幻想です.実際にはそれを構築し,その動作を観測し,仕様を変 更し,システムを修正あるいは再構築する必要があります.そしてこのプロセ スはシステムが動作している間中続けられる必要があります.システムが完成 することはありません.東洋的世界観は虫の視点を採ります.これはシステムに内在する視点です.一方,西洋ではシステムとは離れた客観的な鳥の視点を採ります.東洋的世界観によると,西洋的視点を必要とするシステムの完全な仕様記述はできないことになります.

Q13: マルチエージェントに関する仕事について話してください.

A: 日本には「三人寄れば文殊の知恵」という成句があります.英語では"Two heads are better than one" というのが同じ意味だと思います.英語の成句の方は並列計算におけるAmdahlの法則を満たしていて,N台のコンピュータの効率は,1台のコンピュータの効率のN倍より常に小さくなります.しかし,日本語ではN以上になりうると言っています.我々としては全体が部分の和を超えることのできるコンピュータアーキテクチャが欲しいと思って「協調アーキテクチャ」プロジェクトを始めました.この「協調」という単語は英語に対応するものがありません."cooperation"が近いのですが,それ以上の概念です.私の定義では「協調= conflict + negotiation + coordination」となります.

このプロジェクトでは様々なことを試みましたが,その一つにロボカップシミュレーションリーグ用のプラットフォーム作りがありました.他にはマルチエージェントシミュレーションの社会システムの設計への応用がありますが,これは後のサイバーアシストプロジェクトに引き継がれました.

Q14: ロボカップシミュレーションリーグについてもう少し説明してください.また,協調アーキテクチャで試みた他の例についても話してください.

A: ロボカップサッカーは日本で提案された競技会ですが,今や世界規模のイベントになっています.これは実機リーグとシミュレーションの二つのカテゴリーに分かれます.実機リーグはロボットの滑らかで機敏な動きに重点があり,シミュレーションリーグは戦略に重点があります.協調プロジェクトではシミュレータを提供するとともに,協調アーキテクチャに基づいたサッカーチームをプログラムしました.

ロボカップは後に拡張され,ロボカップレスキューを含むようになりました.レスキューにも実機とシミュレーションの二つのリーグがあります.レスキュー自体も工学的に大変興味のあるテーマです.救助作業の仕様を事前に完全に与えることができないからです.

Q15Q: 人工知能の現状はどうなっていますか?その方向性や,ビジネスと消費者に対する影響は何ですか?

A: ITの研究は,そのすべての分野において二つのフェーズが交代して現われます:技術要素が開発される基礎研究のフェーズと,実用的アプリケーションに向けて基礎技術を組み合わせる統合研究のフェーズです.両方のフェーズには固有の研究課題があり,互いに相手が必要です.統合研究によって要素技術の不足が明らかになり,その基礎研究を活発化することがあります.応用を意識しない基礎研究は些細な問題へと落ち込んでしまうかもしれません.

現在はAIとIT研究の両方が統合フェーズにあると考えています.10年前には「理論的」には解ける問題でも,コンピュータの計算能力が低かったため,実際には実用にならないほど小さな問題しか解けませんでした.コンピュータの高性能化により,同じアルゴリズムが実用規模の問題に適用できるようになりました.ユビキタスコンピューティングが盛んに議論されるようになったのもこの背景があるからですし,サイバーアシストプロジェクトも同じです.

Q16: 2020年頃にはどのような問題が解決していると思いますが?コンピュータの計算能力が人間を上回るのはいつごろだと思いますか?

A: 2020年というと今から10年以上先ですね.そのような未来を正確に予測することは不可能です.未来は予測するものではなく設計するものです.サイバーアシストプロジェクトの目的はそのような未来を設計することです.

Q17: サイバーアシスト研究センターでのセンター長としての仕事を教えてください.最も誇れるのはどの分野の仕事ですか?

A: サイバーアシスト研究センターは私がAISTに提案して受け入れられたものです.このセンターで実施されたサイバーアシストプロジェクトは日本におけるユビキタスコンピューティング関連プロジェクトの最初の一つです.プロジェクトに関して記述した私の論文から引用します:

現在のパソコンやインターネットといった情報処理の道具はいつも使いやすいとは限らない.特に初心者は講習を受けないとマスターできないことが多い.この状況を逆転するための新しい研究の流れが始まっている.MITのOxygenプロジェクト,マイクロソフトのEasy Living,ヒューレット・パッカードのCool Townなどが我々のサイバーアシストプロジェクト同様に新しい方向性を宣言している:ユーザから情報処理機械を隠しながら豊富な支援環境をユビキタスに提供すること.

