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2023-06-05

[Message for FUN]社会課題とひとをつなげる(藤野 雄一)

[Message for FUN]

NTTの研究所に勤められていた当時、テレビ会議,テレビ電話を中心に画像通信技術の研究をしていたという藤野雄一先生。その後、医療に関係する情報通信技術へとテーマが移り、未来大に赴任してからも医療現場を重視した研究、教育をなさってきました。このインタビューでは先生の経歴をふり返るとともに、プロジェクト学習やその他において、先生が学生にどのようなメッセージを送り続けてきたのかを語っていただきました。

藤野 雄一(画像メディア処理、医療情報、遠隔医療、医療工学、e-Health)

藤野 雄一(画像メディア処理、医療情報、遠隔医療、医療工学、e-Health)

 
企業の研究所での研究

私は1983年に北海道大学を卒業すると、神奈川県横須賀市にあるNTT電気通信研究所(当時、日本電信電話公社横須賀電気通信研究所)で、画像通信技術を中心に研究していました。次世代の電話としてテレビ電話が想定されていた当時、私が行っていたのは、テレビ電話装置や、今でいうZoomのような映像と書類共有を実現させる多地点マルチメディア通信会議の研究です。

その後、研究所内で公募制が導入され、医療関連システムの研究立ち上げに協力して欲しい、とのことで、1995年からNTT研究所内で初めての遠隔医療システムの研究に取り組みます。

当時、エックス線画像などの画像診断や病理診断を遠隔地から行うことは、テレメディスンと言われていました。これまで研究していた画像通信の技術を応用できるのではということで、NTT関東逓信病院(現NTT関東病院)のIT化や総務省のファンドによる放射線医学総合研究所との共同研究での遠隔肺がん検診システムの構築など、さまざまな取り組みを行いました。

国立小児病院(現在の生育医療センター)という、生まれた時からの重篤な病気によって、病院から出られない子供たちがたくさんいる病院があります。1999年からは、そのような病院に入院しているお子さんのために、子供さんと家族を結ぶベッドサイド端末を開発し、仮想空間上でいつでもお母さんと話せる環境を作ってきました。私達はその環境を「e-ライフアメニティ」と呼び、長期入院患者のアメニティ向上を目指したものです。これの考え方は、今、流行っている「メタバース」とほぼ同じコンセプトです。当時の細い通信回線と現在に比べれば桁違いに処理能力の低い当時のCPU(計算能力)を最大限に使って、30年前に成功させました。

また、ウェルネス(福祉)とエルダリ(高齢者)という言葉を組み合わせ、「ウェルダリ」という言葉を作り、高齢者の見守りサービスを研究したり、テレサ―ジェリー(遠隔手術)を研究したりするなど、さまざまなネットワーク連携型新サービスの創造とビジネス化戦略に携わってきました。

公立はこだて未来大学に来て

2010年、私が公立はこだて未来大学(以下、未来大)に赴任すると、当時の中島秀之学長(現、札幌市立大学理事長・学長)から、医療の研究をどんどんやってくれと言われます。そこで、今までの経験を使って、メディカルITを未来大の1つの特徴にしようと考えました。

今後の技術の発展を想定すると、医療や福祉、健康のトレンドはITによる診断支援、介護支援、健康管理が重要になると考え、ロボット医療、在宅ロボット支援、AIベース医療などの技術を中心に研究してきました。

私が学生の頃の大学研究室には、教授、助教授(現准教授)、助手というヒエラルキーがありました。未来大は新しい体制なので、みんなが平等です。教授だろうと准教授だろうと、決まった研究費を上手に使い、足りない分は外部の支援してくれる人にもらって研究するという形です。
私の研究室は、当時の助教授と一緒にチームのような合同研究室にしていて、学生が12人前後もいたので、結構、大きな研究室でした。

大学は企業と違って、お金はなくても、自由にできるところが大きいです。大学はおもちゃのようなものの研究をしても誰も怒らない。新技術をベースにしたエンタテインメント性があれば新しい成果として発表できるかもしれない。企業では、当たり前ですが、成果としてビジネスにならないといけません。私がもしNTTでおもちゃを作ったら、本当に叩かれます。
アカデミアの世界は新鮮でした。

医療現場でのプロジェクト学習

私が未来大に来る前から、プロジェクト学習に医療プロジェクトがあり、私はそれを任されました。実はこの医療プロジェクトは、開学当時から唯一残っているプロジェクトです。

学生たちに医療現場を見せて、例えば小児科の先生のあとをずっとついて回って、看護師や医師がどう動いているのかを確認させるというのを、丸1日、市立函館病院でさせてもらいました。

そこで学生たちが思ったのは、小児科は本当に大変だということです。私は現場をよく見なさいと言ってきました。現場で何が問題なのか。なぜこういう形になっているのか。そういうことを自分たちで考えることからスタートすると、毎回新しい研究の種が出てきます。

プロジェクト学習の成果発表でも、「病院の先生方は付き合ってくれます。君たちは、彼らの非常に貴重な時間を使っているのだから、医療スタッフ、患者さんやその家族の皆さんのためになることを考えなさいと」言ってきました。

