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大学にとっての「ポリシー」とは

2017年春、はこだて未来大の3つのポリシーが策定、公開されました。「アドミッション・ポリシー」「カリキュラム・ポリシー」「ディプロマ・ポリシー」の3つです。「アドミッション・ポリシー」とは入学者受入れに関わる方針で、未来大学としてどういう学生を求めているのか伝えるものです。「カリキュラム・ポリシー」には、未来大学が目指す学生教育を実現するための教育課程や編成、実施の方針を定めています。そして「ディプロマ・ポリシー」は学位授与の方針で、未来大学を卒業する際に学生がどのような能力を身に付けているべきか、学修成果の目標も表しています。

では、そもそも大学にとっての「ポリシー」とはどういうものなのでしょうか。大学にはそれぞれの特色があります。学習内容や輩出したい学生像などについて、大学の基本的な考え方や方針を明記したものがポリシーです。「大学の自己紹介」であるとともに、「大学の魂」とも呼ぶべきものです。

ポリシーを明文化することにより、大学内では教育内容や人材育成についての共通認識が生まれ、学内での連携した取り組みが可能となります。在学生にとっては、卒業までの学習の道筋や達成目標が明確になります。また、入学希望者や保護者、高校関係者には“公立はこだて未来大学”とはどのような大学なのか、企業を含む社会にとっては採用等の指標となり、産学連携の参考にもなります。

未来大学にはもともと「アドミッション・ポリシー」はありましたが、今回新たに「カリキュラム・ポリシー」「ディプロマ・ポリシー」を策定するとともに、「アドミッション・ポリシー」も刷新しました。
文部科学省の方針により、全国の大学で3つのポリシーを平成29年4月1日までに策定し、公表することが決まったのが平成28年3月。
ここから教職員の多くを巻き込む約10カ月にわたる未来大らしい動きが始まりました。その根底にあるのは「オープンスペース オープンマインド」を掲げる未来大の精神です。

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未来大のポリシーづくり

ポリシー策定にあたっての考え方を総責任者である片桐学長は次のように語っています。
「アドミッション・カリキュラム・ディプロマの3つのポリシーは、大学が学生を受け入れて、育成し、社会へ送り出す、教育の基本方針を大学自らが明文化して社会に向けて宣言するものです。今年度からすべての大学に策定と公開が義務付けられています。
未来大学の3つのポリシー策定にあたっては、大学を構成する教職員全員が、自分たちの大学の教育はどうあるべきかをあらためて見つめ直し、時間をかけて熱い議論を積み重ねました。その結晶として主体性、協調性、創造性を尊ぶ前向きで未来大学らしいポリシーができたと自負しています。今後はこの3つのポリシーに沿って教育プログラムの継続的な点検と改善を進めていきます」

では、未来大学のポリシーづくりの過程を見ていきましょう。実働の中心メンバーとなった方々のうち、メタ学習センター(CML)のセンター長を務める平田圭二教授、CMLの冨永敦子准教授、事務局職員の鈴木浩太さんにお話を伺いました。CMLとは、未来大内に設置されている「学び方を学ぶ」ための先進的な教育・学習方法、カリキュラム、プログラムを実践的に開発する組織です。

平田:ポリシー策定のプロジェクトが始動したのは2016年の4月末、片桐学長から私と冨永先生に話があったことが始まりです。

冨永:その際に学長から言われたのが、多くの教職員を巻き込み、ワークショップ形式で一つひとつの意見を尊重しながらボトムアップで決めていってほしいということでした。

平田:まず最初にCMLの教員と当時のコーディネーターだった高橋理沙さんで、他大学のポリシーに関する下調べを1ヵ月ほど行いました。そして、未来大のすべての教職員にとって「自分ごと」にするため、教職員全体からワークショップのメンバーを募りました。
そこから本格的に始動したのは7月末でしたね。ポリシー策定を進める上で、「多くの人が集まる」「合意を得ながら前へ進む」「プロセスを透明化する」「受けたコメントはできる限り反映する」という直接民主主義的な運営を心掛けました。そのためにも、先生方の誰もが参加できるWikiを特設しました(Wikiとは、多人数でオンラインでの書き換えが可能なWebページのこと。エディタが不要で、WebブラウザさえあればいつでもどこからでもWebページを修正して共同で文書作成ができる。さらに、関連資料をアップロードして添付したり、文書間にリンクを張ることも簡単にできる)。ワークショップやミーティングに参加できない人でも、ネット環境さえあればポリシー策定の経過の情報を閲覧できるので、活発にコメントや情報が追加されました。

