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2023-06-05

[Message for FUN]作文とプログラミング能力を問う(大場 みち子)

[Message for FUN]

文章を書く力とプログラムを書く力の関係を調べていくうちに、公立はこだて未来大学(以下、未来大)の多くの先生が信じていたある仮設が覆ったと話す大場みち子先生。前職の企業での経験から「営業」は得意だと話し、未来大を積極的に売り込み、企業からのサポートを得ることで、実践的人材の育成に力を注いできました。インタビューでは、興味深い研究で分かったこと、教育において先生が自慢したいこと、未来の未来大生へのメッセージを語っていただきました。

大場 みち子(知的行動の測定・分析、ソフトウェア工学、IoT)

 
作文とプログラミングの深い関係

私の研究の軸となっているのは、知的行動と行為の記録と分析です。ここで対象としている知的行動と行為は主にプログラミングと作文の2種類です。もともとはドキュメンテーションが専門だったので、文書を書くということに着目していました。

文章を書く際は文章の軸を作ります。ロジックツリーなどを作って、目次を作って、それを軸にして文章を作成します。そこで、文章の中身よりも、どこをどういう順番で書いているのかに着目し、そこから人間がどのように考えて行動しているのかを研究しています。

従来は一般的に、作文やプログラミングの評価は、提出された作文やテストの結果などのアウトプットに基づいて行われていました。かかった時間や順番に書いたのか、見直したのかどうかなど、途中の過程は全く配慮されていませんでした。

アウトプットを見るだけでは、プログラミングが得意な人とそうではない人、作文を上手に書ける人とそうではない人の違いは分かりません。どう指導すればプログラミングが得意になるのか、いい文章が書けるのかを探りたかったのです。

そこで、作成している過程を記録して分析するツールを作って研究しています。

例えば論文のアブストラクトの流れは、背景、問題点、目的、目的を達成するための課題、課題を解決するためのアプローチ、アプローチを使った実験、結果、まとめ、となります。

ワークシートを作り、どう書くのかを記録して分析すると、上手にアブストラクトのアウトプットを出す人は、一度順番通りに書いた後で、行ったり来たりしながら直す操作、過程があり、しかも1箇所直すとそれに関連するところも直すことが分かりました。

プログラミングも同じようにやろうとすると、時間がかかるので、研究パートナーの私の夫にアプリケーションを作ってもらいました。彼が考えたのは、例えば20行あるプログラムをバラバラにジグソーパズルのようにして、それを被験者に並べ替えさせ、どういう順番に並べ替えているのかを記録するということです。

図のような感じで問題文が表示され、その下にJava言語のプログラムの各行がバラバラになって選択肢として表示され、右側の青い枠にドラッグ&ドロップで回答を作成していきます。

最初になにに目をつけるのかが結構重要なポイントとなっていることが分かりました。また、迷っているから最後に動かした、あるいは同じピースを何度も行ったり来たりさせた、ということが短時間で分かるようになりました。

同様に、文章も1文ずつバラバラにして、並べ替えさせました。これはオレオレ詐欺を題材にしたオリジナルの文章です。

実験の結果、プログラミングが得意か不得意かと、文章の論理的思考ができるかどうかには、相関があることが分かりました。プログラミングの並べ替えの正解が多い人と、文章の並び替えの正解が多い人は比例しているのです。

プログラミングも文章を書くことも論理的な思考で、両方ともロジックで成り立つ知的行動です。つまり、両方ともできる人はロジカルシンキングが出来ることになります。ロジカルシンキングが出来るか出来ないかが、プログラミングと文章力の両方に通じていたのです。

数学とプログラミング

未来大は数学を重視している大学です。数学も論理的な思考だから、プログラミングが出来るためには数学も必要。プログラミング、文章力、数学の能力はすべて共通して論理的な思考がベースになっているから、できる人はすべて出来るだろうという仮説がありました。

ところが意外なことに、この3つの中で数学は外れているのです。未来大には、数学は出来ないけれどプログラミングは出来るという学生が結構います。数学は出来るけれどプログラミングは不得意という学生もいます。数学は出来るけれど文章を書けない学生もいます。

未来大の教員は、プログラミングと数学には相関があると思っていました。まず、プログラミングのレポートの授業の課題の点数を調べたら、相関がある。ところが、いざ数学との関係を調べてみると、まったく相関がなかったのです。極めて予想外の結果がでて、びっくりしました。