サイバーアシストプロジェクトのゴールは,特別な知識や訓練なしに使える,人間中心の情報処理支援システム(知能ブースター)の開発である.同時に情報洪水やプライバシの問題を扱う.

我々の目標は情報のフィードバック制御システムを備えた未来の都市の設計図を示すことである.これはセンサーとアクチュエータそしてそれらを制御する情報処理システムから構成される.我々はこの意味で「サイバー」を用いており,「デジタル」の同義語としてのマスメディアによる使用とは異なる.

実際,我々は

サイバー = デジタル + リアル

と定義しており,サイバー世界とはデジタルな論理情報をリアルな物理世界にグラウンド(接地)したものであることを意味している.

我々は以下の二つの主目的を持っている:

  1. 状況依存の情報支援
  2. プライバシ保護.

これら二つの目的は互いに矛盾していることが多い.たとえば自分用に調整されたサービスを受けるためには,自分の好みや経験などの個人情報を先方に伝える必要がある.ここで重要なのは個人情報を制御するのがサービスを受けるユーザであって,サービス提供側ではないことである.そのためには通信自体は匿名で行われ,個人IDは必要に応じて通信の中身として伝達される仕組みが必要であると考えている.

上記の目的を達成するために我々は二つのアプローチを採る:

  1. 知的コンテンツ
  2. 位置に基づく通信.

通信手法とコンテンツは互いに関連しており,個別に設計されるべきではない.コンテンツをグラウンドするための重要な情報が(コンテンツの存在や利用等の)位置であると考えている.

プロジェクトの成果の一つにAimuletという無電源情報端末があります.これは2005年の愛地球博において,グローバルハウス(日本政府館)とロリー・アンダーソンの"Show and Walk"の2ヶ所で実際に使われました.
簡単な紹介は以下にあります:
http://www.realtokyo.co.jp/english/shikakenin/maeda-014.htm,
http://www.consorts.org/expo05/GHplus/en/outline-en.htm
http://www.aist.go.jp/aist_e/museum/science/14/14.html)
Aimulet LA は経済産業省から2006年度グッドデザイン・エコロジー賞に認定されています.

Q18: 「サイバーアシストプロジェクトのゴールは,特別な知識や訓練なしに使える,人間中心の情報処理支援システム(知能ブースター)の開発である」とありますが,この概念の他の実例を教えていただけますか?

A: 実際,このようなシステムを設計することは,たくさんの調整装置を持つ洗練されたデバイスを設計することより困難です.特別な知識なしに使えるシステムの好例は自動車です.車を運転するのにそのメカニズムを知っている必要はありません.ドライバーの知らないところでABSや精緻なエンジン制御が働いています.しかしながら,もし設計者が制御をドライバーにまかせようとしたら事態は変わります.新しいBMW 7シリーズのコンピュータシステムに関するマニュアルは500ページを超えると言われています.このようなわけで,素朴な車に相当する情報処理機器はなかなか見当たりません.ただ,携帯電話は二つの方向に分化して行くように思えます:(1)使いにくいが豊富な高機能を持つもの,と(2)使いやすい単純機能だけのもの,です.

知能ブースターは見つけるのが困難です.セマンティック・コンピューティングが実用化されるまで待つ必要があると思います.

Q19: 「情報洪水やプライバシの問題を扱う」とありますが,どのように行うのですか?

A: セマンティック・コンピューティングが答えの半分です.情報洪水に対処するには知的な検索エンジンが必要です.残りの半分はIDを使わない通信です.IPアドレスや電話番号のようなグローバルIDを通信の宛先に使っている限り,プライバシが危うくなります.我々は「位置に基づく通信」という,通信の受け手を指示するのに,IDではなく物理的位置を用いる方法を提案しました.その位置にいる人はプライバシを明かすことなくサービスを受けることができます.

Q20: 「我々の目標は情報のフィードバック制御システムを備えた未来の都市の設計図を示すことである.これはセンサーとアクチュエータそしてそれらを制御する情報処理システムから構成される.」ということですが,この方向のプロジェクトについて紹介してください.

A: 「ユビキタス・コンピューティング」,「パーベイシブ・コンピューティング」(アメリカ),「環境知能」などと様々な呼び方がありますが,それらのプロジェクトは皆この方向をめざしています.環境知能はEUのプロジェクトになっています.ユーザのコンテキストを認識するためのセンサーネットワークの研究開発も盛んです.

