大学生になったらサークル活動に参加してみたいと考えている高校生は多いはず。大学によっては学校が公認し支援している部やクラブと、学生が自主的に運営しているサークルを区別しているところもあるようですが、公立はこだて未来大学(以下、未来大)ではそうした区分けはありません。現在、大学が公認しているクラブ・サークルは56団体。バレーボール部やバスケットボール部のような体育系が24団体、軽音楽部や写真部など文化系が32団体。文化系の団体数が多いのが特徴です。今回はそうした中から二つ、未来大らしいサークルの活動内容をリサーチしてみました。
「デザイン・カルテット」~スキルを生かして地域社会で存在感
中心メンバーの卒業とともに活動を終えるサークルもあれば、部員が入れ替わりながら長く続いているサークルもあります。活動歴が長く、函館市内でもある程度の知られているサークルのひとつが「デザイン・カルテット」です。部長の加本麻那美さんにお話をうかがいました。
加本: 「デザイン・カルテット」は、デザインに興味がある人が集まってデザインコンペに応募したり、企業からデザインの依頼を受けたりして、実践的にデザインスキルを磨く活動をしています。20名ほどのメンバーがいますが、一度に集まって活動することは少なく、自分のやりたいものに手を挙げて参加する仕組みです。
デザインの依頼はどこから、どのように持ち込まれるのですか。
加本: 大学外からの依頼が多いです。たとえば函館市内のカーディーラーからマスコットキャラクターのデザインを頼まれたり、市内の総合病院から「附属の専門学校で新しい学科が開設されるので告知のポスターをつくってほしい」と依頼されたりします。情報デザインコースの教員に依頼がくるケースと、大学の社会連携センターを通しての依頼に大別されます。また、学内からの依頼もあって、オープンキャンパスのパンフレットやグッズのデザイン、教授が海外で取り組むマリンITプロジェクトのPR用リーフレット制作なども手掛けました。去年、函館駅前の大門商店街のロゴをデザインしたのですが、自分たちの手掛けた作品を実際にまちなかで見かけると、やはりうれしい気持ちになりますね。
依頼に対し、どのようなプロセスで作品を仕上げていくのですか。
加本: まず SNSでメンバー全員に依頼内容を告知し、部長の私がデザインチームの人数を決めて募集します。やってみたいと手を挙げた人が集まって、クライアント(依頼主)と打ち合わせして、先方の狙いや意向をヒアリングします。ときには現場を取材して、制作スケジュールを策定します。その後、チームでブレーンストーミングを行い、アイデアを出しあいながら素案をいくつか作成し、先方に提案します。そこで議論を重ね、方向性が固まったら、実際に撮影したり、イラストを描いたりして、デザインを仕上げて納品します。
受注から納品までデザイン会社が行っていることとほとんど同じプロセスを踏んでいるようですが、デザイン制作はボランティアなのですか。
加本: プロではないのでデザイン料などは提示しませんが、実費のほか、お小遣い程度の謝礼をいただくこともあります。アルバイトの時給と作業時間で割り出して担当教員が金額を決めて下さる場合もあります。一方で、私たちが自ら企画しているのが、毎年10月に開催される大学祭「未来祭」のデザイン・ワークショップです。主に小学生を対象に、名刺づくりやオリジナルのカードづくりを通してデザインの面白さを伝えるための活動です。毎年たくさんの参加があります。こちらはもちろん無償で行っています。
「デザイン・カルテット」というサークル名にはどのような由来があるのでしょう。
加本: 大学について少し説明が必要になります。未来大はシステム情報科学部の単科大学で、情報アーキテクチャ学科と複雑系知能学科があります。2年次にコースを選択します。情報アーキテクチャ学科には「情報システムコース」と「情報デザインコース」、大学院への進学を前提とする「高度ICTコース」があり、複雑系知能学科には「複雑系コース」と「知能システムコース」があります。サークルができた当初、「高度ICTコース」を除く4コースの学生が集まり、それぞれのスキルを活かしてデザインしようというので、四重奏を意味するカルテットと名づけたと聞いています。私は情報アーキテクチャ学科の「情報デザインコース」にいて、グラフィックデザインを担当することが多いのですが、システム系の学生もいるので、ウェブサイトの制作などもまるごと請け負うことができます。
サークルの活動で培った経験やノウハウは、就職活動や就職後の仕事に活かされそうですか。
