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独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では突出したIT能力を持つ人材の発掘・育成を目的とする「未踏」事業を2000年度から実施し、2014年度までに1,600名以上のクリエータを輩出しています。「未踏」は国内の若手研究者・学生らが挑む、ITクリエータの登竜門ともいえる国家プロジェクト。公立はこだて未来大学の学生たちも革新的発想とテクノロジーをもって果敢にチャレンジし、これまで15件(クリエータ数25名)ものプロジェクトが採択されています(※実績一覧はページ下に掲載)。今回のFunBoxは、2014年度に採択された2名の学生の「未踏」チャレンジ体験録。単に成果を競うだけではなく、優秀かつユニークな仲間たちと過ごした刺激的な日々もかけがえのない経験だったようです。わくわくするような、日本のIT近未来をちょっと覗いてみましょう。(※インタビューは2015年3月に実施)

日々そのものが、“未踏”の領域

2014年度「未踏」に本学の学生が提案したプロジェクト2件が採択されたのは、2014年6月のことでした。1件は本多達也さん(当時修士2年、現在は大手メーカー勤務)の「髪の毛で音を感じる新しいユーザインタフェースの開発」(下記写真ONTENNA)、もう1件は友広歩李さん(当時学部4年、現在は修士1年)の「でこぼこキャンパスを用いた立体的な描画システムの開発」。

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ONTENNA公式サイトより

エントリーは2014年3月、その後一次審査(書類)、二次審査(プレゼンテーション)を経て、応募総数77件から採択候補が絞り込まれ、6月に14件の提案が難関を突破(うち2件が本学からの提案)。採択後は、約9カ月にわたるプロジェクト開発がスタート。今年の2月に開発成果をプレゼンテーション、3月に成果報告書を提出してプロジェクトを修了しましたが、その達成に至るまでの日々そのものが、まさに“未踏”の領域だったようです。IT界の巨人とも称される指導者たちからの示唆、日本中から集結したとてつもない才能たちとの出会い、その仲間たちとの絆と切磋琢磨。さらには本多さんのプロジェクトに修了後の評価として、抜きん出た逸材だけに与えられる「スーパークリエータ」の称号が授与されました。これは未来大初の快挙です。スタートからゴールまで、踏破した者にしか経験し得ないエキサイティングな日々を、お二人に振り返っていただきました。

本多達也さんの「ONTENNA」とは

――本多さんのプロジェクトについて、概要をお聞かせいただけますか?

(本多)僕の提案は、髪の毛を振動させて音をフィードバックする、新しい音知覚装置の開発です。聴覚障がい者、特に手話をコミュニケーション手段とするろう者の方は、音の大小、リズムやパターンなどの特徴を理解することが困難であることから、そこを解決するようなものを作りたかった。猫のヒゲが空気の流れを感じるような、人間の髪の毛が音を感じるための音フィードバック装置ですね。デバイスは、髪の毛にヘアピンのように装着し、音が発生すると髪の毛を揺らして、ユーザに音の特徴をフィードバックする。その微細な振動は、音の振幅によってリアルタイムに強弱を変化させます。さらに、光の強弱でも音をフィードバックすることで、周りの人たちとも音情報を共有することが可能になります。デバイス名は「ONTENNA(オンテナ)」。音のアンテナ、でONTENNAです。

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――腕時計型など、音をフィードバックする装置はすでに市販されていますが、違いは?

_MG_4231(本多)既存の装置ですと、ピンポンと音が鳴ると「玄関」、電話が鳴ると「電話」と表示されます。しかし、これだと記号的なインタフェースでしかない。どういう音の大きさなのか、どういうパターンで鳴っているのかは感知できません。ONTENNAを実際にろう者に使ってみていただいたのですが、音を感じてリズムをとったり、外で車が近づいてくる、遠ざかっていくというのもリアルに感知できるのです。同時に発光するというのもポイントです。周りの人との音情報の共有ということもありますが、ろう者がONTENNAに向かって声を出すと光るので、自分の声がちゃんと届いていると認識できます。普段は手話を使うので声は出さないけれど、ONTENNAを使うと声を出して光を認識しながら話ができるようになります。

――試作の段階では、実際にろう者に協力してもらったのですね。

(本多)僕が作ったというよりは、ろう者と一緒に開発した、と言ってもいいくらい。デザインはインクルーシブ(排除しない、包括的)であるべきと痛感した開発でした。デザイナーが一方通行で作り上げていったのでは、たぶん説得力のないデバイスになっていたような気がします。試作し、体感していただいて、レビューをもらって、また試作して、という繰り返しがあってコンセプトのしっかりとしたものが完成したと思っています。

「描いたスケッチの中を歩く」友広歩李さん

――友広さんが取り組まれた「立体的な描画システム」とは?

