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未来大ESPRESSOプロジェクトメンバー語る キャンパス滞在履歴記録アプリ「LATTE」開発ストーリー

コロナ禍に生まれた未来大らしいIT開発、学びの機会がありました。新型コロナウイルス感染拡大防止のための位置情報の確認や、もし「陽性」や「濃厚接触者」になったときに過去の行動履歴を振り返るための新ツール、それがキャンパス滞在履歴記録アプリ「LATTE」(Location-Aware Tagger for Tracking Encounters)です。
開発した未来大ESPRESSOプロジェクトメンバーと松原克弥先生に制作エピソードをうかがいました。

※所属・役職名は掲載日現在のものです。

-初めに松原先生、「LATTE」開発の背景を教えてください。

松原 先にご説明しておきますと、コロナ以前から私が担当するプロジェクト学習では、BLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンを使って函館の街で新しい価値を生み出そうというテーマに約5年間取り組んできました。今回のLATTE開発に関わった三人は、全員がそのプロジェクト学習の歴代のメンバーです。

2020年以降、コロナ対策のアプリといえば、皆さんもご存知のように厚生労働省が新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAをリリースしており、もちろん未来大でもCOCOAは活用されていますが、実はCOCOAユーザーは陽性者と接触した時に通知を受け取っても、「どこで接触したか」という肝心な位置情報までは知ることができません。
また、もし自分が「濃厚接触者」となった場合、保健所からの聞き取りや大学への報告の時に必ず「自分がいつ、どこにいたか」という行動履歴情報が必要になってきます。

こうした背景を踏まえて、私たちが取り組んできたBLEビーコン(以下、ビーコン)を使って大学構内での位置情報の確認に役立てるものを開発できないか、というのがスタート時の目標です。

学内の特別研究費に採択された「コロナ対応のインドア・ロケーションアプリの開発」。ここからプロジェクトが本格的に始まった。LATTEの名称は厚生省のCOCOAから連想して。プロジェクト名のESPRESSOはEasily Seek and Positively Record Staying Spots On-campusの略。

LATTE開発で最も気を遣った点は「位置情報」という非常にデリケートな個人情報を取り扱うことでした。「自分がどこにいたか、他の人には知られたくない」という人もいて当然ですし、こちらの目的はあくまでも感染拡大防止に寄与すること。
何か起きたときに「もしよかったら、あなたの位置情報を大学側に提供してもらえせんか?」と本人の意志を尊重し、それによって大学側は消毒場所の特定に役立てたり、本人も記憶頼みにせずに自分の行動履歴を管理できる。そんな風に活用してもらうイメージを固めていきました。

-ユーザーは学生限定で想定していたのでしょうか。

松原 対面授業や研究のために入構する学生をはじめ教員や職員、一時入構する外部の人たちも対象です。なかでも事務局の人たちは勤務時間中、個人のスマホを持たずに学内を行き来されていると聞き、当初はアプリと並行して首から下げるタイプのハードも開発していましたが、こちらは難易度が高すぎて。途中からソフトの開発だけに集中しました。

学内に約100個設置されたビーコン。スマホにLATTEアプリを入れるとユーザ側でビーコンを受信し、位置測位を実施する。設置の際はビーコン同士が電波を干渉し合わないように距離や向きにも気をつけている。

-2021年に未来大を卒業した雫石卓耶さんは、開発初期のキーパーソン。松原先生の呼びかけに応じてアプリの開発に乗り出しました。

雫石 開発では、取得した位置情報のデータをどういう形式で、どこに置くのかというところに頭を使いました。先ほど松原先生がおっしゃったように位置情報はプライバシーに関わってくるので、どこかのサーバに置いたりせずに各個人のスマホ内だけで持ち歩いたほうがいいのか、そうした場合、どれくらいストレージが圧迫されて、バッテリーはどれくらい減るのか…というようなさまざまな要素を検討して最終的に現在の「データ通信を一切行わず、各個人のスマホ内でのみ記録を管理する」ところに落ち着きました。
アプリ開発者の目線に立った個人情報の取り扱いは初めてのことでしたので、この分野に詳しいビーコン開発企業のTangerineさんのお知恵を借りながら、どこまでどうしたらいいのかを考えていきました。

