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2017-12-27

国際学会入賞の舞台裏
函館から世界に通じる創造を

2017年10月4~6日、オーストリア第2の都市、グラーツで開催されたゲームベースの学習に関する国際学会・European Conference on Game-based Learning 2017で、4年生の佐々木智広さんと曲木拓朗さんのチームが3位入賞という快挙を果たしました。二人とも、この学会参加が初めての海外渡航です。教育用ゲームの開発から英語での論文作成、学会でのプレゼンテーションとデモンストレーションまで、世界の舞台に立った二人の体験からはコミュニケーション能力の向上をはじめとする、はこだて未来大学(以下・未来大)の学びの先進性が見えてきます。佐々木さんと曲木さん、そして彼らの研究を指導したマイケル・ヴァランス教授にお話を伺いました。

国際学会に挑戦してみないか?

国際学会への挑戦は、佐々木さんと曲木さんが3年生の時に持ち上がりました。
学会で発表した教育用ゲーム『History Explorer』の原型はプロジェクト学習の「ゲーム・デ・エデュケーション」で作られたものです。

曲木: 以前から、機会があれば歴史上の空間を再現したVRシミュレーションを作りたいと考えていました。ゲームを使った教育がテーマの「ゲーム・デ・エデュケーション」で、その構想を実現できるのではないかと考えたことが『History Explorer』を制作するきっかけでした。

『History Explorer』は、ロールプレイング形式で江戸末期のペリー来航前後の歴史を学べるゲームです。

佐々木: 江戸末期は、国内では開国や戊辰戦争と時代の幕が転換し、国外ではアヘン戦争や産業革命といった大きな動きがありました。日本の歴史の中でもダイナミックな動きがある時代です。学習とゲームをつなげる観点からも、この時代のVRシミュレーションゲームを作ろうと考えたのです。そして、ゲームを見たヴァランス教授から「このゲームを発表できそうな国際学会があるけど、挑戦してみないか?」と勧めていただきました。

その時、二人は「とても驚いた」と口をそろえます。

曲木: 国際学会に参加するなんて考えたこともありませんでした。驚くと同時に、自分たちの作ったゲームがどんな可能性を秘めているのか、試してみたい気持ちも湧いてきました。

佐々木: 原型を作ったプロジェクト学習には全力で取り組んでいましたが、あくまで未来大の授業の範囲内のものだととらえていました。そのため、国際学会にと提案いただいたときは喜びと同じだけ驚きを感じました。

ヴァランス教授: このゲームには国際的な評価を得られるポテンシャルがあると感じました。しかし、このままでは通用しないことも二人には伝えました。研究のための方法論やデザイン、プログラムに関する要求などハードルの高いミッションを伝え、それを私のサポートがあったにせよ、彼らは最大の努力をはらって着実にレベルアップをしていきました。ゲームデザインの改良については定期的なミーティングを実施し、進捗状況の確認と議論を積み重ねたのです。

両脇の学生と肩を組んで笑顔のヴァランス教授
左から佐々木さん、ヴァランス教授、曲木さん

審査通過、そして緊張の学会当日へ

二人は、プロジェクト学習で制作した日本語のゲームと報告書を、ヴァランス教授の指導によって国際学会で発表が可能なレベルまで改善を進めていきました。世界から研究者や企業のチームを含む64組のエントリーがあり、佐々木さん、曲木さんのチームを含む17組が論文審査を通過。二人はEuropean Conference on Game-based Learning 2017へ参加する道を自ら切り拓いたのです。

佐々木: 『History Explorer』は日本の小学生を対象にしたゲームでした。そのため、海外の方にも遊んでもらえるように日本の歴史の解説を加え、説明に使う用語を見直すなど、「日本の歴史を知らない人」の視点に立ったリニューアルを行いました。

曲木: ヴァランス教授に指導していただきながら英語の論文を作り上げましたが、かなりの時間がかかりました。ゲーム内容も旧バージョンの『History Explorer』を一から見直し、操作性やゲームらしさの向上といったシステムの構築、新しいシーンの追加など、ユーザーにとってより扱いやすく、楽しめるゲームになるよう改善を行いました。一連の経験を通して、自分はやれるんだという自信もつきましたね。

