論理的(形式的)誤謬集
(A Collection of Logical Fallacies)

  1. 人身・人格攻撃
  2. 事例証拠
  3. 人類の無知に訴える論証
  4. 伝統に訴える論証
  5. 結果に訴える論証
  6. 威力に訴える論証
  7. 個人的無知に訴える論証
  8. 衆人に訴える論証
  9. バンドワゴン効果
  10. 論点先取
  11. 白黒思考
  12. チェリー・ピッキング
  13. 循環論法
  14. 合成の誤謬
  15. 確証バイアス
  16. 相関と因果関係の混同
  17. 排中
  18. 半面真理(生半可な事実)
  19. 多重質問の誤謬
  20. 統計の誤用・誤解
  21. 不合理な結論
  22. 全知
  23. 前後即因果の誤謬
  24. 不存在の証明/悪魔の証明
  25. レッドヘリング/燻製ニシンの虚偽
  26. 具象化/物象化
  27. 「滑りやすい坂道」論
  28. 少数の法則
  29. ストローマン/藁人形論法
  30. やり返し論法

  1. 人身・人格攻撃(Ad Hominem【羅】)
  2. ある論証や事実の主張に対する応答として,その主張自体に具体的に反 論するのではなく,それを主張した人の個性や人格や信念を攻撃すること. 名前を呼び捨てにしたり,他人をラベル付けしたりすること(「あいつは左翼だから」など)も人身攻撃となる.

    (事例1)「あの政治家の公約はお笑い種だ.あいつは2000年に脱税で摘発されているんだぞ.」
    (事例2)「あの大学の出だからあの程度の考えしか出来ないんだよね.」
    (事例3)「あいつが何を言ってもお里が知れてるからなぁ.」
    (事例4)「過去に何度も失敗してきたあなたの意見は聞き入れることは出来ない.」
    (事例5)「あんな太ってる人に『効果的なダイエット法』とか言われても信じられないよね.」
    (事例6)「そんなことを主張するあなたは,おそらく人格が破綻しているんじゃないかと思う.」
    (事例7)「あいつのあの格好を見れば,なんであんな馬鹿なことを言う奴なのかが良く分かるじゃないか.」
    (事例8)「おたくの子がイジメられるは,あなた方が離婚したからですよ.」
    (事例9)「いい歳してまだ漫画読んでるのか.」

    参考資料

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  3. 事例証拠(Anecdotal Evidence【英】)
  4. 個人の限定的経験や体験もしくは無関係な経験を重要な(もしくは,価値 のある) 証拠と考え,他の事柄に当てはめようとすること.

    (事例)「イタ車は金の無駄遣いだ.俺は前にアルファ・ロメオに乗っていたんだが,4年間で3回も大修理することになった.」

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  5. 人類の無知に訴える論証(Appeal to Ignorance【英】)
  6. まだ誰にも証明されていないことを利用して,自分の主張を正当化させること.

    (事例)「お化けが実在しないという証拠は無い.だから,お化けは実在する.」

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  7. 伝統に訴える論証(Appeal to Tradition【英】)
  8. 伝統や文化的信念を使って何かの正当性や正しさを主張すること.「い もそうやっているのだから,それが正しい」という形式のこと. 

    (事例)「この大学ではもう100年以上もこの評価方法を使って成績をつけてきたんだ.その成績評価モデルをやめるなんて馬鹿げてる.100年以上も正しかったんだから,これの方法で間違いは無いんだ.」

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  9. 結果に訴える論証(Appeal to Consequence【英】, Argumentum Ad Consequentiam【羅】)
  10. ある前提を採用した場合の結果の是非や望ましさに基づいて,その前提の真偽を結論付けること.

    (事例)「子供たちにテレビを見せないようにすれば,子供は低俗なテレビ番組をみないですむだろう.だから,家からテレビをなくしてしまうことが子供たちにとって最良の方法だね.」

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  11. 威力に訴える論証(Appeal to Force【英】, Argumentum ad Baculum【羅】)
  12. 相手に恐怖を与えたり威嚇しながら論争すること. 

