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エントランスを入ってまっすぐ進んだ中ほどに「工房」はあります。情報系の大学である未来大に、立体的なモノづくりのための空間。それはなぜなのか。工房とはどんな場所で、どう活用されているのか…今回は工房・ミュージアムワーキンググループ(WG)長の鈴木昭二教授と、教務課工房管理担当の西野由希子さんにお話を伺いました。

3Dプリンタやレーザー加工機 最新の工作機が並ぶ工房

工房の中へ入っていくと、様々な用途の機器が並んでいます。以下のようなものがあります。

機器の名称 用途
主なデジタル工作機 3Dプリンタ(FDM方式) 熱で融解したABS樹脂等の積層造形
レーザー加工機 レーザーによる木材や
アクリル板などの切断・彫刻
CNC切削機 木材や合成樹脂等のブロックからの
削り出し造形
基板加工機 切削によるプリント基板作成
カッティングプロッター 紙やカッティングシート等の切り抜き
大判プリンタ 大型インクジェットプリンタ3台(最大B0判まで印刷可能な
1台を含む)
大判ポスター、バナー等の印刷
その他の主な工作機 パネルソー 大判のベニヤ板や木材、アクリル板等の裁断
ボール盤 木材や金属等の穴開け加工
帯のこ盤 木材や金属等の裁断

 

現在およそ15台のデジタル工作機のほか、ちょっとした工作をするための工具など、アイデアと道具を駆使していろいろなモノづくりをできる環境が整えられています。

なぜこのように充実した工作機が未来大にはそろっているのでしょうか。開学当初から工房施設はあったそうですが、3年ほど前に当時のWG長である迎山和司准教授が中心になって3Dプリンタやレーザー加工機などのデジタル工作機を導入しました。

鈴木ITというとコンピュータを使ったいろいろな処理を思い浮かべると思います。しかし処理の対象を広げていくと、いずれは実世界への働きかけにつながっていきます。例えば、コンピュータを使っていろいろな形を作図することができますが、モニター上ではその大きさや奥行きを実感しにくい場合があります。そのような場合、工作機器を使って実際に造形してみることで、それらを実感しやすくなります。

工房・ミュージアムWG長の鈴木昭二教授(左)と教務課工房管理担当の西野由希子さん

デジタル工作機を導入してから工房利用者が増加してきている背景には、技術の急速な進歩があります。機器の操作が比較的簡単になり、加工用データが手軽につくれるようになってきました。

西野:学年や所属するコースを問わず、いろいろな学生が工房を利用するようになりました。利用者数は年間で延べ3600人ほどです。

 
 

最新のデジタル機材はもちろん、無骨だが頼もしい存在感のある工作機
や工具類などが並ぶ「工房」はモノづくりの楽しさを体現する空間

 
のぞくと、はんだ付けをしていた。作業台には懐かしい小型モーターの姿も

学内施設のおかげで研究がスピーディーに

鈴木教授の専門はロボット工学です。プロジェクト学習や卒業研究などで工房を利用することもあるそうです。WG長としては、工房の環境をより充実させ、安全に、多くの人たちが活用できるように、施設管理や運営方法について検討する役割を担っています。

日々訪れる工房利用者へのサポートは、西野さんの担当です。

西野:ここのデジタル工作機は操作が分かりやすいので、初心者にも使いやすい機材だと思います。それでも作業手順や安全への配慮など、覚えなければいけないことがあります。学生が初めて工作機を使う場合には、必ず一緒に作業手順を確認し、慣れてきたら一人で操作してもらうようにしています。

西野さんは工房内に設置された機器の操作指導に加え、部屋の管理やマニュアル作成なども行っています。

西野学生個人やグループで「こういうものが作りたいんです」とやって来る相談への対応も業務のひとつです。学生が作りたいと考えているものはそれぞれ異なるので、一人ひとり話を聞きながら、工作方法についてアドバイスしています。学生たちが自分で考えたり、調べたりするのも大切なことですので、一方的な提案やただの作業指示とならないよう、学生と一緒に考えながら答えを探すように心がけています。

学生の利用目的と機器操作の習熟度に合わせて、アドバイスを行っているそうです。
通常の工房利用の目的には、大まかに2つのパターンがあります。
① 授業の課題やプロジェクト学習にまつわる制作
② 卒業研究や大学院での研究における試作や実験装置の作成

アイディアを具現化する。工房は、そんな楽しさを体験できる場所になっているようです。

鈴木:学内にこういう工房があることは強みだと思います。これまで、プロトタイプ(試作品)を作成するときには外注することも多くありました。それが、自分たちで比較的短時間で作れるものが増えて、「試して問題点があれば修正する」という工程のスピードアップが可能になりました。一度作ってみた上で、そこから実際の形や大きさを検討することにも役立っています。卒業研究やプロジェクト学習でも、いろいろな試作に使っています。

