実験経済学とは何か

 例えば物理学のように実験室での繰り返し実験が可能な経験科学と異なり、 経済学では対象に再現性がない。物理学で行うような、制御された環境のも とでの実験は、経済学では当然不可能であると考えられてきた。ところが、 現在主流の学会誌では実験経済学と題する研究論文の掲載が無視できないほ ど増えてきている。このような実際の人間を被験者にして実験室のなかで経 済理論を検証する実験経済学は、今日非常に重要な研究分野になっている。
 実験経済学の実際は次のように行われる。まず検証したい経済理論に必 要な環境を注意深く実験室内に設計し、学生などを被験者として、その環境 内で実験を行う。優れたパフォーマンスを示した者には適切な報酬を貨幣で 与えることにより、インセンティブをひきだす。補助手段としてコンピュー タやネットワークを用いることもある。
 こうした実験経済学は、1940年代末に行われたチェンバリンによる市 場実験がその初期の代表例といわれる。今日では、経済学における実験は、 市場均衡、囚人のジレンマ、期待効用理論、オークション、公共財供給など、 非常に広い範囲で行われている。
 では、実験経済学における観察事実として、どのようなことがわかってき たのだろうか。まず、市場における均衡価格の実験では、かなり少ない人数 でも理論が予想する均衡価格に早い段階で収束することがわかっている。ま た、オークション実験では、参加者はナッシュ均衡よりも高めの価格を提出 する過剰評価が現れることなどが知られている。公共財実験では、タダ乗り が生じるために不可能とされてきた公共財の自発的供給がみられるなど、従 来の経済理論では予想されていなかった興味深い結果が得られている。
 こうした実験から得られた知見をもとに、新しい理論を創出しようという 試みもなされ始めている。これらの研究は限定合理性の研究とも重要な関連 性を持っている。


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