12年間連続の学生奨励賞

私の自慢を言いますと、私が学生を持った2011年度からずっと、4年生の基本的には希望者全員に、卒論の成果を情報処理学会の全国大会で発表させていて、12年間連続して、学生奨励賞を受賞しています。

やっぱり学生にはプレッシャーのようです。先輩方がずっと奨励賞をとっているから、自分もとらないといけないと。かなりモチベーションが高く、絶対に奨励賞を取りたいという、学生に聞いた話によると、どういう特性の人が学生奨励賞を受賞しているのだろうと、他の発表をいくつか見て、特徴を捉えて、それを自分の発表に活かしたそうです。この結果、見事奨励賞を受賞しました。

発表練習は直前までやります。私が最後に言うのは、学生らしく大きな声で元気に、はっきりと堂々と発表しなさいということと、Q&Aのときはよく分からなくても、とにかく大きな声で元気に回答しなさいということ。もう1点、私が重要だと思っているのは、セッションが始まる前に、座長に、きちんと挨拶しなさいということです。私としては、普通だと思いますが、はじめて学会発表をする学生にとってはなかなか難しいようです。

基本は中身です。学生がいかに1年間頑張ってきたかの総論的な最後の発表です。結果を発表することが大切なのです。頑張った成果が発揮されて結果的に賞をいただけるわけです。

中でも一番嬉しかったのは、3年前です。上記の情報処理学会全国大会の発表で、学生奨励賞は各セッションの座長が選ぶのですが、それとは別に全体の投票で決まる最優秀賞を1人、研究奨励賞を1人とダブル受賞したことがありました。

プロジェクト学習による実践的人材育成

私の教育の軸は実践的人材育成です。未来大のプロジェクト学習(PBL)を担当していて、高度ICTコースというプロジェクト学習をベースとする6年間一貫コースの立ち上げに携わり、初代コース長をつとめました。

高度ICTコースでは、サポート企業制をとっていて、人・物・金のサポートを企業にお願いしています。授業に無償で出ていただくのが人、各社が持っているウェブサービス、クラウドサービスなどを無償で利用させていただくのが物、奨学金、奨学寄附金をいただくのが金です。

多分、私が一番奨学金およびサポート企業をたくさん獲得してきたと思います。具体的な獲得例を紹介します。

プロジェクト学習や高度ICTコースの発表会は企業のみなさんから、非常にクオリティが高いと言われているように、プロジェクト学習をすると、開発力やコミュニケーション力、発表力が上がります。非常にスキルアップできるので、それを私は企業のみなさんにアピールします。

プロジェクト学習や高度ICTコースの課外演習を経験した結果、OBやOGが企業で非常に活躍してくれます。OBやOGが活躍すると、未来大の学生を継続的に採用したいと、良い循環が生まれます。高度ICTのサポート企業になると、御社の採用に貢献できますと言い切ります。

そのPBLと合わせて、学内の委員会である就職委員会の委員長も並行してやっていたので、就職の話でご挨拶に来られる企業の方とお会いする機会が多かったのですが、そこでも、高度ICT演習というものがあってサポートしていただけると、御社の知名度を上げられますよ、とアピールします。

もともと企業にいたので、企業のニーズを汲み取ってサポート企業制を説明します。かつての営業経験を活かしているわけですね。

学生は企業の人と接すると、教員や学生に説明するのとは違う説明の仕方をしないと分かってもらえないということを経験します。それによって、社会での自分の役割のようなものを認識するようになる感じがします。学生はすごく成長します。

実践型の人材育成としては、この高度ICTコースのほかに、enPiTという人材育成プログラムを第1期、第2期とやってきました。これは、文部科学省による情報技術人材育成を目指した取り組みです。さまざまな大学や企業とコラボレーションして、高度なICT人材を育ててきました。

メッセージ

未来大に入学すると、自分の未来を作ることができます。未来は自分の中にあると私は思っています。ぜひ未来大に来て、オープンスペース、オープンマインドのコンセプトの下で、自分の未来を作り上げて欲しいと思います。それをサポートする大学の設備、教員、職員が整っています。ぜひ自分の未来を未来大で築いてほしいと思います。

私がずっとこれまで心がけていることは、「量はある時、質に転じる」ということです。いろいろなことを頑張って積み上げていくと、ある時、ポンっと1段上のステージに行くことができます。だから積み上げは非常に大切です。

「量はある時、質に転じる」ことを心がけて、高校生のみなさんには、ぜひ未来大に入って、積み上げた結果、未来を作り上げてほしいと思います。