(友広)とにかくスケッチが大好きで、この「大好き」から、私の研究開発はスタートしています。民俗学研究者の今和次郎(こん・わじろう)さんのスケッチとの出会いがそもそものきっかけです。発見したことをメモするということにおいて、こんな描き方ができるのか、と感動。これをスケッチシステムにしてみたら面白いんじゃないかと思い、さらに野望はふくらみ(笑)、観察と発見が詰め込まれたスケッチのなかを歩いてみたい!と。平面スケッチが立体的になる、しかも視点移動もできる、そんなシステムを作ってみたかったのです。

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手法としては、RGBカメラ、深度センサ(Kinectなど)を用いて、描画対象を取り込み、それをもとに奥行き感のあるでこぼこのキャンバスを生成します。このキャンバス上にスケッチの線や面を描き入れるわけです。描かれたスケッチはキャンバス上に張り付く形で配置され、キャンバスを上下左右に傾けることでスケッチも一緒に移動し、視点を移動してスケッチを俯瞰できるようになります。スケッチの3D空間化で、まるでスケッチの中を歩くような気分です。正面から見えなかった横や上部などの描き込みも可能になるんですよ。

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これは函館市内にある旧イギリス領事館で撮ったものなんですけど、外観も構造もとてもきれいで、この中をスケッチで歩いてみたかったんですね。渡り廊下のところで2回写真を撮り込んで、手前が1枚め、奥でもう1枚。これをスケッチしてみると、中に入っていける。1枚のスケッチを描くのに、ほんの数十分。これだけでできちゃうので、ホントにお手軽な(笑)システムなんです。野望は達成できたんですけど(笑)、一人で使うとちょっと物足りない。今後はこれを世界中の人が使えるようなシステムにして、それぞれの空間をつなぎあわせてもらって新しい空間を作ってみるのも面白いかなと思っています。そんな未来空間を歩いてみたいですね。

プロジェクトマネージャー(PM)の存在

提案したプロジェクトは、全体合宿やグループ合宿、個別ミーティング、クループミーティングなど、効果的なタイミングでプロジェクトマネージャー(以下PM)による指導が行われます。PMは、高い技術力と強力な個性を持ったクリエータを採択し、プロジェクトの貫徹まで寄り添い、自身の知見を結集して指導を行う教官的存在。日本の産学の第一線で活躍するそうそうたるメンバーが、未踏事業を推進し、経験豊富な実績・スキル・見識から若きクリエータに示唆を与えてくれます。

――PMからはどのようなアドバイスをいただきましたか?

(本多)僕のプロジェクトを担当してくださった後藤真孝PMは、音楽・音声・インタラクションを専門とする先生です。僕が気づかなかったONTENNAの本質は何かということを教えていただきました。その本質とは、まずリアルタイムで音をフィードバックすること、それとONTENNAはモダリティ(様相)変換であるということ。音というモダリティを光と振動に変えているという。光は単に光っているだけではなく、周囲の人たちとも光で情報を共有している。僕は単純にピカピカ光らせたらいいのではと思っていたけれど、実はONTENNAの光にはそういう本質があるんだと、あらためて知らされました。「モダリティ変換なんだから、光や振動のほかにもいろんな可能性があるね」とも言ってくださって。これは、ちょっと衝撃でした。本質を見抜く力が圧倒的で、すごい存在なのだとあらためて感じました。

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未来大には未踏に理解のある先生が多く、美馬義亮先生もかつてPMを担当されていました。書類審査を通過して第二次審査のプレゼンテーションの前には、美馬先生に多くのアドバイスをいただきました。そのとき先生はアメリカで研修中だったので、スカイプでやりとりしながら、策を練りました。ほかにも認知系、デザイン系、システム系、さまざまな分野の先生がいるので、学内で作っている間もいろいろ聞きに行きました。当初はあまり音を取得できなかったんですけど、「ダイオードの増幅作用に問題がある、これ理想ダイオード回路に変更した方がいいよ」と機械系の先生からアドバイスをいただいたり。デザインに関しては、最初はもう四角っぽい感じでカチカチだったんですけど、情報デザインを専門とする岡本誠先生に相談すると、「デザインはね、機能美なんだよ。デザインにはすべて意味があるべき。キミのその四角い筐体にはどんな意味があるの?」と尋ねられ、「ああ、すみませんっ!」としか返す言葉がなかったです。そこからデザインの機能と意味をあらためて深く考え、試作に反映することができました。

