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2021-06-08

[Changemakers 未来を創る卒業生]兵頭和幸さん

[Changemakers 未来を創る卒業生]では情報科学で社会の課題に取り組んでいる卒業生の活躍を紹介します。今回は、福岡工業大学情報工学部情報工学科 助教の兵頭和幸(ひょうどうかずゆき)さんです。

兵頭さんは、公立はこだて未来大学に第1期生として入学後、学部、修士、博士と計9年間を未来大で過ごし、2009年に博士(システム情報科学)を取得、2012年に現職に就きました。

兵頭さんは在学中から、電気エネルギーなどを使わず重力のみで歩き続ける受動歩行ロボットの制作、および受動歩行の歩行分析や福祉機器への応用に取り組んでいます。2011年には、兵頭さんの博士研究を引き継いだ未来大の後輩が、受動歩行ロボットの最長歩行時間のギネス世界記録を塗り替えました。兵頭さんは現在、受動歩行ロボットを起点に、研究のみならず、教育活動や地域社会貢献活動にも精力的に取り組んでいます。

※所属・役職名は掲載日現在のものです。

-今取り組んでいるお仕事や、夢中になっている創作活動について、教えてください

学生の頃から行っていた、受動歩行ロボットの研究を続けています。非常にシンプルなつくりですが、だからこそ奥深くまだまだ面白い要素がありそうだと思っています。

受動歩行ロボット

このロボットは、コンピューターも、モーターやセンサーもついていないので、情報科学なのかと思われるかもしれませんが、このロボットから得られるデータに情報科学の要素がいっぱいあります。例えば、ロボットを制作する際には、コンピューター上で設計し3Dプリンターで印刷を行った部品を使用します。また、このロボットの歩行を計測するためには、カメラやモーションキャプチャーといったセンシング技術を使います。さらにセンシングした結果を分析する際には、数理モデルを調べ、数理的要素と実物で実現されている要素が一致するかを検証します。そういったところが、まさに情報科学です。

この研究は、福祉分野にも応用が可能です。人間は歩くとき、足を振り上げるのに筋肉を使うわけですが、振り下ろす時は重力に任せて下ろしますよね。単純化したカタチで歩行に重要な要素がわかれば、歩行要素を人間の歩行に応用できます。具体的には、転倒を予防する靴の形状を開発する研究を、学生時代の担当教員だった三上先生と行いました。この研究を発展させる形で、受動歩行の研究を福祉へ応用しようという動きにつながりつつあります。

少し傾斜をつけたローラーの上を歩かせている受動歩行ロボット

 

-どんな社会課題に取り組んでいますか?

受動歩行ロボットは、研究だけでなく教育活動にも用いています。ここ数年は大学と地域連携の一環で「新宮町寺子屋事業」を開設し、小学生を対象とした模擬授業の講師を務めていて、そこでは簡易的な歩行ロボットを実際に作って楽しんでもらっています。寺子屋で小学生に作ってもらうと、うまく歩くものと歩かないものが出てきます。そうすると小学生たちは、なぜあっちが歩くのにこっちが歩かないのかと観察し始めます。この観察で、情報科学的な情報整理をする過程を体験してもらうわけです。いつか「あの時歩行ロボットを作って楽しかったな」と思い出してもらえるような授業をして、工学やモノづくり全般に興味を持ってほしいと思っています。

もう一つ、研究の計測で使っている技術を、小規模企業のウェブシステム構築に使えないかと動き始めています。小さな企業でニッチになればなるほど、既存の一般的なシステムがそのままでは使えず、その企業専用にカスタマイズする必要が出てきます。それならその企業専用に作ってしまって、継続的に更新していく方がいいのではないかと、最近ふつふつと考えています。地元で頑張っている企業で、「コンピューターやITを導入したらもっと便利になるのに」という所がたくさんあるので、そこに手を差し伸べる形で地域社会に貢献したいと思っています。

-これから情報科学の道を歩む人たちに望むことは何ですか?

情報科学と一口に言っても、かなり広い世界になります。その世界の中で、自分の得手・不得手を見つけること、これが一番に伝えたいことです。大学で4年間情報科学を学んだけれど、例えば実はプログラミングが嫌いだとか、出てくると思います。その時に、プログラミングを不得手とした場合に逆に何が得意なのかを見極めて、その得意なところで情報科学の技術を混ぜて考えながら、学んでいくのがいいと思います。失敗も多くすることになると思いますが、自分の得意とする知識や技能を伸ばしてください。

授業中の兵頭先生

-未来大での発見、驚きは何でしたか?

未来大を出てから未来大の面白さや特徴に気づくことが多くありました。教員と学生の距離が近く、学科間でも交流があることは、他の大学ではそれほど当たり前ではないとわかり、未来大のカリキュラムは実は非常にユニークで面白いものであるということに気づきました。

また、プロジェクト学習で学生のときから地域の課題解決を意識したテーマに取り組めるのは、やはりユニークです。この経験は、社会に出た先のことをイメージできるという意味でも、非常に大きな経験だと思います。学生時代に少し残念だったことは、修士課程への進学よりも、学部を卒業してすぐに就職して社会で自分を試したくなる友人が多かったことです。私としては修士も視野に入れて、探究心をもってプロジェクト学習に臨んでほしいという気持ちです。

私が現在所属している学科でも数年前から、未来大ほど地域連携の色合いは強くないですが、プロジェクト学習を開講することになり、そこでは未来大での経験が大いに活きています。その他にも学生同士が評価し合う「相互評価」を取り入れたり、複数の研究室での発表会を積極的に行ったり、大学教員として未来大での経験を参考にしているところが多くあります。

-最後に、未来の学生、卒業生となる皆さんへメッセージをお願いします

一言でいえば、「技術を振り回して遊べ」です。コンピューターが手元にあれば、自分のやりたいことは結構いろいろなことができます。最近でいえば、ボーカロイドを使用した作曲活動などコンピューター1台あればできてしまいます。コンピューターを使って自分の作ってみたいものを作る、ということにぜひチャレンジしてほしいです。

授業や演習・実習の中でしんどい科目があるかもしれませんが、そのしんどさの中で、作る楽しさを見出しながら頑張ってください。苦しむけれど楽しむということをやっていけば、確実に自分の技術になっていくはずです。