Naoyuki Sato, Future University Hakodate

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研究

業績
-2008 2009-
物−場所連合記憶課題中の脳波ー機能的MRI同時計測 (2005~2008)
海馬依存記憶である物−場所連合課題において、記銘中のヒト頭皮脳波シータパワーはのちの想起成績と相関することがあきらかになっているが、実際のところ、頭皮脳波シータと海馬の活動がどのような関係にあるかは明らかでない。そこで、私たちは頭皮脳波ー機能的MRIの同時計測によって両者の関係を明らかにし、私たちの計算理論を検証することを試みた。結果では、同時計測で得られた脳波からアーチファクト除去することで、頭皮脳波のみの研究結果と同様に、記銘中の脳波シータパワが想起成績と相関することがわかった。さらに、これら頭皮脳波シータパワは、海馬のBOLD信号と有意に相関することがわかった。これらの結果は、ラットと同様に、ヒトにおいても海馬においてシータダイナミクスが記憶貯蔵に役立つことを示す。

計算理論ーヒト被験者実験の複合解析 (2005~2008)
私たちの計算理論によればヒト海馬においてもシータ位相コードが記憶をつくるのに役立っていると予想される。これを検証するため、私たちは、計算理論とヒト被験者実験の複合解析を試みた。海馬依存の物ー場所連合記憶課題を遂行中の眼球運動を計算理論の入力とし、計算理論から予測される記憶ネットワークを検討した。結果では理論から予測されたとおり、数秒程度の視覚入力からCA3の物ー場所連合の階層的ネットワークが得られた。さらに、得られた記憶ネットワークの階層性の程度や記憶の想起成績は、観測されたヒトの記憶成績と有意に相関するが、サッカードや瞬きの頻度は、ヒトの記憶成績とは有意には相関しないことがわかった。以上の結果は、シータ位相コードおよび結果として得られる階層的記憶ネットワークがヒト脳に存在することを支持する。

物−場所連合課題遂行中の脳波および視線計測 (2004~2007)
シータ位相コード理論からの予想として、物−場所連合課題遂行中は海馬と大脳の関連部位において脳波のシータ成分(4-8Hz)が増えるはずである。これを実験的に検証するために、自由観察条件でのヒトの物−場所連合記憶課題中に、58チャンネルの頭皮脳波および両眼の視線を計測した。 結果では、課題の正答率が高いときには、頭頂部の広い領域で、覚えている最中の脳波のシータ成分が増えていたことがわかった。 眼球電位にはこのような相関はないので、正答率に関連するシータ成分は脳波由来の成分にまちがいないと考えられる。 以上の結果は、自由観察条件のヒトにおいて、シータ位相コードのダイナミクスの存在を支持する結果である。 シータ位相コードはヒト、ラットに共通するダイナミクスでありうる。

シータ位相コードを用いた物体−場所連合記憶の海馬神経回路モデル (2003~2008)
行動時のヒト視覚で得られるような時空間構造をもつ入力を仮定し、かつ海馬のシータ位相コードを用いた ことで、複数の物体−場所連合を海馬CA3の結合として記憶貯蔵できるかを検証した。計算機実験の結果では、物体とシーンの入力が一度の経験により、CA3の結合強度として記憶貯蔵された。想起実験によれば、個々の物体-場所連合が各時間に想起され、複数の物体-場所連合は時間コードとして表現された。これらの結果は、空間サイズの異なる情報(物体、シーン)の入力の持続時間の違うことから、海馬におけるシータ位相コードとして、一度の経験から階層的な神経回路網(認知地図)が得られたことを示す。

海馬のシータ位相歳差の時系列記憶貯蔵能力の検証 (2000~2003)
計算機実験により位相歳差の記憶貯蔵の能力を検討した。位相歳差は数秒の時間スケールで変化する時系列の記憶保存ができ、たとえ入力にノイズが含まれていても1度の経験での記憶保存できた。一方、位相歳差を用いない場合は、何度も同じ時系列を与えても、記憶保存できる時系列はシナプスの時間スケール (100ms以下)に限られた。よって、位相歳差は行動の時系列の記憶保存にとって、必要なダイナミクスであると結論される。