これはぼく個人の考えですが、LATTEは人の命を守ることにもつながるミッションクリティカルなアプリだと思っていて、責任を持ってしっかりデータを取れるようなものにしたかった。そのためにもiOSとアンドロイド両方に対応できるデータモデルを考えるのはものすごく大変でしたが、そこは絶対にクリアしようと頑張りました。
プロトタイプ完成の大詰めは、当時住んでいた函館の自宅に実際にビーコンをいくつか設置して、数日間自分自身をトラッキングしてアプリの有用性を検証しました。何かあったときに本当にユーザーの命を守ることができるのか。そういう目線でアプリ開発に参加できた、とても貴重な経験だったと思います。

-まるで企業で行うような社会課題解決型のアプリ開発に在学中に関わることができたんですね。

雫石 大学院の研究と並行しながらの開発だったので、もし自分が松原研究室じゃなかったら、実現は相当厳しかったかもしれません(笑)。 自分の学会発表とLATTEのプロトタイプ、いま優先するのはどっちかとか、つねに松原先生に相談できる環境だったのがよかったです。

徹底してプライバシーに配慮しているLATTEにはデータ通信機能を持たせなかった。メールやSNSアプリ、Googleドライブ等の共有機能を使えば外部にデータをエクスポートできる。

私が現在所属している学科でも数年前から、未来大ほど地域連携の色合いは強くないですが、プロジェクト学習を開講することになり、そこでは未来大での経験が大いに活きています。その他にも学生同士が評価し合う「相互評価」を取り入れたり、複数の研究室での発表会を積極的に行ったり、大学教員として未来大での経験を参考にしているところが多くあります。

-現役メンバーである川谷知寛さんのご担当は?

川谷 ぼくは雫石さんが書いたコードを引き継いで、デバックを担当しました。開発経験がほとんどなかったので、コードを解読するのに一番時間がかかりました。
それと、このLATTEを学内で知ってもらうための手段を考えるのも難しかったです。友達づてにもどう広めていったらいいのか、悩みました。

-LATTEのUIやグラフィックデザインを担当されたのは、2022年3月で卒業された林友佳さんですね。

林 はい、はじめに松原先生に声をかけられたのは、アプリアイコンのデザインでした。
松原先生の原案をもとに、ホーム画面に置いて他のアイコンと比べても見劣りしないようなデザインを目指して考えていきました。

アイコンの完成版は右上のカップの中に足跡マークをあしらったデザイン。

学内に掲示するポスターのデザインは、どうすれば人の目にとまるか、何を優先してアピールすればいいのかを決めるのが、難しかったです。初めはアプリを使う手順の簡単さをアピールする方向で考えていましたが、松原先生から「手順の前に、このアプリは何ができるのかをアピールしたほうがいい」とアドバイスをいただいて修正していきました。
実際にポスターを学内に貼ってみると、もう少し目立つデザインにできたかもしれないという反省も残ります。情報量が多いのでもう少しシンプルにするとか、ポスター以外の告知も検討してみるとか、今後は広報面を強化する必要性を感じています。

林さんがデザインした告知画像

-2022年3月現在のLATTE最新情報を教えてください。

松原 幸いなことに、未来大で実際にLATTEを使った位置情報の提供を必要とするような感染例が未だなく、このままコロナ禍が収束してくれたらという気持ちもありますが、どんなときも備えが肝心。引き続き、細かい改良に努めたいと考えています。

また、雫石さんをはじめとするメンバーの努力に応えるためにも、このLATTEプロジェクトを「大学におけるCOVID−19対策としてのITを用いた行動履歴記録支援」というタイトルで論文にまとめました。全員が執筆メンバーに名を連ねており、ご自分の研究実績に加えてもらえたら、と思っています。論文は、情報処理学会論文誌の2022年5月号に掲載予定です。
論文執筆にあたり、林さんにアンケートをとってもらったことで新たな知見を得ることもできました。私たちが慎重に慎重を重ねた位置情報の取り扱いについても、「大学の感染対策につながるなら位置情報を提供してもいい」という前向きな声を拾うことができ、今後の改良のヒントになりそうです。

当初は目の前のコロナ対策として立ち上げたプロジェクトでしたが、こうして研究として展開することができ、私も予想外の喜びでした。雫石さん、林さん、川谷さんに続く皆さんの手で、さらにLATTEを発展していってもらえたらうれしいです。

LATTEの魅力に関するアンケート結果では、データ通信を一切行わず滞在履歴を自動収集しない設計や、未来大生が開発していることが高く評価されていることがわかった。また、行動履歴記録実施に関するアンケート結果からは、LATTEが日々の行動履歴を記録する行動変容を起こせていることも確認できた。