公立はこだて未来大学(以下、未来大)は本年度より、新たに二つの海外留学支援制度をスタートしました。一つは未来大独自の「海外留学助成制度」、もう一つがJASSO(独立行政法人日本学生支援機構)の「海外留学支援制度」で採択されたプログラムです。これらの目的と今後の展望について、副学長の川嶋稔夫教授と派遣プログラムを担当する迎山和司教授、そして海外留学に参加する学生にお話を伺いました。

学生の海外留学をバックアップ

今回、未来大が独自に創設した「海外留学助成制度」は、学術交流協定を締結している海外の大学への留学に対し、海外渡航費および海外留学保険料として15万円を給付する内容です。本年度の定員は10名です。今回こうした支援制度を設けたいきさつについて、川嶋副学長は次のように話します。

川嶋:この海外留学助成制度は、2010年の開学10周年に創設した「公立はこだて未来大学振興基金」を財源としたものです。来年2020年に20周年を迎えるにあたり、多くの方にいただいたご寄附を学生のために活用しようと話し合い「海外留学助成制度」を設けました。


留学支援制度を未来大の魅力の一つとして
根付かせたいと思いを語る川嶋副学長

一方、「海外留学支援制度(協定派遣)」はJASSOに申請し、採択されたものです。こちらは未来大と学術交流協定を締結している大学へ、特定の研究テーマに絞って学生を派遣するもので、今年度はフランス、カナダ、デンマーク、イギリス、フィリピン、ウガンダの6カ国の大学になります。学部3年生以上および大学院生が対象で、留学中の滞在費の一部がJASSOから支給されます。研究分野が特定されているため、必ずしも学生全員にオープンなプログラムではありませんが、未来大独自の「海外留学助成制度」と組み合わせると、充実した留学支援となるため、並行して手続きが進められました。

川嶋:我々の専門とする情報技術は、函館という「地域」や日本という「国」で完結するものではありません。毎日当たり前のように使うスマートフォンも、生活の一部でありながら、同時に「世界」とつながっている。そして、アプリケーションひとつとっても、その国の文化や習慣などで違いがあるでしょう。そうした文化や考え方の違いをリアルに体感することは、未来大の学生にとって不可欠な学びになってくると考えます。

しかし、これまで未来大には海外留学の支援はなく、留学したい学生は個人的に費用を用意して行くしか手立てがありませんでした。実際に、これまで学術交流協定校へ留学する学生は少なく、開学以来19年間で12名を数えるのみでした。

川嶋:今回、留学支援制度へ想定以上の応募がありました。チャンスがあれば留学したいと考えている学生は多いのだと感じています。今後は学術交流協定校へ留学生を派遣するだけではなく、教員同士の交流も深め、教育の場が大学の中から地域や世界へ染み出すように広がっていくのが理想です。今回、10数名を派遣しますので、帰国したらそれぞれ報告会を開催する予定です。今回参加していない学生たちへの刺激も大きいのではないでしょうか。一方で、海外助成制度の財源である基金は限られています。今後数年間は継続できる計画ですが、この制度を未来大の魅力の一つとして根付かせるためにも「公立はこだて未来大学振興基金」へのご寄付についてご支援くださいますよう、この場を通じてお願いいたします。

川嶋副学長は、派遣される学生はもちろんのこと、彼らの話を聞いた後輩たちが将来的な留学を視野に入れ、意欲的に学ぶような好循環が生まれることを望んでいます。また、学術交流協定を締結している海外の大学は現在28校ありますが、今後その数をさらに増やしていきたいと考えています。


留学で得た「世界の友人・知人」は何物にも替えがたい財産

海外へ出て、友人をつくる意味

今回の派遣プログラムの策定にあたり、パリ・エスト・マルヌ・ラ・ヴァレ大学との交渉を担当した迎山和司教授にお話を伺いました。

迎山:パリ・エスト・マルヌ・ラ・ヴァレ大学は、2年前、私が在外研究で1年間滞在していた大学です。交流のある先生たちがいますので、別件でフランスを訪ねたときに受け入れをお願いし、「Art & Design」「Computer Vision」「3D Graphics Programming」の研究分野で、学生の受け入れを了承していただきました。本学の大学院1年くらいが、レベルやタイミングとしてちょうどいいので、今回は大学院1年生から推薦で2人が参加することになりました。