本番ではプレゼンテーションを佐々木さんが、ゲームのデモンストレーションを曲木さんが担当することに。二人にとって、もちろん初めての国際学会での発表です。結果はともかく、自分たちが納得できるものを、より良いものを作りたいという気持ちが半年以上にわたる準備期間のモチベーションになったと言います。

佐々木: 1ヵ月前からは本番同様の発表を、時間を計りながら何度も練習しました。未来大では隔週で大学院の修士課程の学生向けに、英語で研究発表をするイベントがあるので、その機会を利用し、20~30人を前に模擬発表もしました。練習のたびに教授や先輩、友人たちから改善点やヒントをいただき、それを研究にフィードバックし、また発表練習をするという繰り返しによって、少しずつレベルアップすることができました。これもモチベーションを高く維持できた要因だと思います。

そして、いよいよ学会当日。審査員は教育分野の研究者たちです。論文のプレゼンテーションと質疑応答、ゲームのデモンストレーションを行い、「このゲームが教育にどのように役立つか」の審査を受けます。

曲木: 足が震えるほど緊張しました。前日は、やれることはやったと思う半面、逃げ出したくなるような気持ちにさえなりました。本番では佐々木くんの発表に合わせて順調にデモンストレーションを行っていたのですが、最後の最後でクイズを間違えて、会場から笑いが…。その瞬間、「賞ではなく笑いを取ってきた」というネタをもって帰るのか、と。

佐々木: ヴァランス教授が立ち会わずに二人だけで発表を行うこと、さらに英語でのプレゼンテーションにも不安がありました。発表を終えるまでずっと緊張の連続です。しかしそれ以上に、これまでの学生生活とはまったく異なった環境の中で挑戦しているという興奮も大きかったですね。質疑応答では、学習効果の判定方法は何か、実際の学習との関連性は何かといった難しい質問を受けましたが、苦労しながらも答えることができました。

ヴァランス教授: 彼らがプレゼンテーションとデモンストレーションをしている間、私は別の会場で自分の研究発表を行っていました。私が近くにいると、審査する研究者から質問が来た時に頼りたくなってしまったでしょう。彼らには自立心と勇気、自信を持って成し遂げてほしかったのです。

そして、審査の結果、二人の発表は見事に3位入賞を果たします。

曲木: 発表が終わってやりきった感に浸っていたので、まさかの入賞でびっくりしました。

佐々木: 全力で準備を重ね、それが実を結んだので今までになかった大きな達成感を得ることができました。まさかの結果に本当に驚きました。

ヴァランス教授: 学会へ向けたサポートは簡単ではありませんでしたが、彼らのモチベーションが私のモチベーションにもなりました。未来大は先進的な大学ですが、その環境におかれただけで、すべての学生が国際学会に参加でき、さらに入賞を果たせるわけではありません。好奇心と探究心、目標に向かって努力を続けるモチベーションが彼らにあったからこそ、私も彼らを本気でサポートすることができたのです。そして、未来大の先進性を象徴するコミュニケーション能力を国際学会の場で発揮し、結果を出した二人をとても誇りに思っています。

学会参加中の佐々木さん、曲木さん

プレゼンテーションを行う佐々木さん、曲木さん

賞状を掲げて笑顔の佐々木さん、曲木さん 

コミュニケーション能力という武器!?

