知覚

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このページでは、知覚の発達を中心とした、乳児に関わる認知心理学について紹介しています。

知覚を大まかに視覚、聴覚、共感覚という3つのトピックに分け、簡単に解説しています。「発展編」「応用編」では、少し難しい表現にはなりますが実験についてもやや詳しく解説していますので、興味があればぜひご覧ください。

必ずしもすべての赤ちゃんに当てはまる話ではありませんが、ひとつの例として参考にしてみてください。

まとめたPDFはこちらからダウンロードできます。


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1. 赤ちゃんの見る!

 1.1 赤ちゃんはどうやってものを見るの?

 1.2 発展編!赤ちゃんは見たものを覚えているの?

 1.3 発展編!赤ちゃんの「見る力」はどうやって調べるの?

2. 赤ちゃんの聞く!

 2.1 赤ちゃんはわたしたちの話を聞いているの?

 2.2 発展編!赤ちゃんは「見る」のと「聞く」のどっちが得意なの?

3. 赤ちゃんの感じる!

 3.1 応用編!赤ちゃんは複数の感覚を共有することができる!


1. 赤ちゃんの見る!

赤ちゃんがものを見る力は、どのくらいあるのでしょうか?
赤ちゃんの目は発展途上です。しかし、ものを見るプロセスや、見たものを判別する力はかなり完成されています。

赤ちゃんがどんなものを見て、理解できているのか、赤ちゃんと触れ合う時に意識してみませんか。赤ちゃんに見せたいものや知って欲しいことが増えるかもしれません。


1.1 赤ちゃんはどうやってものを見るの?

赤ちゃんがどんな風にものを見ているか、何を見たいのか、不思議に思ったことはありませんか?
大人は何を見るかを、自ら選択することができます。では、赤ちゃんはどうなのでしょうか。

何か見たいものがあったとき、人間は目の動きをコントロールする必要があります。
では、赤ちゃんはどのようにして、自分が見るものを決められるようになるのでしょうか。

ゴスワミによると、乳児は生後3ヶ月頃から自分の目の動きをコントロールできるようになります。
乳児に見える世界は動的で、移り行く視覚情報をコントロールするためには視覚的出来事(次に何が見えるか)を予期する必要があります[1]

ゴスワミは、ハイスらの研究を紹介しており、ハイスらは乳児が視覚的出来事を予期することで、目の動きをコントロールできるようになることを示しています。
どんなものを見るか、どんなものが見えるか予想できるようになることで、乳児は自分の行動を組み立てることができるようになるのです(Haish, Hazan, & Goodman, 1988をGoswami, 2003から引用)[1]


1.2 発展編!赤ちゃんは見たものを覚えているの?

赤ちゃんは見たものを覚えたり、違いを理解することはできるのでしょうか?
ゴスワミによると、赤ちゃんは見たものの特徴を記憶し、判別することができます。
赤ちゃんは以前見たものの形、色、大きさを記憶することが可能です[1]

ゴスワミはブッシュネルらの実験を紹介しています。ブッシュネルらは、生後3週児と生後6週児を対象に、単純な記号を一定期間記憶できるかどうか調べるテストを行いました。
実験では、予め対象の乳児に対し、下の図のような「黄色い円」などの単純な図形を定期的に見せ続けます。
その後、乳児に対して予め見せ続けた見慣れた図形(例えば黄色い円)と、同じ形で色が異なる図形(赤い円)、色は同じで形が異なる図形(黄色い四角)、色も形も異なる図形をランダムに見せます。
このように色や形を少しずつ変えた図形を見せることで、乳児が何を判断できているのか(色なのか形なのか)を把握することができます。

結果としては、乳児は見慣れた図形と、見慣れない図形の違いを判断できているようでした(Bushnell et al., 1984をGoswami, 2003から引用)[1]
このことから、乳児は一定の期間、見たものについての記憶を保持できることがわかります。


また、赤ちゃんはあるものを一度見たものかどうか判断することができ、目新しいものの方を好む傾向があります。

ゴスワミは、コーネルの実験を紹介しています。コーネルは、生後5~6ヶ月の乳児について、再認記憶の研究を行いました。
まず、乳児に幾何学的な図形の絵や、人の顔写真を20秒間見せます。その2日後に、以前見せた絵と初めて見せる絵を乳児に見せ、どちらの絵を長く見続けるか調べます。
この際、ごく短時間ですが以前見せた絵を確認させる時間を設けています。乳児がこの時間の内に絵を記憶するということはありませんでした。

乳児は初めて見せた目新しい絵の方を長く見つめるという結果になりました。
乳児は、2日間絵を記憶し、見たことのある絵かそうでないかを判断できているのです。さらに、初めて見る絵の方を好んで見るということもわかりました(Cornell, 1979をGoswami, 2003から引用)[1]


1.3 発展編!赤ちゃんの「見る力」はどうやって調べるの?

