社会をデザインする大学

公立はこだて未来大学は、研究室や教室に閉じこもることなく「街に出る」研究・教育活動をモットーとしてきました。情報、デザイン、複雑系、知能といった領域の学問は、いずれも社会実践のただ中でこそ新しい発見があり、生き生きと学ぶことができる性格をもっています。街に出て、地域社会の問題を発見し、問題を取り巻く固有の環境条件を理解し、解決策をユーザや市民と共に考え、システムとしてかたちにしていく—このような現場志向の教育や研究のスタイルは、そのまま社会をデザインする活動へとつながります。

例えば、2013年に函館市電開業百周年という節目を迎えた函館市企業局交通部との連携で、交通部シンボルマークや車両番号書体のデザインリニューアル、百周年記念の「百」のロゴとフラッグのデザインなどを、本学の教員や学生たちが実現させました。

大学ならではの連携の仕組みと専門性を生かして「社会をデザインする」試みを、地域社会との持続的なかかわり合いのなかでさまざまに展開しています。

マスコットキャラクター提案について打ち合わせを行う学生たち

道南いさりび鉄道ロゴ

重点研究領域の紹介

本学では教員間のさまざまな学際的共同研究が行われています。そのなかでも、本学らしい強みを生かして、時代の要請や社会の要請、そして地域の要請に応えていくべきテーマとして、次の3つの重点研究領域を掲げています。それぞれの領域の頭文字「M」から、「3つのMIT」と呼んでいます。

Mobile(モバイル) IT

情報技術は社会を変える。この言葉が実感をもって受け止められるようになった背景には、携帯電話やスマートフォン、ウエアラブルコンピュータなどの急速な普及があり、さらにその背後には、知的な処理ができる計算回路の超小型化・高集積化と、ビッグデータといわれるような社会全体の膨大なデータのネットワーク化があります。「モバイルIT」は、情報技術の進化を新しい社会のサービスと結びつけて、市民ひとりひとりが持ち歩くことができる21世紀のモバイルITインフラを構築するための研究開発に取り組むものです。政府によるトップダウンのインフラ構築の時代は終わりました。市民=ユーザの声に耳を傾け、寄り添い、カスタマイズされたサービスを届けることが求められています。モバイルITは、超高齢社会を迎えた地域社会を、情報とネットワークの技術が可能にする21世紀の「スマートシティ」へと再生する取り組みです。

中心的な研究領域の1つとして、2012年度からモバイルITで公共交通の新しいかたちを追求するプロジェクトをスタートさせました。学内に「スマートシティはこだて・ラボ」を設置するとともに、函館地域での社会実践を推進するための組織として「NPOスマートシティはこだて」(代表: 松原仁・本学教授)を設立。2013年秋には、函館市を実証実験フィールドとして、世界で初めての全自動制御によるフルデマンド公共交通システム「SAVS(Smart Access Vehicle System)」の運用実験に成功しています。

Marine(マリン) IT

マリンITは、水産・海洋分野とITを融合するための取り組みで、世界で唯一、本学が掲げるきわめてユニークな研究領域です。海という自然を相手に、季節や時間、天候によって変化し続けるようすや、水産物の資源量を正しく捉えるための技術の開発と社会実践に取り組んでいます。

例えば、水深ごとの水温や潮流などを遠隔で自動観測できるユビキタスブイシステムでは、漁業や養殖を営む事業者がみずから海に出ることなく、手元のスマートフォンやタブレットでリアルタイムにデータを確認できる画期的な操業環境を実現しました。

船の上でタブレットを駆使してデータを確認する様子

また、船の位置情報と魚群の情報を漁船同士で共有しながら漁獲量をコントロールすることで乱獲を防ぎ、適正な資源管理にもとづいた将来世代にわたる持続可能な漁業が営めます。従来は船内の黒板や海図、無線電話を使ってアナログで行われていた資源評価作業をデジタル化して、タブレットとGPS(衛星測位情報システム)で置き換えることにより、より合理的で快適な操業を可能にしました。加えて、累積したデータを呼び出して操業の参考にしたり、過去のデータを分析して資源状況を把握するなど、従来は水産試験場でしか出来なかったような分析が漁業者側でもできるようになり、主体的で戦略的な取り組みを可能にしています。地域の事業者と連携した取り組みは、道内の留萌市や福島町をはじめ日本各地へ、また海外では韓国やインドネシア(バリ島)へと広がっています。

Medical(メディカル) IT

社会に潜在する課題やニーズをITによって日の目を当てて解決する取り組みは、地域医療の現場でも進められています。本学では地域の病院や介護施設などと連携した教育・研究の取り組みを2003年から持続的に展開、メディカルITと名付け重点領域の1つに位置づけています。

超高齢社会に突入した日本の地域社会では、「人はどう良く生きられるか」という課題に対して、医療や介護の現場、あるいは市民ひとりひとりがどう向き合うかが鍵を握ります。本学では2005年度のプロジェクト学習を通じて、患者視点での医療情報システムを産学連携により提案した取り組みが、地域医療に新しいコミュニケーションの可能性を開いたとしてグッドデザイン賞を受賞するなど、高い評価を受けています。最近では、長期入院を余儀なくされるような乳幼児患者とそのご家族をフォローする入院マニュアルの作成や、認知症の予防や症状緩和につながる高齢者との語り合い・ライフヒストリの傾聴を通じたケア、健康・医療情報のライフログ化など、多岐にわたるテーマに教員と学生らが一体となって取り組んでいます。

また、医用情報工学の最先端領域の研究でも独自性の高い取り組みを行っています。藤野雄一教授、佐藤生馬助教らが中心となって、医師の負担低減や患者のQOL向上に貢献するための様々な技術—在宅医療システム、遠隔診断システム、非侵襲型センシングシステム、手術ナビゲーションシステム,手術ロボット、手術トレーニングシステムなどの研究開発に取り組んでいるほか、多数の教員が、様々な領域からのアプローチでメディカルITに参画しています。