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「プロジェクト学習」現場から
未来大的学びのデザインを探る

7月10日、午後3時。3F正面玄関から真っ直ぐに延びる「モール」と呼ばれるメインストリートで、学生たちのプレゼンテーションが一斉に始まりました。1Fのオープンな空間「スタジオ」でプレゼンを行っているチームもあります。このプレゼンは、プロジェクト学習の中間発表で、4月から取り組んでいる研究テーマの進行状況を伝えるもの。発表する学生たちの熱弁、真剣な眼差しで聞き入る学生たち。ユニークな学習の現場は、授業というよりはライブ感たっぷりの“学びの祝祭”のようでもあり、その熱気に思わず引き込まれてしまいました。

ところで、「プロジェクト学習」とは?

環境、経済、工学、情報、医療など、多様な分野が複雑に関連する現代社会では、多くの問題が明確な解のないまま、現在進行形で動いています。その複雑さゆえ、大学教育においては従来の講義や演習だけでは実社会への対応力には限界があるというのが実情です。そこで近年注目されているのが、学生自らが主体的に動き、考え、実践する「問題設定解決型学習法=プロジェクト学習」です。講義中心の教育から学生の自主的な学習を促す教育へ。大学教育改革の先駆的な試みとして、2000年の公立はこだて未来大学開学時からプロジェクト学習の導入を決めていました。導入から15年、3年次の必修科目であるプロジェクト学習は未来大学の根幹をなす授業となっています。

まずは、教員によるプレゼンテーションから

テーマを提示する教員プロジェクト学習の主体は学生ですが、取り組むテーマをまず教員陣が提示します。プロジェクト学習は、毎年2月の教員による「テーマ申請」からスタート。テーマは20~25に絞られ、新学期がスタートする4月に学生たちに向けてテーマ説明会を開催します。魅力のあるテーマはどれ? 難しそうだけどやりがいのありそうなテーマは? 教員たちのプレゼンに学生たちは興味津々です。一方、希望者のいないテーマは取り潰しになるので、教員たちも気を抜けません。プロジェクト学習は、教員にとっても真剣勝負の“場”でもあるのです。とはいっても、教員たちはあくまでもアドバイス役に徹するのがルール。主体は学生であり、プロジェクト学習のイニシアティブは学生が握ります。

チームはテーマごとに、学科、コースの領域を越えて横断的に10~15名の学生と2~3名の教員で構成され、1年をかけてテーマに課せられた問題解決に挑みます。2015年度のテーマは、以下の通りです。22のチームが、“あらかじめ決められた解”のないテーマと格闘の真っ最中です。

  1. ミライケータイプロジェクト
  2. 未体験レシピの探求 -使えるおもしろレシピ集-
  3. フィールドから創る地域・社会のためのスウィフトなアプリ開発
  4. 新しい函館のためのいかロボットの開発と運用
  5. 移動プラネタリウム祭:地域に根ざす手作りプラネタリウムの制作
  6. 地域とビジネスをつなぐ、新しいマーケティングのためのシステム開発
  7. モバイル端末やビックデータで医療 -ヘルスケア環境をデザインしよう-
  8. ゲーム・デ・エデュケーション
  9. 感じる筋電義手の開発
  10. 函館発新体験型施設のコンテンツ企画・制作・運営プロジェクト
  11. 未来大生のための数理科学学習環境の整備
  12. ロケーションベースサービスの展開
  13. ハコダテソラカメラ-番組制作とツール開発
  14. 函館湾のすべての船舶を網羅せよ -不審船をさがせ!-
  15. FUN-ECM プロジェクト
  16. FabLab 函館:新しいモノづくりを支える活動拠点/コンテンツ/支援システムの創出
  17. 複雑系の数理とシミュレーション
  18. もえもえデジタルサイネージ -人を動かすデザイン×認知×システム-
  19. 地方のためのtwitterローカライズ
  20. シンクロ現象と音楽・映像表現
  21. 言葉をピンで「そこ」に留める ‐「まち」ミュージアム-
  22. future body (知覚デザイン)

プロジェクト学習の実際を語ってくれた学生たちの声は、本サイトの「キャンパスライフ>未来大について話そう!>授業編その2」に掲載してありますので、こちらもぜひご一読ください。テーマ選定の決め手、チームワークのポイント、チームリーダーを支えるフォロワーシップなどなど、プロジェクト学習の悩みどころから達成に至るまで、学生たちのリアルトークが炸裂です。

1年間の進行スケジュール

4月のテーマ選定、チーム編成から、プロジェクトがいよいよ始動。5月にリサーチとヒアリングを重ね、解決すべき問題を見つけ、課題を設定します。6月からは問題点の抽出、検討、試作を通し共同作業が本格化。7月は中間発表。この発表を通し、何が足りないのか、達成すべきポイントがより明確になってきます。夏から秋にかけては問題解決に向けて、チームの総力を結集。解決に必要とされる理論や専門知識を体得し、システム開発・作品制作を通じて実践力を身に付けます。これまでの成果を第三者に伝えるためのコミュニケーション能力にさらに磨きをかけ、12月には成果発表会を実施。1月に最終レポートを提出し、プロジェクトが終了します。