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平田圭二教授

そうして9月5日に開催された初回のワークショップには15人の教職員が集まりました(ワークショップは、まちづくりや芸術・文化の分野でよく用いられる手法で、参加者が自発的に作業や発言を行うことができる「場」です。ファシリテータと呼ばれる進行役を中心に参加者の意見が集約されていきます)。
「ポリシーづくりに関わりたい」と手を挙げた職員3人のうち、鈴木さんもそのひとり。

鈴木:大学入試の仕事を担当しているので、ポリシー策定に携わることは必須だと思いました。

このワークショップでは、CMLであらかじめ他大学のポリシーへの取り組みを調査し、一覧できるようまとめたA4ファイル資料が全員に配布されました。そして、未来大のポリシーに必要であると思うキーワードを参加者一人ひとりが付箋紙に書き出して壁に貼り、出てきた多くのキーワードを類似するもの、関連するものでまとめ、そのグループに名前を付けていきました。この手法は「KJ法」と呼ばれます。次に、そのグループ同士がそれぞれ、どうつながっているのかを考えながら、さらに大きなグループのかたまりにしたり、線でつなげたりすることで、全体像を明確にしていきます。それによって今日のワークショップで自分たちがどんなアイディアを出したのかが明らかになります。

funbox201707_3ワークショップで用いられる「KJ法」の参考写真。
文化人類学者の川喜田二郎氏が編み出し、そのイニシャルから「KJ法」と呼ばれる

初回のワークショップで出された意見を冨永先生たちがまとめ、ポリシーの原案づくりにとりかかりました。
その原案は次回のワークショップで提示され、いくつかのグループに分かれた参加者が「文章化された原案を読んで思ったことをどんどん書き込む」作業を展開。この作業を複数回繰り返し行うことで、参加メンバーが実施回ごとに異なるワークショップでの意見も少しずつ集約されていきました。

冨永:未来大では2年次からコースへと分かれ、学年が上がるにつれてより専門性の高いカリキュラムで学んでいきます。コースによっても目指す場所やアプローチの方法に違いがあります。

平田:卒業研究に臨む姿勢などは、コースごとにバラバラに作ってきてくださいとお願いしたのですが、卒業に対する要件や「学生にこういうことを教えたい」という思いは、意外に揃っていた。そういう発見もありました。
策定完了までに行われたワークショップ・ミーティングは7ヵ月で7回を数えました。ワークショップに参加したり、Wikiやメールでコメントを寄せたりと、何らかの形でポリシー策定に携わったのは教員総勢70人ほどのうち約50人。まさに、全学をあげての一大プロジェクトとなりました。

あまたのキーワードから文章へまとめる。そして、その文章をさらに練り直す作業を重ねるうちに「システム情報科学に関する高い専門能力」「研究的態度を支える問題探究力・構想力」「共創のための情報表現能力・チームワーク力」「自律的に学び続けるためのメタ学習力」「専門家として持つべき人間性」という5つの観点ができました。

冨永:スケジュールに従って、まずはディプロマ・ポリシー、それからカリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーという順で決めていきました。ディプロマ・ポリシーについて話し合う中で、5つの観点ができあがったのです。ディプロマ・ポリシーという核があるので他の2つのポリシーを決めていく段階でも、それぞれに大きなブレはありませんでした。内容が固まってきた頃に、3つのポリシーをポスター大の紙に印刷し、壁に貼って、読み比べるといった作業も行いました。

funbox201707_4冨永敦子准教授

具体的に文章を作り上げる中では多くの難しさがあったといいます。

平田:教員の多くは優秀な学生を社会に送り出したいと思っている、ですから当然目標を高く立てたいわけです。数学もプログラミングも完璧、学びの態度を身に付けて一生学び続ける意欲を保ち…。一方で目標を高く持ち過ぎても実現できないという意見もあって、そうすると少しトーンダウンする。そういうことが「できる」じゃなくて「目指す」人材に変えよう、とか。言葉を調整したり緩めたりして、みんなの意見を合わせていく。自分の目指す教育の学生像と現実をすり合わせる作業は、ファカルティ・ディベロップメント(教員が自分の教育方法論や成果を振り返って改良したり、他の人の教育方法から学んだりすること)のひとつになったと思います。また、お互いの思いを知る良い機会になったかもしれないですね。

