障害学基本文献

 

飯野由里子

 

1.中西正司・上野千鶴子,2003,『当事者主権』岩波書店.

 

日本の自立生活運動において中心的な役割を果たしてきた中西正司と、社会学者であり日本の女性学のパイオニアでもある上野千鶴子による「硬派」な一冊。手頃な長さである上、主張も明解で読みやすい。障害者運動が提起してきた理念や思想に加え、「当事者であること」や「当事者になること」の意義についても触れることができる。

 

2.石川准,2004,『見えるものと見えないもの--社交とアシストの障害学』医学書院.

 

著者の石川准は、200310月に設立された障害学会(http://www.jsds.org/)の初代会長。全盲の社会学者として障害者のアイデンティティ(・ポリティクス)について論じる一方、視覚障害者向けの支援機器やソフトウェアの開発者としても知られている。何でも「できる」ようになることで自らの存在を証明しようとしてきた著者が、「できない」ことを「アシスト」する「ケア」や「人とのつながり」に関して考え、一筋縄ではいかない議論を展開している点に、本書の面白さがある。

 

3.安積純子・尾中文哉・岡原正幸・立岩真也,1995,『〈増補改訂版〉生の技法--家と施設を出て暮らす障害者の社会学』藤原書店.

 

身体に障害のある人たちによって日本でなされてきた試みを、社会というコンテクストの中で捉え返そうとした一冊。日本の障害者運動が提起してきたことの意味や可能性について考え、理解するための必読書であり、また「共に生きること」や「支え合う」ことがどのように実現できるのかを具体的に考えていくための手助けともなる書。

 

4.Oliver, Michael. 1990, The Politics of Disablement, Macmillan.(=2006,三島亜紀子・山岸倫子・山森亮・横須賀俊司訳『障害の政治--イギリス障害学の原点』明石書店.)

 

著者のマイケル・オリバーは、イギリスの障害当事者による運動に積極的にコミットするとともに、イギリス障害学(ディスアビリティ・スタディーズ)においても指導的役割を果たしてきた一人。本書で展開された障害のオルタナティブな捉え方(「社会モデル」としても知られている)はかなり有名で引用されることも多く、その意味で、本書はイギリス障害学の「古典」とも言える。イギリス障害学に関しては、その他にも『ディスアビリティ・スタディーズ--イギリス障害学概論』(Exploring Disability: A Sociological Introduction)(1999, Collin Barnes, Geof Mercer and Tom Shakespeare, Cambridge: Polity Press2004,杉野昭博・松波めぐみ・山下幸子訳、明石書店)も邦訳が出版されており、こちらはイギリス障害学の展開過程と現状の課題を整理した「入門書」となっている。

 

5.石川准・長瀬修編,1999,『障害学への招待--社会、文化、ディスアビリティ』明石書店.

 

日本の障害学において重要な一歩となった論文集。イギリスやアメリカにおける障害学の単なる「輸入」や「紹介」に留まることなく、各論者が、障害や障害者をめぐり日本で様々に蓄積されてきた知見を生かしながら、障害学の可能性を伝えようとしている点に本書の魅力がある。本書に続いて出版された、倉本智明・長瀬修編集の講演集『障害学を語る』(筒井書房、2000年)や石川准・倉本智明編集の論文集『障害学の主張』(明石書店、2002年)と併せて読めば、多様に開かれた障害学の可能性をより深く知ることができる。

 

6.杉野昭博, 2007, 『障害学--理論形成と射程』東京大学出版会.

 

日本の障害学の将来を見据えつつ、イギリスやアメリカの障害学で提起されてきた主な論争点・到達点の整理・比較を行っている。イギリス障害学の「社会モデル」の展開について詳しく解説されている他、これまで日本で紹介されることの少なかったアメリカ障害学(とりわけ、アメリカ障害会の創設者の一人アーヴィング・ケネス・ゾラと彼の「障害の普遍化」論)についても紙面を割いている。また、障害(ディスアビリティ)概念に関するより理論的な検討を行ったものとしては、星加良司による『障害とは何か--ディスアビリティの社会理論に向けて』(生活書院、2007年)がある。