Q: 全称記号(∀)や存在記号の意味が(∃)よくわからな い.また,なぜ ¬(∀x)α = (∃x)¬αになるのかわからない.
A: 全称記号(∀)は,日本語で言えば「すべての」とか「任意の」という修飾 詞に対応し,英語で言えば "any" とか "all" を意味します.
具体例をあげます.
すべての動物は死すべき運命(mortal)にありますね.
すべての動物の集合をA として,「死すべき運命にある」ことを mortal() という述
語で表現するとしたとき,このことは次のように書けます.
∀x ∈ A mortal(x)
これは,「集合Aの任意の要素xに対して mortal(x)が成り立つ」と読みます. つまり,集合Aから要素を取り出してきたら,それがどの要素であっても mortal(x)が成り立つことを表しています.
次に,存在記号の例をあげます.
Nをすべての自然数の集合として,ある数が素数であることを prime() という述語であわ
らすこととします.
自然数の中には素数である数もあれば,そうでない数もあ
ります.ですから,∀x ∈ N prime(x) は成り立ちません(偽です).
でも,2,3,5,7,11,13というような数は素数ですから,集合Nの中には prime
述語を成り立たせるものが(全部ではないが)いくつか存在していることはわか
るわけです.このような事実を,以下のように書きます.
∃x ∈ N prime(x)
これは,「集合Nのある要素xに対して prime(x)が成り立つ」と読みます.存 在記号の場合,すべての要素ではなく,そういう要素が存在すると言っている わけですが,具体的にいくつあるのかは,それぞれの定義域と述語によります.
最後に,¬(∀x)α = (∃x)¬α についてです.
先の素数の例を使いましょう.上でも述べたようにすべての自然数が素数であ
るわけではありません.「すべての自然数が素数であるわけではない」
ということは「ある自然数は素数でない」ということと同値ですね.
これを論理式で書くと以下のようになるでしょう.
¬(∀x ∈ N prime(x)) = ∃x ∈ N ¬prime(x)
このように存在記号と全称記号は否定演算子により関係つけられているわけで す.
A:まず,含意の定義を真理値表でみてみましょう.
p q | p → q |
---|---|
T T | T |
T F | F |
F T | T |
F F | T |
おそらくわかりにくいのは p が F で q が T の場合に p → q が T になるというところだと思います. 含意は,q の真偽にかかわらず,前提の p が F ならば,p → q は T とするいう考え方(定義)です. これを説明するのに以下の ような場面を考えます.
例えば,「君が天才なら,僕はノーベル賞学者さ」 といったような文を考えてみます(これに類似の表現/修辞は日常生活 でもたまに使います.「お前が総理大臣なら,俺は神様さ」のような文もそう です).これは日常ではどういう場面で使うかというと, 「君が天才である」ことを強く否定する場合 です.
もちろん僕は自分がノーベル賞学者ではないことを知っていますから,「僕は
ノーベル賞学者さ」が偽であることを知っています.結論が偽であることが確
定している状況で「君が天才なら,僕はノーベル賞学者さ」という文を正し
い言明にするためには,君は天才ではないことが必要です.なぜなら,君が天
才なら僕はノーベル賞学者でなくてはいけないことになり,僕はノーベル賞学
者ではないので,その場合に僕は間違ったことを言っていることになってしま
うからです.
つまり,このような状況で「君が天才なら,僕はノーベル賞学者さ」というよ
うなことを言うということは,「君は天才ではない」ということを強く要求も
しくは望んでいるということが心理的背景にあるわけです.
このように,自分は正しいことしか言わないという立場では,「君が天才なら,僕
はノーベル賞学者さ」のような文は,前提の部分を強く否定するために使うわ
けです.q の真偽にかかわらず,前提の p が F ならば,p → q は
T というのもこれと同じような考え方からきています.
これに関連する話題を一つ提供します.含意の定義より,偽(矛盾)を前提とす る含意の論理式は真です.例えばある数学の体系があったとして,その体系に から p が真であり,かつ,¬p が真であることが証明されたとします.言い 換えれば,この体系では p ∧ ¬p が証明できることを意味します.これを, この体系が矛盾しているといいます.
p ∧ ¬p が成り立つのなら,この体系では,それを前提にもつあらゆる含意 が真,つまり定理となります.矛盾を含む数学の体系では,あらゆる定理が真 となってしまうわけです.そんな数学の体系は何の役にも立たないことはす ぐにわかるでしょう.
さらに,ある証明の結果,矛盾が導かれたときに前提に誤りがあったとして, その前提を否定する証明のテクニックが背理法 と呼ばれるものですね.