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3つのポリシーに用いられている文言一つひとつも、最終形に至るまでに何度も議論が重ねられました。完成したポリシーの文章には、関わった教職員一人ひとりの意志が、姿を変えて溶け込んでいるのです。

平田:先生たちから最終のコメントをいただいたのは今年2月の教授会です。会議室の壁に3つのポリシーを大きく貼り出し、教授会開始30分前・終了後30分間にコメントを書き込んでいただきました。それらを反映して最後の修正をかけました。

3つのポリシーは未来大のウェブサイト上で公開されています。アドミッション・ポリシーについては、いち早く入試要項の冊子に記載されました。アドミッション・ポリシーについては、一般選抜(前期)・(後期)入試、AO入試、特別選抜(推薦)入試、編入学試験の区分ごとに文章が分かれています。これはアドミッション・ポリシーそのものが、入試の意味、目的を説明している内容であることが必須だったため、現状の入試区分に合わせて、明示化したものです。

鈴木:今回の策定では、入試の形式ごとにポリシーを分けました。もちろん6月実施の編入学試験の募集要項にも掲載しました。アドミッション・ポリシーは入学者受け入れ方針なので、これをいろんな高校生・高校関係者に知ってもらえるようにしていかなければならない。未来大の特色が表れたポリシーに基づきながら、どうやって未来大をPRしていけば良いのか、考えていきたいと思っています。

funbox201707_6大学事務局の鈴木浩太さん

ディプロマ・ポリシーに表されている豊かな人間像には、未来大卒業生・在校生の姿が重なっています。建学以来の教育の方針と実績が、ここで明確に文章化されたわけです。

冨永:ポリシーは公表して終わりではありません。それを大学として実践、活用し、形にしていくことが必要です。例えば、それぞれの授業では、カリキュラム・ポリシーに書かれているどの能力を習得できるのかをチェックリストにすることができます。

カリキュラム・ポリシーでは、1~4年次の教養基礎科目群・1~2年次のコミュニケーション科目群・学部共通専門科目群・5つの各専門コース群別に、コースに関わらずすべての学生に対する教育方針と、コースごとに専門性を高めるため必要とされる能力の習得について記述されています。

冨永:チェックリストがあれば、学生は自分がどのくらい各項目を達成できたかを確認することができます。ポリシーはそのように発展させることができます。

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さて、未来大の3つのポリシーについて、その策定過程を中心にご紹介してきました。では、そのポリシーが支えるものとは何でしょうか。建学にあたっての趣旨には次のような内容が書かれています。
「我が国は、石油危機や急激な円高といった経済環境を取り巻く大きな変化を、産業構造の高度化、技術革新、知識集約などによって克服してきたが、1990年代に始まったインターネットやマルチメディアなどの情報技術の普及によってもたらされた世界経済のグローバル化により、現在は産業の空洞化や国際競争の激化など新たな課題を抱えている。
これらの変化に対応するためには情報インフラストラクチャーの整備が急務であるとともに、その人材育成と基礎研究が不可欠であり、社会からの強い要請がある。
函館は鎖国時代の日本で最も早く世界に港を開いた地であり、進取の気風と教育文化への伝統的理解を持つ。世界との一体化がより強く求められる21世紀を迎えるにあたって、未来志向の開かれた大学をこの地に作り、新時代に呼応する人材の育成を図ることが設置の趣旨である」(要旨を抜粋し、再構成)。
公立はこだて未来大学が開学したのは2000年です。以来、この趣旨は変わることなく未来大の教育方針として存在しています。その方針を明文化したものが、「アドミッション・ポリシー」「カリキュラム・ポリシー」「ディプロマ・ポリシー」なのです。

入学希望者・学生たちにとって大学生活の設計図であるとともに、教職員たちにとっても同様に大学教育の指針として機能していくものです。情報科学の分野を目指す高校生には、じっくりと読みこんで、未来大のオリジナリティを知るきっかけにしてもらえるとよいのではないでしょうか。

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