    (事例)「「落ちこぼれゼロ」方針に沿って教育しないと今の職を失うことになるよ.それが最良の教育方法なんだから.」

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  13. 個人的無知に訴える論証(Argumentum ad Ignorantiam 【羅】)
  14. 特定の人やグループの無知につけ込んで自分の主張を正当化すること.

    (事例)「私を信用して下さい.この電気パネルを交換しないと火事が起こるかもしれませんよ.ほらココが腐食してるでしょう.そこから火花が飛んで被覆ケーブルを燃やすんです.」

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  15. 衆人に訴える論証(Argumentum ad Populum【羅】)
  16. 事実や論証ではなく感情的弱さに訴えかけることで人々の支持を得よう とすること.もしくは広く受け入れられている理論が真であることを人に納 得させようとすること.

    (事例1) 「この選挙は,政治目標達成の道半ばで無念にも病に倒れた亡き父の弔い合戦です.」

    (事例2) 「私のことは嫌いでも,AKB48のことは嫌いにならないで下さい!」

    (事例3) 「多くの人がお化けの存在を信じているのだから,お化けは存在する.」

    (事例4) 「 飛行機で泣く子供にキレる大人は「人生の敗者」
     

    参考資料

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  17. バンドワゴン効果(Bandwagon Effect【英】)
  18. 多数がある選択肢を選択している現象が,その選択肢を選択する者を更に増大させる効果.衆人に訴える論証が成功した時に発生する効果.

    (事例)ファッションやアイテムの流行など多数.

    参考資料

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  19. 論点先取(Begging The Question【英】, Petitio Principii【羅】)
  20. 証明すべき命題が暗黙または明示的に前提の1つとして使われていること. 特定の答えや共有信念を予想して質問をすること. 

    (事例)「幽霊は実在する.なぜなら,私は幽霊としか説明のしようがない異様な存在を確かに目撃したからだ.」

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  21. 白黒思考(Black or White Thinking【英】)
  22. 実際には複数(3つ以上)の可能性があるのにも関わらず,二者択一を示唆すること.ある範囲の選択肢があるのにそのうちの両極端しか考えないこと.

    (事例)「お前が俺たちの仲間にならないなら,お前は敵だ.」

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  23. チェリー・ピッキング(Cherry Picking【英】)
  24. 特定の目的に適した議論をするために,一部のデータや証拠だけを拾い上げ,それ以外のものを無視してしまうこと.数多くの事例の中から自らの 論証に有利な事例のみを並べ立てることで,命題を論証しようとすること.

    (事例)「水素水含有食品が健康に良いことはこの大学の教授の論文から明らかです.」

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  25. 循環論法(Circular Reasoning【英】)
  26. あることを証明するために根拠のない証拠を用い,そこで証明したことを 後の論証で元の根拠の無かった証拠を証明するのに用いること.Yを証明するのにXを使い,Yを使ってXを証明すること.
     

    (事例)「神は存在します.聖書にそう書いてあるからです.そしてそれは神の言葉を記しているのです.」

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  27. 合成の誤謬(Fallacy of Composition)
  28. 何かの部分もしくは全体の合成から誤った結論を導くこと.何かの部分 もしくは全体が他の何かの部分もしくは全体にどのように関わっているかに ついて間違った仮定をすること.

    (事例)「このバスケットボールチームのメンバーは誰も優れた才能の 持ち主だ.だからこのチームはリーグの中で最高に違いない.」

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  29. 確証バイアス(Confirmation Bias【英】)
  30. 個人のバイアス(偏見,先入観)に強く依存した議論を行うこと.先入観などにより特定の事実を無視すること.もしくは,仮説や信念を検証する のにそれを支持する情報ばかりを集め,反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと.

