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2021-07-02

坂井田瑠衣准教授が人工知能学会の研究会優秀賞を受賞

坂井田瑠衣准教授(情報アーキテクチャ学科)が、一般社団法人 人工知能学会の研究会優秀賞を受賞しました。同賞は、人工知能学会の各研究会で発表された研究のうち、特に優秀なものに対して授与されるものです。今回の受賞は、2020年9月の第89回言語・音声理解と対話処理研究会の特別セッション「触ることとインタラクション」で発表した研究論文「触ることで知る:視覚障害者の環境把握における複感覚的相互行為」です。

受賞した研究について

昨年からの新型コロナウィルスの感染拡大により、人やモノに「触る」ことをできるだけ避ける生活を余儀なくされています。他方、そうした社会情勢にあっても、「触る」ことが社会生活において重要な役割を果たしています。とくに視覚に障害のある人々は、触ることをコミュニケーションや環境把握のための重要な手がかりとしています。

本研究では、ある視覚障害者がまだ歩き慣れていない場所で行われた歩行訓練をフィールドワークし、そこで撮影した映像を詳細に分析しました。歩行訓練士による訓練をとおして、視覚障害者が歩行の手がかりとなるランドマーク(目印)について、知識を蓄積していくプロセスを明らかにしました。

その結果、視覚障害者がランドマークを手や白杖で「触る」ことが、そのランドマークについての多面的な知識を得るための基盤となっていること、またそうした「触ることで知る」プロセスは、歩行訓練士との聴覚や触覚を介した相互行為(コミュニケーション)に支えられていることが示唆されました。

これから取り組みたい研究は

多様な社会的立場にある人々や、異なる身体的特性をもつ人々どうしが、相互行為をつうじて互いを理解するプロセスを明らかにしたいと考えています。とくにそのプロセスにおいて、触覚や味覚といった様々な感覚的経験がどのように関与するかということに関心を持っています。

学生・受験生へのメッセージ

私の研究では、「フィールドワーク」という方法によって人々の生活や仕事の現場(フィールド)を丹念に観察し、そこから新しい知見を得ることをめざしています。「研究」というと、実験室や机の上、あるいはコンピュータの中だけでおこなわれるもの、というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、私たち自身が「あたりまえ」だと思っている何気ない生活の中にも、思いもよらない研究の種が潜んでいます。

とくに、昨年から続く新型コロナ禍下のように、社会や生活に大きな変化が起きた時は、新しい研究の種を見つけるチャンスでもあります。社会や生活の「あたりまえ」が覆されるという事態に直面し、それまで「あたりまえ」だったために気づいていなかった問題が浮き彫りになるからです。

「あたりまえ」の日常から研究の種を見つけるための第一歩は、生活の中でのちょっとした気づきや違和感などを見過ごさないで、それらにじっくりと向き合ってみることです。自分自身の体験から生まれた素朴な疑問を出発点にすることは、研究を進めるための大きな原動力になってくれると思います。