加本: 学生のうちから企業とやりとりをしてきた経験は就活でアピールできると思います。実際にデザイン業界に進んだ先輩もいます。私は東京のゲーム会社にプランナーとして就職が内定しています。ゲームはプランナー、デザイナー、プログラマーという3つの職種が力をあわせて開発するため、デザインやプログラムの知識のあるプランナーがいることで、開発業務を円滑に進められるのではないかと考えています。
グループワークは「デザイン・カルテット」の活動だけでなく、プロジェクト学習をはじめとする未来大の学びで身に付いたことかもしれません。私は4年間サークル活動を続けてきて、よかったと思っています。
「funAI」~人工知能の無限の可能性を学びあう
もう一つ、ご紹介するサークルは「funAI」。AI(人工知能)に興味のある学生が集まって立ち上げ、去年、大学に公認されたばかりの新しいサークルです。部長の海老原天紀さんと、副部長の鈴木利武さんに、サークル設立の経緯や今後の活動を聞きました。
海老原: 1年生のとき、AIスピーカーのソフト開発などを手掛けるベンチャー企業でアルバイトをして、人工知能に興味を持つようになりました。学内で同じようにAIに関心を持つ仲間を見つけ、一昨年に5人で人工知能同好会をつくりました。みんなで試行錯誤しながら人間とコンピュータでオセロの対戦ができるプログラムをつくって大学祭で展示しました。そのブースに興味を持っていただいた脳科学が専門の佐藤直行先生に顧問をお願いして、2018年の春、公認サークルになりました。未来大は、サークルを立ち上げやすい環境だと感じています。
日々の活動はどういった内容ですか。
海老原: 火曜がプログラミング、木曜が輪講と、週に2回活動しています。木曜の輪講は毎回発表者を決めて、各自興味のある分野の論文を取り上げ、要旨をまとめて発表するスタイルです。ディープラーニングとかIoTとかデータサイエンスとか、なかには経済学とか短歌とか、部員によってAIを活用したいと考えている分野がさまざまなので、みんなの話を聞くのが純粋に面白いですね。
学生によるAIの勉強会というイメージでいいでしょうか。
海老原: 僕の所属している複雑系コースではAIについての講義もありますが、開発の歴史や体系的な知識が中心です。そのため、仕組みや最新技術をもっと深く知りたいと思う人が、このサークルに集まってきています。共通の話題で専門的な会話ができ、かつ自分の分からないことを聞きあえるような場づくりを目指しています。
一人で勉強するよりも、仲間同士で教え合うほうが、より効率的に楽しく学べるわけですね。
鈴木: 今年は新入生のサークル勧誘の初回の説明会に、60数名が来てくれました。AIはブームなんだと実感しました。1年生がたくさん加入したので、メンバーはいま50人くらいです。プログラミングが未経験の人も多く、授業の進度に合わせて基本的な技術の習得から始めます。火曜のプログラミングは2時間ありますが、1時間はAIのプログラミング技術、もう1時間は授業の復習にあてています。
目的や目標は設定しているのでしょうか。
海老原: 目的は部員それぞれ違います。「経済学とAIをドッキングして強化学習に使えないか」と考えている人もいるし、「認知科学のフェーズから短歌の研究をしたい」という人もいます。僕の場合はAGI(汎用型人工知能)に興味があって、人間と同じ思考力や感性を持つ人工知能をつくりたい。そのために、いま神経科学を勉強しているところです。
今後はサークル内でハッカソンを企画したり、できればみんなでプログラムを組んで最新モデルを実装してみたい。もちろん部員の意向を聞いたうえでのことですが。
ハッカソン(hackathon): プログラムの改良を意味する“hack”とマラソン“marathon”を組み合わせた造語。プログラマーやデザイナーなどで構成された複数のチームがマラソンのように数時間から数日間の与えられた時間でプログラミングを行い、アイデアを競い合う開発イベント。
鈴木: 僕の興味は、ゲームのジャンルのAIです。プレイヤーの力に応じて対戦相手になってくれ、レベルを調整しながらどんどん強くしてくれるようなものを開発したいと考えています。
サークル活動に求められる自主自律
既存のサークルに参加する、あるいは仲間と一緒に新たに立ち上げる―顧問(教員)がいて、活動内容などの申請書類を提出して審査に通れば、サークルとして公認されます。
未来大はオープンなスペースがたくさんあるので、活動場所の確保に困ることはありません。
体育系のサークルで心身を鍛えるのもよし、文化系のサークルで高度なスキルの習得に努めるのもよし。今回ご紹介した二つの団体のように、大学での学びを活かして地域社会とのつながりを志向したり、最新技術を追求したりするのもよし。
参加や立ち上げ、活動の間口が広いからこそサークル活動に求められるのは、学生たち自身の自主自律です。