    (事例)「結局,どの記事もお金持ちはどのくらい募金しないかばっかり書いてるわね.お金持ちは自己中心的で守銭奴なのは明らかだわ.気前のいい金持ちなんて会ったことがないもの.」(気前のいいお金持ちのことはまったく無視してそう主張している状況)

    参考資料

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  31. 相関と因果関係の混同(Confusion of Correlation and Causation【英】)
  32. 2つの事柄に相関があることに基づいて単純に何かの理由を主張すること. 一般に相関関係は因果関係を含意しない.

    (事例)「暴力を振るう子供と暴力的なゲームへの興味に相関があるこ とから,暴力的なゲームは子供に暴力を生じさせることは明白である.」

    参考資料

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  33. 排中(Excluded Middle【英】)
  34. 議論において両極端な立場や状況だけを考慮し,その間にある立場や状 況の可能性を無視すること.白黒思考に類似するもの.

    (事例)「今すぐに一般人に銃を売ることを止めないと,暴力が蔓延って銃を持っていない人は撃たれることになるよ.」

    参考資料(排中律は論理学のある立場のことなので,この参考資料は関連事項程度にとどめるべき.)

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  35. 半面真理(生半可な事実)(Half Truth【英】)
  36. あることが事実であることを告げることで意図的に誰かを誤解させること. 実際にそれが事実であるとしても重要な情報を告げないこと.

    (事例)トランスミッションに問題を抱えていて過去に三度も安全性に 関するリコールが行われているのを知っていながら「このクルマは四輪駆動なのにリッター30kmも走ってフル装備で すから間違いないですよ!」と顧客に薦めるセールスマンなどの態度のこと.

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  37. 多重質問の誤謬(Loaded Question【英】)
  38. 多重質問とは議論に参加する人が受け入れていない前提に基づく質問の ことであり,それを使った誤謬のこと.つまり,答えることが出来たら合意 を意味するような質問をすること.または,ある人に対して,質問に解答す ることで,ある仮定への合意を強制すること.

    (事例)以下の参考資料の中の事例を参照のこと.

    参考資料

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  39. 統計の誤用・誤解(Misunderstanding Statistics【英】)
  40. ほとんど(もしくはまったく)関係のない統計データを用いて特定の考えに対するおか しな,もしくは誤った主張をすること.主張するために統計を誤解・誤用す ること.

    (事例)「この国で今年死亡した人のうち水を飲んでいた人の割合は100 %である.つまり,水は生命にとってきわめて危険なものであることが分かる.」

    参考資料

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  41. 不合理な結論(Non Sequitur【英】)
  42. 前提から帰結されたものではない不合理な推論.誤った結論.Sequitur は推論の結果として「前提から導かれる結論」のことである.

    (事例)「前回の月食時はサンフランシスコで地震があったよね.だから 今度の金曜の月食の時はサンフランシスコ中がパニックになるのは明らか だな.」

    参考資料

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  43. 全知(Omniscience【英】)
  44. すべての事柄やすべての状況を説明するような考えを導き出すために裏付けの ない知識などを用いること.

    (事例)「女性は無精髭の男性が好きで,男性は金髪女性が好きだという ことくらい誰でも知っているんだよ.」

    参考資料 (この資料には宗教的な意味合いにおける全知のことが述べられている.)

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  45. 前後即因果の誤謬(Post Hoc, Ergo Poropter Hoc【羅】)
  46. ある事象が別の事象の後に起きたことを捉えて,前の事象が原因となっ て後の事象が起きたと判断する誤謬(因果の誤謬)のこと.

    (事例1)「金融危機は共和党が政権を握った後に起きたので,現在の危機 的状況は共和党のせいだ.」
    (事例2)「高校や大学への進学率はかつてないほど高くなってきた.それでも少年犯罪 や問題を抱えた若者はかつてより多い.若者が教育によって堕落させられていることは明白である.」

    参考資料

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  47. 不存在の証明/悪魔の証明(Proving Non-existence/Devil's Proof【英】,Probatio Diabolica【羅】)
  48. 何かが存在する,もしくは正しいことを証明する代わりに,議論の相手 がそれの不存在を証明することを求めること.議論の相手が不存在性を証明 出来ないことによりその存在性を主張すること.