Q21: 「情報処理技術の社会応用」の未来像はどのようなものですか?

A: 皆さんがご存知のようにインターネットは我々の生活やビジネスのスタイルを変えつつあります.さらに,ユビキタス・コンピューティング技術が成熟し,測位や遠隔通信技術が発達すれば,我々の日常生活の様々な場面でより高度な支援システムを設計することができるようになります.

現存のシステムの効率を上げるだけではなく,ITなしでは実装できなかったような完全に新しい仕組みを考えることができます.

集団支援システムの考え方は社会インフラの設計と運用に対して多大な影響を与えるかもしれません.この新しい概念による社会の仕組みは社会全体だけでなく各個人に利益をもたらします.しかしながら,社会システムを設計するのは困難ですし,その実証実験を行うのは更に困難です.したがって集団支援システムの設計にはマルチエージェントシミュレーションが大変有効です.そのようなシミュレーションとして先にフルデマンドバスの例を挙げました.レスキュー・シミュレーションも良い例です.大規模災害というのは本当に稀にしか起こらないため,良いレスキュー戦略はシミュレーションに頼って作成する必要があります.デジタルシティ京都プロジェクトではそのようなシミュレーションが実験されています.これ以外にもシミュレータはレスキュー要員の訓練にも使えます.

この機会に2種類のITの違いについて話しておきたいと思います.ICTとIPTの定義についてです.インターネットは情報通信技術(Information Communication Technology = ICT)の例です.計算パワーは情報を別の場所に運ぶために使われます.ここでは,検索,フォーマット変換,暗号化と復号,圧縮と解凍などが行われますが,画像認識や言語理解のようにデータそのものの処理は行われません.情報を生成し,消費するのは両端にいる人間です.

一方,情報を生成・操作・理解するのがコンピュータ自身の場合には情報処理技術(Information Processing Technology =IPT)と呼ばれます.データマイニングはこの例です.コンピュータが人間には見えなかった情報を発見するわけです.Web 1.0ではICTが中心技術であり,Web 2.0ではIPTが中心技術であるとも言えましょう.

ICTは人間の活動を拡大します.インターネットは人々が,その居場所にかかわらず世界中の情報にアクセスすることを可能にします.この技術は我々の経済システムの一部を変えてしまいました.オンラインショッピングはその最たる例ですが,商品の貯蔵と運送は従来方式で行われています.ICTは重要ですが,社会システムを変えない限りその有効性には限界があります.IPTを使うことによって先に進むことができます.アメリカで検討されている,GPS測位システムによる航空機のフリー・フライトシステムはその例です.現在方式の航空管制とは異なり,各航空機はマルチエージェント技術による衝突回避を行いながら自由な経路を飛行することができます.ヨーロッパの自動車会社を中心に未来の交通・輸送システムの研究が始まっています.

Q22: 「コンピュータが人間には見えなかった情報を発見するわけです.Web 1.0ではICTが中心技術であり,Web 2.0ではIPTが中心技術であるとも言えましょう.」とありますが,Web 2.0の技術要素と方向性について語ってもらえますか?オンライン・コミュニティーやユーザによるタグ付けなどに対する関心が高まっています.

A Web 2.0 を定義するのは難しいですね.それは様々な働きをする多数のプログラムの結合体になっています.しかし,重要な共通要素は膨大な資源(CPUとメモリ,特にCPU)の活用です.blogや映像の共有はWeb 1.0の技術で実現可能と考えています.膨大な記憶媒体は必要でしょうが,CPUパワーはあまり必要としません.Wikiでは事情が若干違うかもしれません.現在のWikiは人間が編集していますが,近い将来にはコンピュータがそれを行うようになるでしょう.Webから自動的に情報を収集し,信頼性の低いものを除外し,人間が読めるようなWikiページを用意するのです.もちろん,最初は人間がタグ付けをしなければなりませんが,それすら半自動化できるはずです.たとえば写真を撮るときにGPSによる位置や方向の情報も自動的に獲得できれば写真にタグ付けできます.更には被写体や背景情報に関して,他のセンサから得られた情報を元に意味的な推論を行うことも可能でしょう.

Q23: 社会応用について説明してください.それらはどのように感じられ,聞こえ,見えるものでしょうか?ビジネス,政府,教育,そしてマスメディアにとってどのような好機が生まれますか?

