Activity
2014-12-25

IKABO10年と、その先のこと
函館観光振興ロボットIKABO進化論

「さぁ、IKABOを操縦してみよう」

11月23日、日曜日ということもあって函館蔦屋書店は多くの来店者で賑わっています。1階フリースペースの「公立はこだて未来大学 IKABO体験ショー」にも参加者が集まってきました。お揃いの赤いTシャツを着た学生たちが、子どもたちにタッチパネルの操作をやさしく説明。「うん、わかった、やってみる…おお!動いた」。子どもたちの “やった感”に、思わず拍手を送りたくなります。すごいよね、キミの操縦でロボットが動いたんだもの。

プレイバック、IKABOの10年

会場で子どもたちの人気の的だったこのIKABO1号機が誕生したのは2005年のこと。10年目を迎える今日まで、IKABOの年ごとの歩みをざっと振り返ってみましょう。

2005年 「観光用の巨大イカロボット構想」始動
2006年 「ロボットフェス・インはこだて」市民の会発足
イカロボットのプロトタイプ(現1号機)完成
2007年 「花と緑のフェスティバル」出展(以降2013年まで継続)
Wiiリモコンによる操作が実現
イカロボット愛称を公募し「IKABO」に決定
「はこだて港祭り」パレードに参加(以降継続、2012年のみ見送り)
2008年 観光PR用WEBムービー
「函館観光ガイド イカール星人襲来中!」で話題に
2009年 お台場の日本科学未来館で東京デビュー
2010年 3号機(2月)、5号機(10月)完成
IKABO3号機と5号機
2010年に製作されたIKABO3号機(左)と、IKABO5号機

この10年間、IKABOは各種イベントに参加し「イカのまち函館」を精力的にPR、新聞報道やTV取材など多くのメディアにも取り上げていただいています。2014年のトピックスは、何といっても函館蔦屋書店での自主イベントです。これまでのIKABOは多くの集客が見込めるイベントへの参加でしたが、今回は学生たちが自らイベントを企画し運営。IKABOにとっても主役級の晴れ舞台です。その思い入れと苦労のほどは、のちほどプロジェクト学習のチームリーダー秋山翔さん(情報アーキテクチャ学科3年生)に語っていただくとして、担当教員であるお二人の教授にIKABO誕生の経緯をうかがってみましょう。

函館と世界をつなぐメディアとしてのデザイン

イカロボットによる観光振興構想は、市民有志によって立ち上げられ、産・学・官・民が一体となって推進している一大プロジェクトです。未来大もスタート時から全面協力、情報アーキテクチャ学科の柳英克教授と複雑系知能学科の松原仁教授が参加しています。

IKABOを挟んで会話する柳教授と松原教授
IKABOの生みの親、情報アーキテクチャ学科の柳教授(左)と、複雑系知能学科の松原教授

まずは、柳先生にIKABOデザインについてインタビュー。

―IKABOをデザインするにあたって重視されたことは?

どうデザインするかの前に、何をデザインするか。つまり色や姿カタチではなく、このロボットのコンセプトをデザインしよう、と。函館と世界をつなぐメディアとしてのデザインを提案したのです。モノをデザインするというよりは、コトをデザインする。具体的には、インターネット経由でIKABOと世界中の人々がつながるコト、地域のイベントに参加するコト、IKABOを運営するコト、HPの開設や広報戦略もコトのデザインに含まれますね。たとえば、函館から遠く離れたまちからイカボにアクセスすると、イカボがウインクするなんて、わくわくするでしょ。興味を持った人が函館のリアルIKABO会いに来てくれたら、うれしい。IKABOはロボットなんだけれども、メディアとしての機能を持っているんですね。

―未来大が掲げている「社会をデザインする大学」という理念をかたちづくった初期の取組みのひとつですね。

開学して年を経るごとに、大学自身も社会もデザインの本質というか、重要性に気づいてきたところはありますね。人々の活動、地域の動きをデザインする。あるいはその有機的な相互作用をデザインしていく。IKABOでデザインの新しい領域を広げることができたかな。そこは良かったと思っています。

