令和2年度入学式 理事長・学長式辞(7分間)
新入生のみなさん、編入生のみなさん、公立はこだて未来大学へようこそ。
歓迎、そしてお祝いを申し上げます。
保護者・ご家族の皆様にも心からお祝いを申し上げます。
世界中でコロナウィルス感染症(COVID-19)が猛威を奮っています。
4月16日には日本全体に緊急事態宣言が発令されました。
本来であれば、入学式にはみなさん、そして保護者の方々にもいらしていただいて、未来大学の開放的なキャンパスで、オープンスペース・オープンマインドの心を実感していただき、大学生活のスタートとする機会となるはずでした。
新入生の皆さんには、今日から大学生あるいは大学院生としての学びがはじまります。
未来大学は情報科学の大学です。みなさんは情報科学を学びます。
「情報で社会をデザインする」ことを学びます。
コロナウィルス感染症が世界を変えつつある今、これからどのような社会を作っていくのか、そこに情報をどのように活用するのか、これはますます切実な課題となっています。
「情報で社会をデザインする」、そのために、ふたつの「こころ」を育みましょう。
一番目は「科学するこころ」です。
具体的には、物事を筋道を立てて考える論理的思考、言われたことを鵜呑みにせずに自分で考えてみる批判的・探究的思考、現実から得られるデータに立脚する実証的思考です。
コロナウィルス感染はどのようにして拡がるのか、疫学的な知見やモデルが筋道を立てて説明してくれます。
しかし、本当に家の中に閉じこもる必要があるのか、もし皆が勝手に外に出て集まったら何が起こるのか、自分で考えてみましょう。
そして、感染封じ込めの有効な方策を立てるには、今、どこに、どれだけ感染者がいるのか、無症状の感染者はどのくらいいるのか、正確なデータが必須です。
二番目は「コミュニティのこころ」です。
Common Goodという考えがあります。個々人は自分の満足を追求すれば良く、あとは市場メカニズムが最適解に導いてくれる、という従来の思想を越えて、個々人も社会にとって、コミュニティにとって良いことを尊重すべきだという考えです。
個人の価値と社会の価値は多くの場合一致しません。
今回のコロナウィルス感染症に関して、中国やシンガポールなどの国では情報技術を駆使した強力な感染追跡を行った結果、早期に封じ込めに成功しています。その一方で個人の人権無視だという批判も出ています。プライバシー意識の高い西欧諸国や日本では強力な感染追跡までは行わなかった結果、感染が拡大
してしまい、ヨーロッパでは感染追跡のためのプライバシー制限の議論が始まっています。
この問題には正解はありません。コミュニティの構成員が開かれた議論を通じて合意を形成する必要があります。
そして信頼される社会システムを作り出す必要があります。
それが「コミュニティのこころ」の要となります。
情報で社会をデザインする、それを支える二つのこころ、これは、気候変動, 貧困, 人口減少・高齢化, 地方創生など、これからの社会を取り巻くあらゆる課題に当てはまります。
コロナウィルス感染症はまだまだ容易には終息せず、しばらく続くでしょう。
未来大学では全学的にオンライン授業の準備を進めています。
オンライン環境でどのような学びが実現できるのか、授業はどうなるのか、プロジェクト学習はどうなるのか、研究室ゼミは、サークル活動は、友達はできるのか。
これは未来大学にとどまらず、日本全体、世界規模での実験になります。
正解はありません。それだけにやりがいもあります。
新しい学びの実現を目指して、未来大コミュニティとして、ともに力を合わせて挑戦しましょう。
2020年4月20日
公立大学法人 公立はこだて未来大学 理事長・学長
片桐 恭弘