教員紹介 En

平田 圭二

特命教授
HIRATA, Keiji

学生へのメッセージ

自分や自分の周りの人々を幸せにするには力が要る。力を身に付けるには学ぶしかない。学んだことは使うためにある。使うために学ぼう。

研究内容

主に音楽情報学,スマートシティ,医療ICTの3つに取り組んでいます.

音楽情報学

情報学の立場から音楽というメディアを理解し活用することに興味を持っています.具体的には,400年に渡る歴史を持つ音楽理論を計算の体系として再構築すること,音楽を計算対象としてアプリケーションを作成することです.一般に音楽理論は自然言語で書かれており,数式や図式を用いて厳密に定義されてはいません.我々の手中には計算機があり,知的な計算が可能ですが,音楽理論はその曖昧さゆえにプログラムとして記述することが大変困難です.もし音楽理論がきちんとプログラム化できたら,音楽理論の不完全だった部分を補強できるだけでなく,不完全な部分をさらに発展させることができるかも知れません.そのような再構築された音楽理論が手に入ると,計算機が音楽を正しく理解できるようになります.すると,より広範な状況で正しく動作し,ユーザの意図が出力に適切に反映されるような実用性の高い音楽サービスが実現できます.例えば,旋律オーサリングツール,旋律/リズム/和声進行の合成器,演奏の表情付け器,ユビキタス音楽環境,音楽ゲームなどです.さらに,身の回りには,音楽の他にも時間軸に沿ってイベントが生起するような現象(時系列イベント)があります.例えば,ミーティング,物語,ジェスチャ,ダンス,絵画の鑑賞などですが,音楽理論はそのような時系列イベントの分析にも適用できると考えて応用システムを作っています.

スマートシティ

ICTを駆使して函館市のバス,タクシー,市電などの公共交通をもっと快適に利用できるようにすることを目標にしています.実際に現在進めているのは,今の函館市のバス,タクシーを全廃してデマンドバス (固定ダイヤ,固定路線を持たない一種の乗り合いタクシー) に置き換えてしまおうという大胆なプロジェクトです (JST/RISTEX, 2012年10月~,3ヶ年).このプロジェクトは,必要な技術を開発するだけでなく,人々がその新しい技術を利用するよう心を動かす所まで(社会実装)を研究課題に含めています.そのため関連分野は,シミュレーション,最適化問題,数理モデル化,ユビキタスネットワーク,ユーザインタフェース,サービス科学等と多岐に渡ります.これらの技術をバランス良く応用して統合システムを構築しなければなりません. 2015年度には函館市内で実際にデマンドバスを走らせる実証実験を行う予定です.

医療ICT

幾つかある社会問題の中でも,うつ病は患者本人のQOLを落とすだけでなく現代社会の生産性を落す大きな要因となっています.同時にうつ病患者の周囲にいる人々 (家族看護者,職場の同僚,上司,友人など) も様々な困難に直面しQOLと生産性を落としています.うつ病患者は医師によって治療を受けますが,うつ病患者の周囲にいる人々をケアしQOLを維持する点はこれまであまり深刻に考えられていませんでした.ICTを使えば,うつ病患者の周囲にいる人々をケアし支援することができるのではないかと考えて研究を進めています.

研究の魅力

音楽情報学

音楽を持たない文明はないと言われています.それほど密接に人間と結びついている音楽ですが,まだまだ分からないことばかりです.本研究では,非言語メディアの代表格である音楽の本質を探ると同時に,人間とは何か,人間の知性とは何かにも迫ろうと思っています.そして,コンピュータは人間が発明した最強の実験道具です.そのコンピュータに音楽を鑑賞させ音楽を創作させる実験を行うことで,さらにもう一歩深く掘り下げることができると考えています.

スマートシティ

技術を生み出す場と技術が使われる場が離れていることで,技術が適切に利用されないという社会的問題が引き起こされてきました.これから,技術者は技術が使われる場のことまで視野に入れて研究開発に臨むべきだと考えています.インターネットが普及し情報の流通と物の流通が劇的に発達したことで,この課題に現実的に取り組めるようになりました.情報が流通することで,利用者一人一人に技術的選択肢が与えられますし,個々の利用者のニーズに合わせたサービス提供が低いコストで実現できるようになります.