そのこともあり、医療プロジェクトはマンネリ化することなく13年間続けてこられました。これは私のある意味では1つの誇りになっています。

病院以外では、高齢者施設もプロジェクト学習に協力してくれました。ご親切にいつ来てもいいと言っていただけます。高齢者施設側では、彼らの孫たちが来てくれているように歓迎していただきました。松前町の施設に行った時の写真があります。プロジェクトの学生は、こういう形で病院の先生方、スタッフの方々、高齢者の方々の前で発表してきました。

高齢者施設での発表の様子
高齢者施設での発表の様子

高齢者施設は、学生たちにとってみればまだまだ先の話かもしれません。ですが、そのうち自分たちのご両親の面倒を見たり、施設に入れたりしなくてならないということが、必ず起こり得ます。それを早目に経験しておくのは、非常に良いことだったと思います。

私は13年間で、道南地域を中心にさまざまな病院や高齢者施設、地域包括センターの方々にいろいろなご協力をいただき、非常にありがたいと思っています。

室蘭工業大学との大学連携

もう10年以上前になりますが、未来大が室蘭工業大学(以下、室工大)と大学連携協定を結んだ際、せっかくだから何かやりたいと、知人の室工大の先生と一緒に「未来大・室工大連携ワークショップ」を始めました。2012年から4年間、開催しました。

「未来大・室工大連携ワークショップ」の様子
「未来大・室工大連携ワークショップ」の様子

両大学それぞれから学生40名と教員10名ほど、合わせて100名弱が参加し、いろいろなことをグループワークで一緒に泊まり込んで自由に討論するという趣旨です。各チームには未来大と室工大の学生が3人ずつ割り振られ、そのチームで与えられた1つの課題を2日間かけて考えます。

例えばこの時は、与えられる予算が1億円のチーム、1,000万円のチーム、100万円のチーム、10万円のチームに分かれ、抽選で当たったその予算の中で(課題に対して)何ができるのかを考えるということをやりました。一番面白かったのは、1等賞をとったチームが考えた「未来大の中庭にボーリングして温泉を作る」というものでした。

企業にも協力、参加していただき、1等賞のチームに記念品を用意してもらったり、企業の方々も一緒に泊まっていろいろなお話をしてもらったりしました。また、両大学の学長も参加していただきました。学長を囲みながら一緒にお酒を飲めるという学生たちにとって滅多にない機会でした。
これも私の13年間の1つの成果だと思っています。

メディカルICT研究会

研究室の学生たちや、担当するプロジェクト学習の学生たちの成果を発表する場として、また国内の最新の医療IT技術の研究成果にふれる機会として未来大学メディカルICT研究会を立ち上げ、毎年開催してきました。

今年は、プロジェクト学習で女子学生2人と男子学生2人のチームが「生理の貧困」という男性だけでは手を出しにくいテーマを選び、無料配布される生理用品の場所や今の在庫状況がわかるようにするというテーマを選び、コロナの関係もあり私から同研究会で報告しました。

我々の時代だとやはり男性が少し引いてしまうようなテーマを堂々と、男子学生と一緒に考えながら研究するというのは、非常に進んできた、時代が変わってきたのかなと思います。

また、研究室の女子学生1人が、妊娠時、「夫との関係」がストレスになると言い出して、妊娠時にパートナーである父親が興味を持ってくれるようなアプリを作るという卒業研究を行いました。iPhoneアプリで、父親も母子のさまざまな情報が見えるようにしたり、父親の予定を共有しやすくしたりすることで、関係が悪くならないようにしようとするものです。

このように、学生たちの成果を発表すると研究会に参加している医師から、直接コメントをもらえます。参加者の札幌医科大学の産婦人科医師からは「夫との関係に着目したところが面白い」と言ってもらえました。

病院スタッフへの成果説明会
病院スタッフへの成果説明会
メッセージ

学生たちによく言っているのが、WhyとWhatを大切にしなさい、ということです。そして最後がHow、どうやってやるのかということです。

まず、「なぜ?」と疑問に思うこと。これが一番大事です。それから「何を?」ということ。当たり前だからと疑問に思わないでいると次のステップには進めません。そして、「なぜ?」と考えた上で、その論理を具体的に説明できるようにしよう、とよく言っています。

この話を4年生の最初から言っていると、その学生たちが修士課程に行く頃には、4年生の指導ができるようになっています。論文やスライドに対して、彼ら彼女たちが的確なコメントを出せるようになってくれるというのは、先生冥利に尽きます。

また、学生には、大学で知り合った友達は一生の友達になるから一生大事にしなさい、とよく言っています。私もいまだに北海道大学の同期と会えば必ず飲みます。高校や中学の友達とは何が違うかというと、一緒に苦労しているところが非常に大きいのかなと思います。青春時代、多感な時代を共に過ごした仲間は大切ですね。

これが私からみなさんに贈る言葉です。

函館山と帆船と。函館に来て、ヨットに乗るようになりました。
函館山と帆船と。函館に来て、ヨットに乗るようになりました。