社会とつながる、ということ

プロジェクト学習のテーマは、実社会の問題からも選ばれます。現在、未来大学では約1/3のプロジェクトが社会や企業と連携しています。冒頭にも述べたように、社会の現場では、さまざまな分野の業種・業態が複雑に絡み合い、明確な解のないままに進行しています。このような現場で、学生たちは社会の一員として課題解決のシミュレーションを重ね、ある種のプロトタイプ(試作品、プログラムなど)をプロジェクトの成果として提示します。

いわゆる“正解”のない問題に立ち向かい、大学に在籍していながら、社会の構成員として共同で何らかの結果を生み出していく、そのプロセスにこそ大きな意義があります。生身の人間たちの営みのなかで、要求されている問題に直面し、社会の中でエンジニアに求められていることを体験できる貴重な機会といえましょう。

21世紀の学びのデザインとは

全国の教育現場に先駆け、プロジェクト学習を導入してきた未来大学ですが、開学時からその現場に立ち会ってきた美馬のゆり教授(情報アーキテクチャ学科)に、プロジェクト学習が示唆する“21世紀の学びのデザイン”について聞いてみました。

―「学習科学(情報工学、認知心理学、教育学)」を専攻されている美馬のゆり先生のお立場から、未来大学におけるプロジェクト学習についてあらためてお話しいただけますでしょうか?

インタビューを受ける美馬のゆり教授プロジェクト学習は開学(2000年)の段階で実施することは決まっていました。3年次の必修科目という設定だったので、実質的に稼働したのは2002年からですね。開学にあたって、新しい大学ですので、新しい学習の場をデザインしたいという思いがまずありました。ここでいうデザインとは、機能や形状のみにとどまらず、新しい仕組みを創造する行為までを意味しています。

未来大学の理念は「オープンスペース、オープンマインド」です。スペースをオープンにすると、マインドもオープンになる、という意味です。仕切りのないオープンな学習空間で、プロジェクト学習を実現する。この新しい学びのデザインは、私たちにとっても大きな挑戦でもありました。新しい学習スタイルを採用し実践していくために、アイデアの元になったのは、実は寺子屋だったんですよ。

―江戸時代、庶民の子どもたちを対象に開かれていた寺子屋ですか?

そうです。これがなかなか奥が深い。基本は自学自習、同室にいながら異なる課題に取り組んだり、それぞれの子どもに対する教師の指導があり、居合わせる他の子どもたちにもその指導内容がそれとなく聞こえる。成果発表会もあったようです。非常にオープンな学習環境ですよね。ところが時代が進むにつれ、学習の場は教室という、ある意味閉ざされた空間となっていきます。

プロジェクト学習は、言うなれば現代版寺子屋です。単に知識を受け身で習得する学習活動ではなく、オープンな学習環境で実践的な活動に役割をもって参加することを重視しています。学内はもとより、学外でも地域の人々や企業とも関わり、共同的に学ぶ、社会的に意味のあることを学ぶ、という新しい学びの場が用意されています。地域全体が学びの空間であり、そこにつながっていくことに意義があるのです。

―体験学習とプロジェクト学習は、どこが違うのでしょうか?

一般に、体験学習は体験し、経験し、そこで終了します。一方、プロジェクト学習は、課題解決学習です。学んだことが次の問いを生み出していくという学び方です。実社会や実生活の中でこれまで学んできた知識やスキルを活用しながら、自ら課題を発見していきます。解決に向けて自ら、そして仲間とともに探究し、学びの成果を形にしていくのです。そしてある問題を解決してみると、そこに新たな問題が見えてくる。その経験が、さらなる知識やスキルを身につけることにつながり、実社会で活かしていけるようになっていくのです。

―評価はどのように? それは将来どう活かされるのでしょう。

評価は次に進むためのフィードバックです。自らが選んだ学習機会をどう活かし、何を得たのかが評価(フィードバック)の対象となります。チームでどう役割分担をし、意識や行動をどうまとめていったのか。あるいはまた、地域の人たちや企業の方たちとどう課題を共有し、解決策を探っていったのか。自己評価、仲間からの評価、成果発表会における評価をもとに、教員と面談して決定します。

プロジェクト学習の一連の経験は、将来的には異文化の人たちとの課題解決や意思決定、国際社会の課題解決の力につながっていきます。未来大学のプロジェクト学習は、単にプロジェクトに関連する知識やスキル、またその成果物を得ることだけではありません。実践的な活動に役割を持って参加する、社会へのかかわりが強まっていくプロセスなのです。

「プロジェクト学習で経験した、チームで問題を解決していくプロセス、あれは実社会で本当に役に立った」。美馬のゆり先生のインタビュー後、アメリカのシリコンバレーで活躍する未来大卒業生から聞いた言葉を思い出しました。彼女は、こう続けました―「分からないことは学べばいい、出来ないことは練習すれば良い。だからこそ、それらを実行する人そのものが重要だと学んだ」と。