ここまで、赤ちゃんを対象とした実験をいくつか紹介してきました。
赤ちゃんに、見たものを判別する力があるかどうか調べるとき、心理学的に用いる手法があります。
少し難しい話になりますが、発展編として、実験の手法について説明します。

視覚的選好法:
ゴスワミによると、ファンツが用いた視覚実験の手法のひとつに、視覚的選好法というものがあります(Fantz, 1961をGoswami, 2003から引用)[1]

ゴスワミによると、この視覚的選好法は、乳児があるものを識別できるかどうか調べたい時に用います。
まず、2つのもの(心理学では「刺激」といいます)を用意します。
2つの刺激を乳児に見せ、どちらの刺激をより好むか調べます。
どちらかの刺激を好む場合、乳児は刺激の違いを判別し、刺激を識別できていると証明できます[1]

しかし、これは不完全なものであり、よい結果が得られなかった場合に以下の順化法を使うことがあります。


馴化法:
ゴスワミによると馴化法では、乳児があるものを識別できるかどうか、「馴化」と「脱馴化」を使い分けて調べます。
乳児に対してひとつの同じ刺激を提示し続けると、乳児の注視時間(同じものを見続ける時間)は減少します。これを馴化といいます。
つまり同じものを見ることに飽きてしまうのです。

このとき、乳児に対して新しい刺激を提示すると、注視時間が増加することがあります。これを脱馴化といいます。
つまり新しい、見たことのないものだと認識できているのです。
この脱馴化が起こったとき、乳児は最初に提示されていた刺激と新しく提示された刺激を識別することができているとわかります[1]

ゴスワミはスレイターらが行った研究を紹介しています。スレイターらはこれらの馴化法と選好法を同時に使って、新生児が十字と円を識別できることを示しています(Slater, Morison, & Rose, 1983をGoswami, 2003から引用)[1]


2. 赤ちゃんの聞く!

わたしたちは、赤ちゃんと触れ合うとき、赤ちゃんに話しかけたり、歌いかけたりします。
そんなとき、赤ちゃんがきちんと聞いてくれているのか、気になりませんか?赤ちゃんの「聞く力」に注目して、赤ちゃんとのコミュニケーションを考えてみましょう。


2.1 赤ちゃんはわたしたちの話を聞いているの?

わたしたちが赤ちゃんに話しかけるとき、わたしたちの話は赤ちゃんにきちんと聞こえているのでしょうか。

呉によると、大人が赤ちゃんに話しかけるとき、大人は自然と赤ちゃんが聞き取りやすい話し方をするとされています。
これをマザリース(母親語、乳児向けの話し方とも)といいます。話しかける音声を録音して分析すると、基本は高い声(400ヘルツ程度)を中心とし、抑揚の大きな話し方であるとわかります。これは日本だけではなく、海外でも同じです[2]

そして、マザリースは赤ちゃんの関心をひくようです。

呉は、ファーナルドが行った実験を紹介しています。
生後4ヶ月の乳児を対象に、カメラで乳児の頭の動きを確認する実験です。
乳児の右側と左側に設置したスピーカーのどちらかから、マザリースか大人向けの話し方のどちらかの音声を聞かせます。次に、反対側のスピーカーから、最初に聞かせなかった方の音声を聞かせます。
この実験のセットを計15回行い、乳児がマザリースの流れるスピーカーの方を向いた回数を数えます。
結果として、マザリースの方を見る回数が15回の半分である7~8回を超える赤ちゃんが多く、赤ちゃんはマザリースに関心を持ちやすいことがわかりました(Fernald, 1985を呉, 2009から引用)[2]

赤ちゃんは、大人が自分に話しかけていることを聞き、興味を持つことができます。
そして、大人は赤ちゃんの注意をひく話し方を自然と再現することができるのです。


2.2 発展編!赤ちゃんは「見る」のと「聞く」のどっちが得意なの?

