研究科長メッセージ

公立はこだて未来大学研究科長
平田 圭二(ひらた けいじ)

未来大の学部ディプロマポリシーには「研究的態度」という言葉が謳われています。未来大を飛び立って行く学生の皆さんにしっかり身に付けて欲しいと思っていることです。一人称的な説明をすれば、自身が直面している問題を探求し、本質を見抜き、解決策を練り上げる。その解決策で正解に近づけるかどうか分からないけれども、そうやってさまざまな問題に積極的に対峙し続ける態度といえるでしょう。

では、その「研究的態度」は、チーム・コミュニティ・社会の中でどのような価値を持つのでしょうか。
それは「人を説得する力」であり、「正しく説得される力」だと思うのです。例えば、あなたはプロとしてゲーム制作するという目標を持っているとしましょう。そのゲーム作りのために、あなたは、周りから企画開発メンバ・開発環境・時間・予算などのリソースを与えて貰う必要があります。あなたはそのリソースを獲得するために、同僚や上司やプロデューサという周りの人々を説得しなければなりません。さて、どうやって説得しますか?「何となく面白いと思ったので」、「僕、とにかく好きなんです」といくら熱弁しても、恐らく周りの人々を説得するのは難しいでしょう。この時、あなたの話を聞いた人々は「このゲームの人気が出る理由に納得できない」、「すでにどこかにあるようなアイデア」、「このゲームの世界観は、今のお客さんが求めているものなのか」、「今のゲーム機の性能を活かしてない」、「開発計画や商品化への道筋が見えない」などと感じるかも知れません。このような疑問のすべてに明解に答えられなければ、あなたはゲーム作りのためのリソースを得ることはできません。

ここで認識していただきたいのです。皆さんが大学院で学び実践する研究・論文執筆・学会発表は、人を説得する基本型だということを。論文の一般的な構成を思い出して下さい。まず人々はこれまでどんなゲームを作ってきて、それはゲームの歴史をどう変えてきたのか。その時どきで人々は何を感じてゲームをプレイしていたのか。そうやって、時代の流れを自分の観点から解釈してみせて、説明を受ける側にゲームの歴史観・時代観を共有してもらいます。その知識や認識を踏まえた上で、皆さんに楽しんでもらうゲームのアイデアを提案します。もしうまく歴史観・時代観を共有できていれば、説明を受ける側は無意識の内に自然とあなたが主張したいアイデアの方に流されていて、提案されたアイデアがまるで必然のように聞こえる筈です。これが説得力というものです。次は、その新ゲームのアイデアを実現できるだけの能力が自分にはあることを示さねばなりません。周到な計画を立てて、チームをまとめて牽引する力があることを実績をもって示さねば、上司があなたにチームメンバーを割り当ててくれることは難しいでしょう。そして最後に、作ったゲームのどこをどうやって評価すれば、次の改良につなげられるかを示します。地道にゲームの改訂や改良を続けて、長くプレイヤをつなぎとめておくことができて初めて世の中の人々に楽しんでもらえるゲームと言えるのだと思います。

もしこの一連の作業を着実にこなして、周りの人々にしっかりとプレゼンできたなら、人は納得せざるを得ません。あなたの提案は必ず採用されます。この「人を説得する力」こそが研究的態度の社会における価値なのです。この基本形は、新ゲームの提案だけでなく、プロの仕事のあらゆる場面で効果を発揮します。それゆえ、実際にはいろいろな呼び方をされていますが、多くの人たちが研究的態度を身に付けたいと望んでいます。ここで説明している研究して論文を書いて人前で発表するという方法論は、先人達が500年以上かけて試行錯誤しながら築き上げてきたものです。理屈の上では、未来にさらにより良い人を説得する方法が開発される可能性はあります。しかし現時点で、この研究的態度を越える効果的な方法を私は知りません。そうして、人を説得する基本形を確実に身に付けたら、そこで初めて自分なりに応用していくことになります。巷間では「守破離」とも「型無しではなく、型破りを目指せ」とも言われています。

最後にもう1つ。今度はあなたが説得される側になった時のことも想像してみてください。あなたが誰かの新ゲームの提案を聞いて、その提案者に自分が持っているリソースを分け与えるかどうか判断する側に立っているとしましょう。その提案者はもしかするとあなたとゲームを共同開発することになるかも知れない人になります。正しい判断をしたいですね。では、そのためにはどういう情報を知っていなければならないのでしょうか。もうお分かりだと思いますが、論文に盛り込むべしと教えられた内容を一通り提案者から聞き出せば、あなたはそこから最も正しい判断を導けます。つまり研究的態度を身に付ければ、「正しく説得される力」も得られるのです。

学生の皆さん。未来大の大学院で学び実践する研究・論文執筆・学会発表を通じて、研究的態度を身に付けて下さい。それは、社会において「人を説得する力」、「正しく説得される力」という大きな価値を生み出します。

研究科長のプロフィール