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モバイル鍵盤楽器

「次回はぜひ演奏を聞かせて」と頼まれて「そう言われても準備が…」と大きくて重い鍵盤楽器を恨めしく思うことはないだろうか?そういった問題を解決すべく,2つのモバイル鍵盤楽器を開発した.

 

モバイルクラヴィーア

モバイルクラヴィーアの外観 モバイルクラヴィーアは一見普通の鍵盤楽器のようだが,よく見るとなにか違う….そう,すべての白鍵の間に黒鍵が挿入されている(左図).この不思議な鍵盤構造と併せて,キートランスポーズ(鍵盤全体の音高を指定した分だけずらす)機能を利用することで,鍵数の少ない小型な鍵盤でありながら音域の広い曲をスムーズに演奏することができる.
キートランスポーズ小型の鍵盤で音域の広い曲を演奏しようとする場合,弾き進めていけば当然弾けない音が現れる.このとき,キートランスポーズを行なえば音域の問題は解決する.つまり,弾けない音が出現すれば,その都度キートランスポーズを行なって音域をカバーしていけば鍵数が少なくても音を繋いでいくことができる.しかし,通常の鍵盤でキートランスポーズを行なうと新たな問題が生じる.例えば,通常の鍵盤にキートランスポーズを行ない「ドの鍵」に「ラ」の音を割り当てた場合(左図上),黒鍵の音と白鍵の音の位置関係が崩れる.演奏者にとってこのずれによる違和感は大きい.また,どの鍵に何の音が割当てられているかを視覚的に判別できないという問題も生まれる.
モバイルクラヴィーアではすべての白鍵の間に黒鍵が存在するようにした.これで,通常の鍵盤同様に「ドの鍵」に「ラ」の音を割り当てるキートランスポーズを行なう(左図下).すると本来黒鍵のない位置にある黒鍵が新たな黒鍵の役割をし,白鍵と黒鍵の位置関係が崩れるという問題は簡単に解決できる.当然,必要のない黒鍵が出てくるが,これを「NULL鍵」と名付け,演奏中に役割がないことを視覚的に補うために,NULL鍵を白く,NULL鍵以外の黒鍵は青く光らせることにした.これで,通常の鍵盤と同様の感覚で演奏できるうえ,視覚的な問題も解決する.
開発してからわかった事だが,キートランスポーズに高度な技術の習得は必要ない.キートランスポーズの操作はキーボードに搭載されているスイッチやフット・コントローラで行なうのだが,「キートランスポーズのタイミング」と「キートランスポーズ直後の打鍵位置」を記憶する以外,既存の鍵盤技術をそのまま流用できる.鍵盤楽器に慣れている人であればほんの少し練習をすれば演奏できるようになる.

 

 

代表的な関連文献

竹川佳成, 寺田 努, 塚本昌彦, 西尾章治郎, ``追加黒鍵をもつ小型鍵盤楽器モバイルクラヴィーアIIの設計と実装,'' 情報処理学会論文誌, Vol. 46, No. 12, pp. 3163--3174 (2005年12月). PDF

Takegawa, Y., Terada, T., Tsukamoto, M., and Nishio, S. ``Mobile Clavier: New Music Keyboard for Flexible Key Transpose,'' Proceeding of International Conference on New Interfaces for Musical Expression (NIME 2007), pp. 82--87 (June 2007). PDF

竹川佳成, 寺田 努, 塚本昌彦, 西尾章治郎, ``音域分割機能をもつ小型鍵盤楽器モバイルクラヴィーアIIIの設計と実装,'' インタラクティブシステムとソフトウェアXII: 日本ソフトウェア科学会 WISS2004, pp. 65--70 (2004年12月).

竹川佳成, 寺田 努, 塚本昌彦, 西尾章治郎, ``追加黒鍵をもつ小型鍵盤楽器モバイルクラヴィーアIIの実装と評価,'' エンターテインメントコンピューティング2005論文集, pp. 49--54 (2005年9月).

 

ユニット鍵盤

ユニット鍵盤の外観 鍵盤の持ち運びの不便さを軽減する別のアプローチとして,1オクターブの鍵盤をレゴブロックのように上下左右に自由につなぎあわせることができるユニット鍵盤を紹介する.
構成例このユニット鍵盤の四方にはコネクタを搭載しており,直接でもケーブルを利用してでも接続できる.例えば,2つのユニット鍵盤を水平方向に接続すれば2オクターブの鍵盤楽器(右図-a)となり,垂直方向に接続すればエレクトーン型の鍵盤楽器となる(右図-b).また,左右あるいは上下に鍵盤を連ねることができるだけでなく,ユニット鍵盤間に仮想の鍵盤を挿入し,スライダを動かすことで両サイドのユニット鍵盤の音域の差を1オクターブから4オクターブまで変化させることができる(右図-c).このように,ユニット鍵盤は「必要な鍵盤だけを持ち運ぶ」簡便さだけではなく,鍵盤の構成を自由に組み替えられるという利点ももつ.さらに,新規に接続したユニット鍵盤に対し,接続先のユニット盤と矛盾を起こさない音高や音色を自動的に設定する機能ももっているので,演奏の途中でユニット鍵盤を離したり繋げたりしながら音域の広い曲を演奏できる.
モータユニットとの連携 新しいパフォーマンス1オクターブごとに分離されている特性を活かし,キーボードの音域が不足したとき他の演奏者と貸し借りを行なったり,自律的に移動させたりをパフォーマンスとして見せられる.また,センサと連携できる特性を活かし,加速度や地磁気センサを用いれば鍵盤をもつ姿勢や向きによって鍵盤設定を変更できる.動きに関連付けた鍵盤操作は,難しい操作のできない子どもなどが楽器の設定ができるというだけでなく,マーチングバンドなど方位や演奏姿勢によって音色や音高を変化させエンターテイメントの要素としても活用できるのではないだろうか.

 

 

 

代表的な関連文献

竹川佳成, 寺田 努, 西尾章治郎, ``さまざまな演奏スタイルに適応可能な電子鍵盤楽器UnitKeyboardの設計と実装,'' コンピュータソフトウェア(日本ソフトウェア科学会論文誌) インタラクティブソフトウェア特集, Vol. 26, No. 1, pp. 38--50 (2009年1月). PDF

Takegawa, Y., Terada, T., and Tsukamoto, T. ``UnitKeyboard: An Easily Configurable Compact Clavier,'' Proceeding of International Conference on New Interfaces for Musical Expression (NIME 2008), pp. 289--292, (June 2008). PDF

竹川佳成, 寺田 努, 西尾章治郎, ``UnitKeyboard: さまざまな演奏スタイルに適応可能な電子鍵盤楽器,'' インタラクティブシステムとソフトウェアXIV: 日本ソフトウェア科学会 WISS2006, pp. 89--94 (2006年12月).