我々のサイバーアシストプロジェクトでいくつかの描写を行いました.以下のようなものです:

Q24: それらのプロジェクトを発展させ,皆が使えるようにするにはどうすれば良いでしょう?たとえばセマンティックマッチングや世界的な文書共有とその共同オーサリングについてはどうでしょう?

A: 先に述べた例は互いに関連しています.世界的な文書共有は個人ナビのための情報源を提供します.それらが日常的に使えるようになるには,そのシステムが商業的にも成立する必要があるでしょう.しかしながら,現在のWeb上のサービスのビジネスモデルはほとんどが広告依存です.大きな資本を持つ企業だけが未来世界を席捲するのは健全とは言えません.それを避ける一つの手段は小額決済を実用的にすることです.1円やそれ以下の単位の金額をそれに応じたコストで徴収できるようにするのです.現在の日本ではそのための通信コストが高すぎて無理ですが.

Q25: 情報処理技術の負の側面は何ですか?

A: 特に固有の問題は見えていません.しかしもちろん,全ての技術はそれを悪用すれば負の要因になります.たとえば,子供たちを主にインターネットの世界だけで育て,他の子供たちと遊ぶのもデジタル世界上に限ってしまえば,子供たちの認知システムに悪影響を及ぼす可能性があります.子供たちには体の触れ合いが重要です.ときにはつかみ合いの喧嘩も必要です.外の自然に触れさせる必要もあります.

サイバーアシストのスローガンである「サイバー = デジタル + リアル」というのも上記を想定して創ったものです.ITは人間の自然との係わりを支援すべきものであって,その代替であってはならないと思います.

Q26: 情報処理学会(IPSJ)での役割と,そこで達成したいことを教えてください.

A: 私はIPSJにおいて研究担当の副会長として,研究会,出版,全国大会などのマネージメントをしています.

インターネットの発達による社会の仕組みの変化のため,すべての学会はその役割を見直す時期にきていると思います.20年前であれば,学会組織の支援抜きに研究者が国際ワークショップを開催することは無理でした.しかし今日では大きな国際会議から小さなワークショップまでインターネットを使ってオーガナイズできるようになって来ました.学会は新しい環境に向けて役割を変える必要があります.さらに,前にも言ったように,ITは実社会の問題を扱えるまでに成熟して来ました.IPSJは以前は研究者の閉じた学会でしたが,今後はITの社会応用も扱う学会になるべきだと考えています.

学会のこの方向への変革に私も協力できればと思います.現在取り組んでいることの一つは学会の出版物の印刷を無くし,オンライン化することです.2010年の学会創立50周年までには研究会での印刷資料も無くす予定です.

バンクーバーで開催されたIFIPのlarge society summitで,British Computer Societyの会長が「ほとんどのトップの意思決定者−政治,社会,企業を問わず−はITの可能性と限界の両方に関して驚くほど無知であり,ITへの期待は多くの場合全く非現実できである」と言っていました.このコメントは日本を含む多くの国に当てはまると考えます.情報処理学会はITの社会理解に向けての活動を開始しなければなりません.より多くの実務家の関心と会員を確保しなければなりません.さらに,大学や高校におけるIT関連科目のカリキュラムを変える努力をしなければなりません.

Q27: 情報処理学会により多くの実務家を入れる手段としては何を提案しますか?

A: 難しい質問ですね.IPSJでは一連の「ITフォーラム」活動を開始しました.研究会が研究者を対象としているのに対し,フォーラムは実務家を対象としています.ITフォーラムがIPSJの潜在的会員の注目を集めてくれることを期待しています.

IBMは「サービス・サイエンス」を提唱しています.個人的には,サービスサイエンスというのはIT製品のデザイン−構築−利用(サービス)−評価サイクルの研究対象にするものだと理解しています.その意味ではITフォーラムは研究者と実務家が集まってサービスサイエンスについて議論する場とも言えるでしょう.

Q28: 高校や大学のITカリキュラムをどのように変えようとしていますか?

A: これから述べることはまだ議論中で確固としたアクションプランにはなっていません.日本では高校の必修科目として情報が何年か前に導入されました.しかしながら,教科内容を見てみるとITリテラシー(コンピュータシステムの使い方)の表面的なものが多く,情報という概念の深い理解をめざすものではありません.我々の世界を情報とその処理という観点から眺めるということは,世界を物質やエネルギーの観点から眺めることと対等な別の方法です[Cf. Jannette M. Wing: "Computational Thinking" CACM Volume 49, Issue 3 (March 2006)].この計算論世界観をコンピュータ科学専攻ではない大学生や高校生に教えることは大事だと考えます.情報処理学会あるいは未来大学がこの方向への一歩を踏み出せると良いと考えています.