赤ちゃんは「見る」ことと「聞く」こと、どちらが得意なのでしょう。
どちらが得意かわかれば、赤ちゃんの興味を引きたい時にどんなことをするか決めるポイントにできるかもしれません。

呉によると、大人は「視覚人間」といわれています。「視覚人間」は「見る」方が得意です。
逆に乳児は、「聴覚人間」といわれています。「聞く」方が得意な子が多い傾向があります[2]

呉は、ロビンソンらが行った実験について紹介しています。
実験の対象は生後8~16ヶ月の乳児です。
乳児に音と図形のセットを同時に見せたり聞かせたりし続けると、乳児はその音と図形に慣れて、飽きてしまいます。
これを「馴化する」といいます。

順化の後、乳児は図形から目を離したりし始めます。
そこで、音と図形のどちらかを新しくすると、乳児はまた図形を見つめ始めます。
この時、音を新しくしたときと図形を新しくしたときの乳児が図形を見つめる時間を比べてみると、音を新しくしたときの方が長いことがわかります。
さらに、どちらも変更したときと音のみ新しくしたときの時間は変わりません(Robinson & Sloutsky, 2004を呉, 2009から引用)[2]

これらのことより、乳児は図形などを見るより、音を聴く方に興味を持つことがわかります。つまり、赤ちゃんは「聞く」ことを優先しているのです。


3. 赤ちゃんの感じる!

赤ちゃんは、大人と同じくしっかりと五感を備えています。
ここまで、視覚と聴覚について紹介しましたが、赤ちゃんはまだまだ色々な感覚を持っています。


3.1 応用編!赤ちゃんは複数の感覚を共有することができる!

応用編として赤ちゃんの感じ方のひとつ、共感覚について紹介します。

呉によると、赤ちゃんはひとつの感覚(例えば触覚)で得た情報を、他の感覚(例えば視覚)の情報として捉えることができます。
例として、赤ちゃんが口で得た触覚の情報を視覚情報として捉えている事例を紹介します[2]

呉は、メルツォフらが行った実験を紹介しています。実験では、生後1ヶ月の赤ちゃんに、以下の図のような表面がツルツルとしたおしゃぶりと、ボコボコとしたおしゃぶりのどちらかを「見せずに」咥えさせます。

その後、赤ちゃんに2つのおしゃぶりを見せてみると、多くの赤ちゃんが自分が咥えていた方のおしゃぶり注視します(Meltzoff & Borton, 1979を呉, 2009から引用)[2]

赤ちゃんは口で得た触覚情報から視覚情報を得ており、2種類の感覚を共有することができているとわかります。


参考文献

[1] Usha Goswami 著, 岩男卓実, 上淵寿, 古池若葉, 富山尚子, 中島伸子 訳(2003) 子供の認知発達. 新曜社.

  • Haish, M. M., Hazan, C., & Goodman, G. S (1988) Expectation and anticipation of dynamic visual events by 3.5-month-old babies. Child Development, 59, pp.467-479.
  • Bushnell, I. W. R., McCutcheon, E., Sinclair, J., & Tweedie, M. E.(1984) Infant' delayed recognition memory for clour and form. British Journal of Developmental Psychology, 2, pp.11-17.
  • Cornell, E. H.(1979) Infant’ recognition memory, forgetting and savings. Journal of Experimental Child Psychology, 28, pp.359-374.
  • Fantz, R. L.(1961) The origin of form perception. Scientific American, 204, pp.66-72.
  • Slater, A. M., Morison,V., & Rose, D.(1983) Perception of shape by the newborn baby. British Journal of Developmental Psychology, 1, pp.135-142.

[2] 呉東進(2009) 赤ちゃんは何を聞いているの?:音楽と聴覚からみた乳幼児の発達. 北大路書房.
  • Fernald, A.(1985) Four-month-old infants prefer to listen to motherese. Infant Behavior and development, 8, pp.181-195.
  • Robinson, C. W. & Sloutsky, V. M.(2004) Auditory dominance and its change in the course of development. Child Development, 75, pp.1387-1401.
  • Meltzoff, A. N. & Borton, R. W.(1979) Intermodal matching by human neonates. Nature, 282, pp.403-404.

菊入悠佳