西野:試作する学生に対しては、材料選択の段階から相談に乗ることもあります。使用する材料は各自で入手し持ち込むことが原則ですが、とりあえず工房の端材で試してもらうケースも多いですね。他にもネジや接着剤のような消耗品は、ある程度工房にストックがありますので、「あれこれ材料を買いそろえてきたけど、うまくいかなかった」という失敗は避けられるかもしれません。

扱いやすい機材があって、気軽に相談できる職員のいる工房を利用できることは、試作を進める上で効率がよいということだけでなく、ここがモノづくりを通した学びの場になっていることが分かります。

取材当日、工房を利用していた情報デザインコース4年の伊藤汰地さんは、レーザー加工機を使ってMDF(中密度繊維板)を切り出す作業をしていました。使いやすいスイッチの研究で、操作する感覚と心に浮かぶイメージとの関連を調べる実験をするため、押し心地を変化させたいくつかのボタン型スイッチを試作しているそうです。


加工機の設定確認など、西野さんの指導によって安心して作業を進められる

  

レーザー加工機が伊藤さんのイメージするスイッチの形を切りだしていく(左)
アクリル板に刻まれたレーザー加工機の実力(右)

「筋電義手」と「全側面脚移動ロボット」 工房から生まれた研究例

では、工房からはどんなモノが生まれ、社会とつながっているのでしょうか。現在進行している2つの研究を紹介しましょう。

プロジェクト学習のテーマのひとつ、「筋電義手」は工房施設を開発の工程に役立てています。プロジェクトの指導教員である櫻沢繁教授に聞きました。

櫻沢:筋肉に力を入れた時に、その付近の皮膚表面に「筋電位」という微弱な電気信号が生じます。つまり、この筋電位によって身体を「動かしたい!」という意思を読み取ることができます。私たちのプロジェクトでは、この筋電位を用いて機器を意のままにコントロールできるインタフェースを制作し、様々な新しい体験を創出するための活動をしています。

筋電位を用いたインタフェース応用例のひとつが「筋電義手」です。具体的には、左前腕部欠損障がいを持つ方の、前腕部に残っている筋の筋電位を利用します。あたかも切断する前の自らの手のように動かせる義手を開発しています。

櫻沢:義手ロボットは、5本の指それぞれにある3つの関節と手首の屈伸、それに回転可能な関節を持った複雑な機構をしています。さらにその内部に、モーター・ギア・マイコン・電子回路・バッテリーを搭載する仕組みです。それを入れるプラスチックフレームを作るために工房の3Dプリンタを使いました。100以上のパーツを製作するため、フル稼働で1週間ほど使用したでしょうか。また、独自で開発した回路の基板を作成するために基板切削加工機を使いました。こちらは1枚加工するために1時間ほどかかり、数回試行錯誤を重ね作成しました。

3Dプリンタを用いて作られた筋電義手はペンをつかむこともできる

三上貞芳教授の研究室では「全側面脚移動ロボット」の開発が行われています。4年生や修士課程の学生がロボット試作のために工房を利用しています。「全側面脚移動ロボット」とは、別名「転ばないロボット」。ロボットで資源探査などを行う場合、水底や泥地といった不整地を移動することになり、転倒した場合にも目標の方向へ移動を続けるロボットを開発する必要があるのです。

三上:最初のプロトタイプは、すべてアクリル板で作成しました。2次元CADで作った図面から工房のレーザー加工機でギア・脚・胴体・スペーサを切り出して、ボルトナットで組み立てました。現在のプロトタイプは2次元CADと3次元CADを使っています。脚と平歯車、脚を載せるプレート等はアクリル板をレーザー加工機で切り出し、中心のウォームギアおよびモーターのケースは研究室所有の3Dプリンタを使って作成しています。

アクリル板を切断するために工房のレーザー加工機を活用しました。プロトタイプを作成するたびに工房に数回通い、平歯車など複雑な形状の部品の切り出しを行いました。


「全側面脚移動ロボット(転ばないロボット)」は何度も工房に足を運んで制作されていった

試作や検討、改良を重ねて進めていくことが欠かせない研究において、学内に工房があり、デジタル工作機を使って製作できることは、研究全体のスピードアップにつながっているようです。色々な分野や立場の人が協働する工房という場で、学んで、作って、考えるという学習のサイクルが展開されています。

学生たちのアイデアや着想が工房で形となり、ここを通して未来大の研究や教育が社会とつながっていく――いわば工房そのものが社会とのインタフェースの役割を担っているのかもしれません。