Q29: 中島さんたはMITの大学院で学んでおられますが,そこ頃のことや,どのような革新的なことを行ったかを教えてください.

A: 私にとってMITが最初の海外経験でした.アメリカの第一印象は,そこでは自由に振舞えるというものでした.日本ではたとえば年上には敬語を使わなければなりません.会話を始める前に誰が自分より年上かを見極める必要があるのです.私にはアメリカでの生活の方がマッチしているように思えました.しかしながら,しばらくすると,自分が日本文化の下で育てられ,日本的世界観が体の奥底にまで染み込んでいることを認識するようになりました.それ以来,私の仏教的世界観を大事に研究をしてAIプログラムを書くようにしています.

哲学の重要性はMITで学びました.東大でのAI講義は技術的な内容ばかりでしたが,MITではかなりの時間が知能の性質に関する哲学的問題に割かれていました.

当時の私の研究テーマは論理プログラミングでした.ところで,論理プログラミングというのは日本の第五世代コンピュータプロジェクトの中心技術でした.論理型言語Prologの概念は欧州(フランスとイギリス)で発明されたものです.私がMITを訪れたときには,そこではPrologの成功は知られておらず,私が最初にMITにPrologを紹介したことになります.

Q30: MITでのBrooksやMinskyとの仕事の話をしてください.

A: 私がMITに行った1978には,MITでさえ計算機環境は現在と比べると貧弱なものでした.AIラボのネットワークには少数の端末しか繋がれていませんでした.私のような訪問学生が昼間に使える端末を見つけることは困難でした.しかし5時を過ぎると多くの教授たちが帰宅し,そのオフィスが学生に開放されます.私はMinskyの秘書と仲が良かったので,夜には彼のオフィスの端末を使うことが多かったとお思います.

Brooksはその頃まだMITには居ませんでした.しかし,後になって彼が日本に来たときに知り合うようになりました.カラオケにも一緒に行きました.サイバーアシスト研究センターが立ち上がったときには,彼に外部アドバイザーになってもらいました.

Q31: 未来のインターネット環境についてビジネス界が知っておかねばならないことは何ですか?その影響やビジネスチャンスは何ですか?また,どうしてビジネスにとって大事なのですか?

A: 最近Web 2.0が話題に上ります.これはインターネットとコンピュータ 技術の新しい利用法への良い一歩だと考えています.しかしながら,決して 完成に近いものではありません.ITはより多くの可能性を秘めています.一つの例は(キーワード検索に対比する)意味検索エンジンです.前にお話ししたように,インターネットはICTの応用例として始まりました.Web 2.0ではIPTが中心になっています.その次に来るのはセマンティックコンピューティングだと信じています.これがビジネスにどう関係するかですって?それは読者の想像力次第と申し上げておきましょう.

もう一つの大きなIT応用分野は輸送です.アマゾンが販売の仕組みを大きく変えましたが,その最終段階つまり商品を家庭に届ける部分は従来通りです.IPTが近い将来にこれを大改革し,よりエネルギー効率の良い輸送システムができると信じています.

Q32: このインタビュー記事の読者には様々な分野やバックグラウンドの人がいます.その人たちに向けてセマンティックコンピューティングやセマンティックサーチ(意味検索)についてもう少し詳しく説明いただけますか?それらの応用は何ですか?

A: 私は1990年代にスタンフォード大学に頻繁に訪れていました.その頃に隣のMenlo Park市にあるSRI Internationalの近くの良いレストランを知りたいと思いました.そこで「レストラン」「近く」「SRI International」というキーワードで検索してみました.そうすると何と「Sri-Lankaの国際(international)空港近くのレストラン」が引っかかってきました.これがキーワード検索の限界です.キーワード検索を効率良く行うにはコツが必要です.しかし,意味検索であれば簡潔な文章で"List restaurants near SRI International"のようにタイプすれば良いのです.映画ではこのような場面が良く見られると思います.意味の記述からその単語の方を探すこともできます.

Q33: 現代の組織やビジネスが直面している最大の問題は何ですか?そしてあなたの推奨する解決策は?