佐々木さん、曲木さんの国際学会での受賞の裏には「コミュニケーション能力の向上」があるとヴァランス教授は言います。

未来大の1、2年生の必修科目「コミュニケーション(Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ, Ⅳ)」は、英語をツール(手段や道具)として、背景の異なる人々と効果的にコミュニケーションする力を鍛える授業です。ヴァランス教授は、この授業を担当しています。

ヴァランス教授: 私の授業は英語で行いますが、英語の授業ではありません。コミュニケーション能力の向上が目的です。未来大の学びが目指すのは“創造する”こと。創造したものを発信・共有していくときに英語を使うと世界のより多くの人とコミュニケーションすることが可能になります。だからコミュニケーションのツールとして英語を使っているのです。

佐々木さんと曲木さんは研究の一環で、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じてアメリカやイギリスの学生たちと共同作業を行った経験があるそうです。レゴブロックで有名なLEGO社のロボットプログラミング教材「LEGO Mindstorms(マインドストーム)」を使って、ロボットの歩行時の方向転換や坂道の上り下り、手で物をどうつかむのかといった問題解決に英語を介して取り組みました。

曲木: 高校生のころ英語は苦手でした。研究を通じて教授や他国の学生と英語でコミュニケーションをとる機会が増え、自然と理解できるようになりました。研究の場で英語を使う人が多いので英語を使っていますが、中国語を使う人が大多数であれば中国語を覚えていたかもしれません。大切なことは世界の人々とどうやってコミュニケーションをとるかを考えることだと思います。

ヴァランス教授: 世界のおよそ90%の研究出版物が英語で書かれています。もし学生が研究の範囲や研究に必要なコミュニケーションを日本語だけに限定したら、それはとても小さなフィールドになってしまいます。

「コミュニケーション」の授業では、プロジェクトの計画方法、討論やプレゼンテーションなどの共同作業についても幅広く学ぶことができます。

ヴァランス教授: 創造性と思考力を育てるのが科目「コミュニケーション」の大きな目標です。未来大には「TKFサイクル」という言葉があります。美馬のゆり教授が提唱している、「T=つくって、K=かたって、F=ふりかえる」というサイクルです。この「TKFサイクル」を繰り返すことで学生たちの創造性と思考力が磨かれ、プログラミングやデザイン、テクノロジー、アートという質の高いアウトプットが生まれてくるのです。

未来大で培われるコミュニケーション能力。実は、卒業生たちが社会で高い評価を得ている要因の一つとなっています。

二人が感じた未来大の学びとは

国際学会での受賞からしばらくして、二人が後輩たちに、卒業研究のVRについて話をする機会がありました。その中ではVRやAR(拡張現実)といった技術の概要と事例紹介のほか、未来大で学んだことが有機的につながった成果として『History Explorer』を取り上げました。
2年次までに学ぶ「コミュニケーション」や「プログラミング」、「認知心理学」や認知心理学演習での実験とそのデータを分析するための統計の検定といった一見関係がなさそうな授業での学びが結びついて3年次の「プロジェクト学習」での成果となり、それがヴァランス教授によって『研究』にまで引き上げられ、国際学会で入賞を果たしたのです。
二人の発表を聞いた後輩たちからは、彼らが成し得たことを自分の延長としてとらえることができた、というコメントがあったそうです。

最後に、未来大での学びについて思うことと、今後について聞いてみました。

佐々木: 未来大では授業の内外で人とつながり、知識や能力、チャンスを広げる機会が多くあります。私は入学当初から出会いに恵まれ、『History Explorer』を製作するための技術、英語でのコミュニケーション能力の向上、学会に参加するチャンスなどに結びついたと思っています。国際交流に興味があって、未来大なら外国人の先生の講義が受けられ、留学生と交流できると知って入学しました。私は来年3月に卒業します。4月から就職が決まっているゲーム会社には中国人や韓国人の社員もいて、海外にグループ会社もあるので、今後も海外の人とコミュニケーションをとる機会や場が多くあると思います。

曲木: オープンマインドという未来大特有の考え方のおかげで、わからないことがあってもすぐに先生たちに質問をすることができます。そして○か×だけでなく、なぜそうなるのかを理解できることが未来大の強みであり、良さだと思います。私は4月から大学院に進学するので、これからも国際学会への参加は必要だと思っています。研究へのモチベーションが、私のコミュニケーションのスキルアップの原動力になっています。研究を深めるために、これからもさらに広く世界から情報を集めていきたいですね。

学生自身の「やりたい!」気持ちと挑戦する意志があれば、未来大にはそれを支える環境とチャンスがあります。そして、世界に通じる創造が函館から生まれています。