北海道障害学研究会 2007.12.10 於:公立はこだて未来大学
障害者生活実態調査:就労に関する部分について
立教大学コミュニティ福祉学部 遠山真世
T 回答者の就労実態
<調査概要>
実施主体:障害者生活実態調査研究会(主任研究者:国立社会保障・人口問題研究所 勝又幸子)
調査時期:第一回(東京都稲城市):2005年、第二回(静岡県富士市):2006年
調査対象:18〜64歳の障害者
・身体障害者・知的障害者:障害者手帳保持者から無作為抽出
・精神障害者:生活自立支援センターや授産施設などを通じて紹介
調査内容:
・本人および家族の属性や障害の状況、就労の状況
・本人の所得や課税、支出の状況、医療の受療状況、支援費の受給状況、生活時間
回収状況:
<回答者の就労実態>
分析範囲:20代〜50代
性別・障害種別・障害程度・世帯類型→仕事の有無・仕事上の地位・仕事による収入
データの基本特性
仕事の有無
*一般:平成14年 就業構造基本調査(総務省)
小括:一般との差、男女差、障害種別・程度による差
身体障害=一般に近いパターン(生殖世帯・男女差あり)
知的障害・精神障害=特殊なパターン(定位世帯・男女とも仕事)
仕事上の地位
小括:障害種別による差が大きい(知的障害・精神障害=福祉的就労)
障害種別・世帯類型・働き方に結びつき
身体男性=生殖家族・単身世帯=常用雇用、身体女性=生殖家族=常用・臨時雇用(・主婦)
知的障害=定位家族・グループホーム=福祉的就労
精神=定位家族・単身世帯=福祉的就労・臨時雇用
仕事による収入
小括:男女差、障害種別・程度による差
福祉的就労で低収入
常用雇用で身体障害>知的・精神障害、知的・精神障害で常用雇用≒臨時雇用
仕事上の地位よりも、障害種別の影響が大きい?
仕事なし
小括:障害種別による差が大きい
身体障害で選択の幅が広い
知的障害=家で過ごす、精神障害=仕事へ
まとめ
・障害の有無、性別、障害の種別・程度があらゆる側面で影響
一般>障害男性>障害女性、身体障害>知的・精神障害、非重度>重度
・障害種別により働く場・収入・世帯類型がパターン化
身体障害=常用=高収入=生殖家族
知的・精神障害=福祉的就労=低収入=定位家族
U 障害の「責任モデル」?
調査分析から:障害が就労にさまざまに影響し、格差をもたらす
どう解決するか?
障害学の成果:
・障害の「社会モデル」:インペアメント/ディスアビリティ
・労働市場の発展=障害者の排除
・「差別」の特定→差別禁止法
障害福祉研究の成果:
・諸外国の障害者雇用政策の紹介、差別禁止法の検討
→割当雇用の強化、保護雇用の実施、差別禁止法の導入
差別禁止による「機会平等」か、雇用保障による「結果平等」か
能力にもとづく雇用か、あらゆる障害者の雇用(能力によらない雇用)か
機会平等では不十分、重度障害者の問題
社会状況:能力主義、失業問題
完全雇用は困難→どこまでの雇用をどのように主張できるか?
すべての問題解決は困難→どこまで解決を主張できるか?どんな理屈で?
そもそも、何が問題なのか?
「障害」による問題とはどこまでか?なぜ問題だといえるのか?
「能力」から考えてみる
就労に関わる能力=仕事に必要な知識や技能、生後に習得する
能力はどのように習得されるか
習得の機会を得る、時間を費やす、集中する、意欲的に取り組む、がんばれば能力が伸びる
→採用試験で能力を発揮する・評価される
障害者の能力の習得・評価を妨げる要因
A:教育・訓練の機会が少ない
B:なかなか能力が伸びない(時間がかかる、集中力が続かない等)
C:評価場面で配慮がなされない(持てる能力を発揮できない、きちんと評価されない)
人一倍がんばっても…
→健常者との間に「障害」ゆえの能力差が生じる
→障害者が労働市場から排除される
→障害者の就業率が低くなる、賃金も低くなる
「障害」があるがゆえに、能力を習得・発揮できない=A・B・C(障害にともなう制限)
差別禁止が扱う問題=A・Cのみ。Bの問題が残される。
Bの問題を解決対象に入れるには?
従来の論理
・社会モデル:社会がつくり出した問題=社会の側が解決すべき
・障害福祉:あらゆる問題=社会が解決すべき
共通論理:障害者本人のせいではない=社会が解決すべき
本人に責任がない問題=社会が責任をもつべき
障害の「責任モデル」
・障害者に責任がない問題=「障害」ゆえの問題=A・C+Bを社会的に解決すべき
・「差別」+習得困難の問題
・作業効率が低い、理解に時間がかかる、集中力が続かない、長時間は働けない
→労働市場から排除される、賃金が低い問題の社会的解決
・解決対象とならない問題=努力による問題
「責任モデル」にもとづく政策
・障害による能力低下分を加算して評価する(差別禁止で)
習得困難分を配慮した能力評価
・障害にともなう制限の程度に応じた雇用枠(割当雇用で)
例:軽度身体障害・重度身体障害・軽度知的障害・重度知的障害
・政府による雇用保障(保護雇用で)
ただし、就業率が健常者と同じになるまで
「責任モデル」の利点
・機会平等以上、結果平等未満
従来の「差別」に加え、重度障害者の問題も同一モデルで解決
・いずれの政策を採ってもよい
解決される範囲は同じ
・どんな経済状況・社会状況でも実施できる