A: 問題点: 最大の問題点は「組織」というものの持つ役割や意味が変わりつつあることです.組織の役割は人を繋ぐことでした(組織の外部と内部の両方).組織内構造はより単純化され,また可塑性に富んだものになって行くでしょう.可塑性には,個々の任務に対してその場限りの最適チームを編成するということが含まれます.このような組織形態は,以前では運営コストが高すぎて実現不能でしたが,コンピュータの制約充足能力(様々な条件を満足する解を見つけ出す能力)を使えば効率良く実現できます.同じ仕組みを組織間のチーム構成に使えば,いわゆるバーチャルカンパニーが実現できます.

解決策:流れより先に計画すること.

Q34: この質問はあなたの直前の答えに関係します.マッシュ・アップ(mash-up)やアンカンファレンス(unconferences)ついてどう考えますか?

A: 「マッシュ・アップ」というのは芸術の世界でも使われますが,ここではアプリケーションの斬新な組み合わせという意味に理解します.マッシュ・アップをサポートするための効果的な情報技術を知りません.しかし,すぐにそういったものが出現するでしょう.オブジェクト指向プログラミングはシステムの組み合わせを容易にします.現在研究されているアスペクト指向プログラミングは近い将来これに取って代わるでしょう.

私が参加したりオーガナイズしたりする会議では,国際・国内を問わず, 口頭発表とポスター発表の定義が変わり,それらの区別が消えつつあります. 従来は,口頭発表は質の高いフルペーパー用で,ポスターはそれより弱い短い 論文用でした.しかし,最近ではポスターセッションやデモを強調する会議が 増えてきました.発表者と聴衆の間に濃度の高いインタラクションが期待でき るからです.私の参加した日本のワークショップでは発表中に聴衆間でオンラ インチャットシステムを稼動させていた例もあります.二つのスクリーンを用 い,一つのスクリーンには発表内容が示され,もう一つの方ではチャットが展 開されていました.聴衆はチャットで意見を交換したり質問をしたりしていました.余裕のある話者がこれに応えることもありました.

Q35:ITにおける技術者不足についての意見をください.それはどれくらい深刻ですか?原因と解決策は何ですか?

A: 海外での事情はあまり知りませんが,日本では深刻です.多くのソフ トウェアはインドや中国といった海外のプログラマに依存しています.こう なった原因は,私見ですが,日本の大企業のトップの判断にも一因があると思っています.10年くらい前までは経団連は海外のプログラマの方が安価であるから,国内でのソフトウェア開発は不要だと宣言していました.システムのデザインとそのプログラミングを混同していたのだと思います.良いシステムをデザインするためにはITに関する深い知識が必要です.嬉しいことに経団連は最近意見を変えて,十分な数のソフトウェア技術者が大学から育っていないと言ってくれています.実際,日本の大学には十分な数の情報技術者を輩出するための学科が不足しています.いずれにしても,文部科学省が最近これを受けて高度IT技能を持った学生を養成するためのプロジェクトを開始しました.

Q36: コンピュータ技術分野でのキャリアを目指す人にとって,そこで成功するための秘訣は何でしょうか?

A: 大きな社会的システムを含むソフトウェア産物には物理法則が適用されません.スケールフリー・ネットワークが良い例です.この性質は情報ネットワーク上でしか存在しえません.道路網のような物理的ネットワークは物理的制約のためスケールフリーにはなりえません. もし良いシステムを想像できれば,それはITで実現可能なのです.情報アーキテクトにとっては想像力が鍵なのです.

Q37: 「セカンドライフ」と呼ばれる新しい人気フォーラムと言うか仮想世界があります.この仮想世界で会議をしたり商売をしたりできます.大学のキャンパスさえ存在します.このような世界(http://secondlife.com/)についてどう考えますか?

A: それが大変面白い場所だと思っています.それは人間の想像力の強さの証でもあります.仮想世界での生活は実世界と同様あるいはそれ以上のリアリティを持っているのでしょう.私はSFファンですが,私の好きな小説の"Snow Crash"がそのような世界を記述しています.

しかしながら,私自身は現実の生活が忙しく,しかも大変気に入っているのでもっとこちらでの時間が欲しいと思っています.オートバイに乗り,車の運転をし,飛行機の操縦するパイロットでもあります.現在ボートライセンスにも挑戦中です.

最後に: これからも中島さんのコンピュータ分野に対する貢献を見守りたいと思います.このインタビューのために割いていただいた時間と知恵と深い洞察に感謝します.

A: こちらこそありがとうございました.極東から世界に向けて私の意見を発信する場を作っていただいて感謝しています.

  

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