合宿と刺激的な人々との出会い

7月には採択者全員と、PM、未踏出身のOB・OG、アドバイザーなどが参加する「キックオフ合宿」、12月には「全体中間合宿」が実施されます。また開発期間中、何度かのグループ合宿もあり、採択メンバー同士のコミュニケーションが活発に行われるのが未踏の最大の特徴です。さまざまな交流を通して、本多さん、友広さんも仲間たちから多くのアドバイスや意見をいただいたようです。

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(本多)合宿のときって未踏OB・OGの方もいらっしゃるんですよ。で、いろんなアドバイスをいただける。たとえば、音楽プロジェクトに取り組んだ方は、「音楽フェスとかでみんなこれを付けて、特定の音に反応するようにしておいたら、ドッドッドッという低音に合わせて光るとか。すごく一体感があっていいと思わない? これもう即使えるよ」と言ってくださったり、「2千万円用意するから、キミ、会社作りなよ」なんて(笑)言ってくださる方もいて…。さすが未踏クリエータのアドバイス、発想やスケールが、突き抜けている。

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(友広)未踏では一人のPMが複数のプロジェクトを担当、私のチームの首藤一幸PMは、4つのプロジェクトを担当されていました。すべてのプロジェクトが一堂に会する合宿では進ちょく発表があり、お互いの進み具合がダイレクトに見える。ですので、結構焦りました。他のプロジェクトの方たちの進ちょくを聞いて、そこで俄然駆り立てられるわけです。アドバイスも貴重でした。「これはいろんなところに応用が効くね。たとえば教育目的に使ってみるというのはどう?」「作ったものが立体的になって自分のところに届くといいよね、そういう風に展開しないの?」など。開発したソフトウエアをどのような場で、どんなふうに展開させていくか、さらに完成品を応用して発展させるためにはといった話など、いろいろアドバイスをいただきました。

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合宿中に仲良くなったお茶の水女子大や東大の人たちに、研究室を見せてもらったりもしたんですよ。他の大学の人たちがどういう環境で勉強しているのか興味深かったです。どちらもすごく広い。その広さゆえなのか、学内の他の人たちとの触れ合いが少ないような…。でも研究に専念できる環境なのかも知れませんね。未来大はその辺を歩けば誰がどこにいて、何をやっているのか、不在かどうかもわかるし、すぐに会いに行きやすいし。このオープンな空間とほどよい距離感のありがたさをあらためて感じています。私にとっては未来大が一番(笑)。

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――未来大の研究・学習環境について、本多さんも感じられることはありますか?

(本多)僕も未来大のオープンな空間は、好きですね。それと先生との距離感もいい。大きな大学だと研究室同士がセパレートになっていて、研究室に行くと研究室の先生としか会わない、会えない。未来大はかなりオープンな感じなので、多様な意見をもらえたり、研究室以外の先生にも気軽に「ここちょっと聞きにいこう」ってことができる。この“ちょっと聞きに行く”というのが、実はすごく大事なんだと思う。

将来のIT社会でどんな自分でありたいか

――2015年4月から、本多さんは大手メーカーへ就職、友広さんは公立はこだて未来大学システム情報科学研究科の大学院生として新たな道を進まれますね。将来のIT社会でどのような自分でありたいのか、どのような展望をお持ちですか?

(本多)僕はデザイナー志望なので、デザインをつきつめていきたいのですが、モノをつくるだけがデザインではなくて、僕だったら障がい者と技術者をつなげるような、そういった仲介役もひとつのデザインと考えています。でも、このような考え方というのはあまり浸透していなくて、いまはまだまだ技術者からの一方通行ですよね。もっとインクルーシブに、いっしょに作り上げていく、そういう社会をつくる核になりたい。アメリカ西海岸で展開しているITイノベーションようなことを今すぐ日本で実現するのは難しいかもしれません。でも、日本はまだ頑張れる。そのフロンティアが「未踏」なんだと思う。

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(友広)ひとことで言えば「カッコよくなりたい」(笑)。デザインをやってきて、プログラムもだんだん書けるようになった。そういうときに、本多さんのような先輩がそばにいてくれて、「ああ、こういうのがカッコいいんだな」ってわかりかけてきました。自分の学んでいることが、どんなふうに将来につながっていくのか、よくわかる。人に対して考えてモノを作ってあげられる、デザインできる人になりたい。でも、研究も楽しいので、しばらくは研究に専念ですね。