医療ICT

ICTの進歩は,その高機能化と同時に低コスト化も推し進めました.その結果,常にオンラインでどこでも仕事したり学んたり娯楽ができるようになりました.ソーシャルなつながりは生活や仕事をより豊かにしています.常にオンラインが実現できたことによって最もQOLが改善される人々の1つが,うつ病患者の周囲にいる人々ではないかと思っています.

実績

音楽情報学

  • 情報学の立場から再構築された音楽理論を「計算論的音楽理論」と名付け,その理論的な基盤,自然言語との関連性,音楽理論GTTMの定式化を与え,応用システムを紹介しました [1].
  • 音楽理論GTTMが教える音楽認知機構に基づく楽曲構造の形式化を世界で初めて提案した [2].この論文により,旋律の合成や変形に計算論的基盤が与えられ,四則演算をするように旋律に代数的な演算を適用することが可能となりました [3].また,楽曲の自動構造分析器の実現により,音楽も自然言語のように構文解析できるということを示しました.
  • コンピュータ音楽創作に関する知識を網羅した1000頁を越える大著の翻訳を担当しました [4].原本も翻訳本も出版以来,コンピュータ音楽あるいは音楽情報処理の教科書として現在でも頻繁に引用・利用されています.

スマートシティ

  • 2012年10月より始まった函館市の全てのバスとタクシーをフルデマンド化するプロジェクトに参加しています [5] [7].バスやタクシーの利用実態の調査データに基づくシミュレーションと実車輛を使った実地運行実験を繰り返すことで,人流と物流を段階的に活性化させるサービスを設計し [6],その有用性を検証します.

医療ICT

  • うつ病患者の家族看護者が直面する困難を明らかにし,家族看護者がQOLを維持するために必要なICT支援に関する提案を行いました [8].家族のうつ病患者を看護した経験がある人々に対面インタビューを行い,家族看護者が抱える矛盾やジレンマを発見しました [9].

主な著作・論文

  • 平田圭二, 東条敏, 浜中雅俊, 平賀譲, 計算論的音楽理論について, 情報処理学会誌, 道しるべ連載 (1)~(5), Vol.49, No.7~11 (2008)
  • Satoshi Tojo, Keiji Hirata, Masatoshi Hamanaka: Computational Reconstruction of Cognitive Music Theory. New Generation Computing 31(2): 89-113 (2013)
  • Keiji Hirata, Satoshi Tojo, Masatoshi Hamanaka, Algebraic Mozart by Tree Synthesis, Proceedings of Joint ICMC and SMC 2014, pp.991-997 (2014)
  • 青柳龍也,小坂直敏,平田圭二,堀内靖雄,後藤真孝,引地孝文,平野砂峰旅,松島俊明: コンピュータ音楽 — 歴史・テクノロジー・アート –, 東京電機大学出版局 (2001)
  • Hideyuki Nakashima, Hitoshi Matsubara, Keiji Hirata, Yoh Shiraishi, Shoji Sano, Ryo Kanamori, Itsuki Noda, Tomohisa Yamashita, Hitoshi Koshiba: Design of the Smart Access Vehicle System with Large Scale MA Simulation. Keynote Talk in MASS2013 (The 1st International Workshop on Multiagent-based Societal Systems)
  • 中島秀之, 平田圭二, サービス実践における価値共創のモデル, サービソロジー, サービス学会, Vol.1, No.2, pp.26-31 (2014)
  • 平田圭二, 佐野渉二, 小柴等, 野田五十樹, 金森亮, 中島秀之, Smart Access Vehicle サービス実践への取り組み ~ サービス共創最適化のためのフレームワーク, サービス学会第2回国内大会講演論文集, pp.305-309 (2014)
  • Naomi Yamashita, Hideaki Kuzuoka, Keiji Hirata, Takashi Kudo: Understanding the conflicting demands of family caregivers caring for depressed family members. CHI 2013: 2637-2646
  • 山下直美, 葛岡英明, 平田圭二, 工藤喬, うつ病患者の家族看護者が抱える社会的負担を構成する要素の解明, 情報処理学会論文誌, Vol.55, No.7, pp.1706-1715 (2014).