現地ではどのような研究をするのでしょうか。

迎山:一人は私の研究室の学生で、プロジェクションマッピングが専門です。私が現地滞在中にお世話になった先生がホストになってくれますので、半年間の派遣期間中、なんらかのコラボレーションも模索したいと考えています。もう一人の学生も同じ大学院1年生で、塚田浩二准教授の研究室に在籍しています。彼はデジタルファブリケーションと呼ばれるものづくりが専門です。知り合いのいない海外で一人きりだと心細いかもしれませんが、二人なら励まし合いながらやっていけるのではないでしょうか。


留学中はたくさん見聞を広げたらいいという迎山教授

いきなりフランスの大学の研究室に入るとなると、言葉の壁はないのでしょうか。

迎山:大学の授業は英語で行われています。なかでも私が受講を薦めているのは「Tutored Project」です。未来大のプロジェクト学習に近い内容で、学生同士一緒にものづくりをしながら交流を深めることができます。パリは地理的にもヨーロッパの中心に位置しますから、いろんな国の学生が集まっているはず。たくさんの友人をつくり、あちこちに出かけて見聞を広げてほしいと思います。

現地でどのようなことを学んできてほしいと期待しますか。

迎山:机にかじりついて学ばなくていい。たくさん友達をつくったらいいと思います。たとえばヨーロッパでは、教会前の広場などにプロジェクションマッピングが常設されています。そういう事例をどんどん見に行って、将来の研究に活かしてほしい。私自身は学生時代に留学の経験はなく、大学の助手になってから海外に行きましたが、もっと早く行っておけばよかったと痛感しました。家庭を持ち、子どももいる年代だと自由に使える時間は限られますが、学生なら夜遅くまで酒を飲みながらディスカッションできる。学生時代に仲良くなった人が、それぞれ専門の道に進んだのち、情報交換や協力ができたら、素晴らしいですよね。だから今回、留学に奨学金が支給されるというのは本当にうらやましい。私が代わりに行きたいくらいですね(笑)。

初めての留学でふくらむ期待


間もなくパリへ半年間の留学に旅立つ大学院1年の折原征幸さん

実際に派遣が決まった学生はどのように感じているのでしょう。今年9月から来年2月まで、半年間、パリ・エスト・マルヌ・ラ・ヴァレ大学に留学する大学院1年の折原征幸さんに意気込みを聞きました。

折原:留学は初めてです。僕は埼玉県出身で、ボーイスカウトに所属していたので、世界大会のようなキャンプへの参加や、中学時代にオーストラリアでホームステイした経験はありますが、長期滞在は初めてです。もともと留学してみたいという気持ちはあったのですが、今回、支援制度ができたと聞き、ぜひ行ってみたいと思いました。

現地ではどのような研究や体験をしたいですか。

折原:専門はインタラクションというジャンルで、磁石でものを動かす際のユーザーインターフェイスのデザインを研究しています。パリの大学の研究室にはどのようなものがあるのか。向こうの学生はどのような心持ちで研究しているのか。いろんな国の人がいると思うので、それぞれの国の特有の文化とか気質も知りたいなと思っています。

半年間という期間についてはどう考えていますか。

折原:現地での生活に慣れて、楽しめるくらいの時間がありそうなので、ありがたいです。楽しみにしているのはパリの美術館めぐり。時間を見つけて訪ねてみたい。後期はまるまる函館にいないので、いまは前期のうちにできるだけ単位をとっておこうと頑張っています。現地でのコミュニケーションも心配なので、苦手な英語も勉強しています。

 

川嶋副学長のお話にあるように、情報科学は「個人や地域」と「世界」がつながる双方向コミュニケーションを可能にする分野です。その「世界」をディスプレイやネットワーク上だけでなく、体験・体感することができるチャンスの一つが海外留学です。
未来大から世界へ。その扉が一枚、新たに加わりました。