    (事例)「前世紀に宇宙人が地球に来ていたことを僕が信じてるから君は 僕のことを狂った奴だと思っているんだろうけど,それなら,宇宙人が来て なかったことを証明してごらんよ.」

    参考資料

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  49. レッドヘリング/燻製ニシンの虚偽(Red Herring【英】, 【羅】)
  50. 主題を変えることで相手の注意を逸らすこと.「燻製ニシン」の由来に ついては以下の参考資料を参照のこと.

    (事例)記者:「どうやってお客さんに悟られないように法外な料金をふっかけていたんですか?」
        社長:「今は真剣にビジネスの話をしてるんだ.良品質な製品を作るために最大限の努力を払ってきたんだよ.」

    参考資料

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  51. 具象化/物象化(Reification【英】)
  52. 抽象的もしくは仮想的な物や考えを具体的に存在するもののように扱うこ と.抽象の具現化のこと.

    (事例)「君が心を開けばね,恋の方が君を見つけてくれるよ.」

    参考資料

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  53. 「滑りやすい坂道」論(Slippery Slope Argument【英】)
  54. 坂道をどんどん滑り落ちるように歯止めが効かなくなるような論のこと. 手続き,法律,もしくは行動における変化が望ましくない結果のドミノ効果を生み出すようなこと. あることが起きたら,一連の他の不都合なことが起きることが避けられないことを意味する.

    (事例1)「ファストフード業界が各商品の量を増やし続けたら,次に確実 に起きるるだろうと言えることは,例えばマクドナルドはバケツサイズのコー ラとでラージサイズピザと同じ大きさのハンバーガーを出してくるだろうね.」
    (事例2)「これだけ辛い食品で業界が競い合っていたら,そのうちに一 口食べただけで病院送りになるような商品が出てくるだろうね.」

    参考資料

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  55. 少数の法則(Small Numbers Statistics/The Law of Small Numbers【英】)
  56. 大規模人口に関わる事柄について議論をするのにあたり,そのごく一部の 少数人口に関わる事例を用いること.もしくは,少ないサンプルによって得られた統計的な結果を無意識のうち に正しいと思い込んでしまうという人間の性質をさしている.実際には,数 の大小には関係がなく,人が情報を判断するときにはサンプルサイズという数を無視して,目に見える情報や知っている情報から何となく正 しそうな因果関係を見つけて満足してしまうために,少数であってもある種の法則が成り立ってしまうこと.

    (事例)「30人の男女に3ヶ月間毎日リンゴを食べさせた結果,9割以上の 人の体重が3kg減少しました.リンゴに体重減少させる効果があるためにダイエッ トできたのです.」

    参考資料
    注意 : 確率・統計学における 「 大数の法則」を理解していることが前提となっている)

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  57. ストローマン/藁人形論法(Straw Man【英】)
  58. シナリオを捏造すること.もしくは相手に不利になるようなシナリ オを作り上げてそれを攻撃すること.AさんがXという地位にいるとき,Bさ んがYという(Xを歪めた)地位を使いAさんを攻撃すること.

    (事例)Aさん「NASAは宇宙探索に金を使いすぎている.」
        Bさん「君は反アメリカ主義なのか?宇宙は人類開拓史の未来だぞ.」

    参考資料

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  59. やり返し論法(Tu Quoque【英】)
  60. 無関係なことを言い返すことで相手の議論に乗らないようにすること. 非難に非難で応じること.

    (事例)A君「菜食主義の推進は,動物虐待減少のための最良の方法だ.」
        B君「ほう,君はこの前ペペローニピザを食べていたじゃないか. 菜食主義のことなんか本当はまったく関心がないんだろう?」

    参考資料

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