Bグループ 幼児の発達心理学

 
  利き手は矯正した方がいいのか?

 ここでは利き手の矯正について、脳科学の観点から考察します。

 1. 概要

   私たちが生活を送る上で、無意識ながらに利き手の問題は多く存在します。歯を磨く動作やペンで文字を書く動作等、あまり意識はしませんが目的達成のために行動する際、その負担は左右どちらかに偏ります。現在、日本では総人口のおよそ90%が右利きで10%が左利きと言われています。では、そもそもなぜ利き手は存在するのでしょうか。実は、利き手には脳の構造が関係しているのです。

 2. 調査内容

   
近年のCT, MRIの発展で、利き手と脳の関係は明確になってきています。私たちの脳は大きく左脳と右脳に分けられており、人それぞれ大脳優位性(動作を行う際に主に使っている方の脳)が決まっています。特に言葉を話す機能を司る脳(言語脳)は圧倒的に左脳が多く、右利きの人は約95%、左利きの人は約65%が左脳を言語脳としています。反対に言語脳が右脳の人は、右利きの人でおよそ5%、左利きの人は20%となっており、左利きの人の約15%の人は、左右脳どちらも偏りなく言語機能を司っていることがわかっています[1]

 3. 考察

    調査内容から、右利きの人は左脳に強い優位性が見られました。また左利きの人は、一概に片方の脳が突出して言語脳として優位であるとは言えないため、右利きの人の脳構造とは明らかに異なっていることがわかりました。

 4. 結論

    脳と利き手に強い関係性があることを踏まえると、無理に利き手を矯正することはしないほうがいいでしょう。林(1998)らの報告では、右側優位の麻痺による4歳11ヶ月の女児における左利き状態を右利きに矯正する過程で、鏡像書字が悪化したという例が挙げられています[2]。子どもにとって利き手の矯正は、神経系矛盾が生じてしまう可能性や、矯正過程のストレスが多いため、無理な矯正につながらないように理解を深めることが大切です。

                                                               (文責 藤代)

参考文献
[1] 平山恵造, 出川皓一(2013):「脳卒中の神経心理学」, 医学書院, pp63-66.
[2] 林隆, 竹下研三(1998):「利き手の矯正と書字の誤り」, 脳と発達, 20:191-194