――「未踏」への挑戦について、後輩たちにメッセージを。

(友広)絶対に応募したほうがいい。これは私が先輩から言われたことばでもあるんですけど、「普段会えない偉い人たちがあなたたちのプロポーザル書類に目を通し、プレゼンに耳を傾け、きちんとフィードバックしてくれるんだから、そういうチャンスを活かすこと。まずは、自分の提案をすることから始めてみなさい」って。このことばをそのまま後輩たちにもリレーしたいです。もちろん難関を突破するのは簡単ではありませんが、チャレンジして入った「未踏」で受けた刺激、それは本当に想像以上でしたから。

(本多)面白い人って世の中にこんなにいるんだって、よーくわかりますよ。そういう体験ってコミュニティのなかに入らないとできないことだし、自分からそういった場や機会もなかなか見つけられない。「未踏」というコミュニティが目の前にあるんだから、そこにチャレンジしない手はないと思う。

つらいことや苦労もたくさんあるんですけど、大学内にいるだけでは絶対に経験し得ない交流、さまざまな情報も得ることができます。自分の世界が広がるし、成長してるという実感もあるし。しかも開発費・旅費も与えられる。僕ら地方の大学生にとって、この支援は大きい。全国から優秀な人たちが集まってくるコミュニティに参加できる、願ってもないチャンスなのです。体験者として、挑戦しがいのある刺激的なコミュニティであることは間違いなかったです。

ついに未来大からスーパークリエータが!

そして本多さんに「スーパークリエータ認定」の朗報がもたらされたのは、インタビューから3カ月後の2015年6月のこと。2000年に未踏事業がスタートして以来、これまでに輩出した未踏クリエータは全1,627名。ここに名を連ねるだけでも難関ですが、さらにその中からスーパークリエータとして認定されたのはわずか272名です。本多さんは未来大から初めてのスーパークリエータとして、その一角を成す栄誉に輝きました。

現在、社会人として活躍されている本多さんから認定を受けての思いを寄せていただきました。

今まで取り組んできたことをこのような最高の形で評価していただけて、本当にうれしいです。辛いことや苦しいこともたくさんありましたが、頑張ってよかったなと感じています。スーパークリエータの名に恥じぬよう、これからも精進していきたいと思います。今までご指導いただいた先生方、同期の仲間、そして聴覚障がい者の方々、本当にありがとうございました。
(本多達也)

 

未来大生の未踏ユース/未踏本体 採択実積(2002~2014年度:15件・26名)

年度 チーフクリエータ コクリエータ テーマ名 担当PM名 成果詳細
2002 安本 匡佑 佐藤 大介 デジタルビデオカメラによるモーションキャプチャーシステム 竹内 郁雄 詳細はこちら
2002 坂本 大介 松下 勇夫 佐藤 崇正 「心ののぞき窓」プロジェクト 竹内 郁雄 詳細はこちら
2003 松村 耕平 石塚 樹 小川 浩平 LEGOブロックを使ったLEGOマインドストーム開発環境 竹内 郁雄 詳細はこちら
2004 大矢 一恵 自律適応型マッサージチェア「ほぐし屋 筋さん」 竹内 郁雄 詳細はこちら
2004 鈴木 真一朗 高橋 和之 ブレインストーミング支援ツール「BSE -Brain Storming Engine-」 竹内 郁雄 詳細はこちら
2004未踏本体 松村 耕平 谷杉 泰苗 「雰囲気」メタデータ取得のためのユビキタスセンサネットワークの開発 中島秀之 詳細はこちら
2006下期 垣田 幸子 BlockBug ~PCなしで遊べるブロックプログラミングおもちゃの開発~ 安村 通晃 詳細はこちら
2007II 大宮 健太 食事・運動メニューの自律的提案機能を持つ統合的ダイエット支援システム 安村 通晃 詳細はこちら
2009上期 土谷 幹 河瀬 裕志 横道 麻衣子 HIKARium:インタラクティブな空間演出を可能にする半球型インタフェースの提案”>詳細はこちら 安村 通晃 詳細はこちら
2009下期 代蔵 巧 Webブラウジングの新しい形、WebsiTVの開発 後藤 真孝 詳細はこちら
2010 大島 孝子 本間 卓司 人に優しい骨動作可視化ソフトウェアの開発 原田 康徳 詳細はこちら
2013 鈴木 孝宏 スマートフォン向け文章入力システムの開発 石黒 浩 詳細はこちら
2013 権瓶 匠 村山 寛明 マンガ作家の海外展開を支援するプラットフォームの開発 後藤 真孝 詳細はこちら
2014 友広 歩李 でこぼこキャンバスを用いた立体的な描画システムの開発 首藤 一幸 詳細はこちら
2014 本多 達也* 髪の毛を使って音を感じる新しいインタフェースの開発 後藤 真孝 詳細はこちら

※スーパークリエータ認定

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