人工知能研究の第一人者がバックアップ

柳教授とタグを組むのは、人工知能研究の松原仁教授。日本のロボカップ設立を提案し、鉄腕アトムをこよなく愛する先生は、どこかあの御茶ノ水博士を思わせる風貌。
1号機完成後、IKABO開発は大学の教育プログラムに組み込まれ、両教授の担当のもと、3年次に実施されている「プロジェクト学習」に継承されています。

―1号機をWiiリモコンで操作したこともあったとお聞きしています。

そうそう、リモコン操作と連動して簡単に動くので楽しい、おもしろいと、大好評だったんです。しかし、リモコンの激しい動きに、疲労度もすごいわけです。IKABOの腕からシュッシュッと音がしているのは空気圧で動かしているから。動きが激しいと経年疲労というか、人間でいえば脱臼状態になる。そこまで動かすことは想定していなかったので、以来Wiiリモコンでの操作は封印しています。

日本科学未来館で動くIKABO
2009年、日本科学未来館で東京デビュー。Wiiリモコンの操作に合わせて動くIKABO

―プロトタイプの1号機は、その後どのような進化を遂げているのでしょうか。

小型ロボット開発のベースとなり、3号機、5号機が誕生しました。1号機よりもずっと小さく、屋内施設や遠方のイベントにも持ち込めるようにと開発されたものです。3号機を開発した学生はホンダのロボット開発部署で頑張っています。
1号機はあくまでもプロトタイプです。メンテナンスを重ねて10年。これに満足している時期もあって、なかなかこのプロトタイプを超えるものが誕生できない状況が続きましたが、IKABO次世代に今ようやく突入しているところです。

―次世代IKABOは何号機になるのでしょう。

11号機ですね。偶数番号のIKABOは函館高専で製作し、奇数番号を未来大で製作しています。7号機はサークルで製作したものを一応公認、9号機は風船型のアイデアで試作。そしてようやく11号機です。2013年度のプロジェクト学習チームが発案し、設計のベースを作りました。それを今の3年生が引き継ぎ、細部を詰め、さらに次年度の3年生が完成させる予定です。体長3.5mの大型IKABO。お披露目は北海道新幹線開業の2016年春を目標にしています。3年間にわたる壮大なプロジェクト学習となりますね。

自主性という“たすき”を繋ぐ学生たち

IKABO開発・運営をプロジェクト学習のテーマに選択した今年度のチームは14名のメンバーで構成されています。イベントの企画・運営もすべて学生の自主性にまかされ、担当教員はサポート役に徹します。今回の函館蔦屋書店の自主イベント開催にあたってはどんな困難と苦労があったのでしょう。チームリーダーの秋山翔さんに聞いてみました。

―地域社会に飛び込んで自らIKABOイベントを企画・開催されましたね。

自前のイベント開催というのは初の体験だったので大変でしたが、勉強になりました。先生に企画書を見てもらって何度も書き直し、蔦屋書店の担当者の方にも足りない点を指摘されて…。イベントは自分たちのためにあるのではなく、市民や会場を提供してくださるお店にどのようなメリットをもたらすのか、その場所で行う意義は何か、振り返るといろいろな点でツメが甘かったと思います。日程調整や、告知も十分ではなかったし。でも、学生のうちから実社会の方たちと交渉したり、地域の方との触れ合いを通して、本当にいい経験だと実感しています。

学生と打ち合わせする柳教授

蔦屋書店でのイベント準備をする学生

―困難なことに向かっていく、そのモチベーションはどこから?

面白そうなことを仕掛けていく、自分たちでそれを見つけていくことが楽しい。たぶん、「これ、やりなさい」って与えられたものでは、こんなに考えないし、悩まないし(笑)、責任もない。今回のイベントはチーム全員が総力であたっているという実感があったので、労力と時間はかかったけど、達成感は想像以上です。やっとここまで漕ぎつけた、というか。

―IKABO11号機開発プロジェクトは、次年度の後輩にバトンを渡すのですね。

そうですね、本当は自分たちの手で完成させたいところですが、僕らもまた先輩からプロジェクトを引き継いでいますし、大きなプロジェクトに関わっているということ自体がモチベーションになっています。後輩たちには、11号機完成がゴールではなく、IKABOがこれからも函館のまちの方々に広く認知され、愛されていくような活動を展開していってほしいと思っています。