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2023-04-07

コロナ禍を乗り越え、これからの未来大と情報科学
【対談】片桐前理事長学長×鈴木新理事長学長

片桐前理事長・学長×鈴木新理事長・学長
左: 片桐前理事長・学長 右: 鈴木新理事長・学長

7年間を振り返って

地域の大学として目指したこと

鈴木: これまで7年間本当にご苦労さまでした。まずは片桐学長が就任した7年間を振り返っていただきたいと思います。

片桐: 私が学長になったのは2016年からで、大学に来たのはもっと前、2005年でした。その前は研究所にいて、来る前から感じていましたが、未来大はとても教員同士の距離が近く、教員と学生の距離も近くて、「Open space, open mind」の標語が示すとおりに、非常に良い環境、雰囲気だなと思っていました。

文化というか、風土というか。それを学長になっても引き継いで、教員それぞれがのびのびと研究、教育活動をして、学生もしっかり成長していく環境づくりをしていこうといろいろと取り組んできたつもりです。

全国の公立大学の学長の集まりで他の学長さんからお話を伺うと、公立大学は国立大学と比べると、県や市などの自治体との関係がとても多様だとわかりました。大学によっては理事長が自治体から来ていたり、市長や知事と学長が交渉して毎年の予算を決めたりしているところもありました。

未来大の場合は、自治体のスタンスが「好きなようにどうぞ」という、距離を置いて見守ってくださっている感じでした。自由度があったのですが、もう少し函館市とか北斗市、七飯町と情報のやりとりをして、それを研究教育活動に反映させられないかと思い、函館市役所と定期的に会合を持つことを始めました。

経済界では商工会議所と話す機会もつくり良い関係ができ始めて、担当レベルで突っ込んだ議論ができそうだと思っていた矢先に、残念ながら新型コロナで全然会えなくなってしまいました。やっと新型コロナがおさまってきたので、復活させて連携を強化していけたら良いと感じています。

そんな状況でしたが、おかげさまで研究ではSAVS(シェア型リアルタイムオンデマンド公共交通サービスのプラットフォーム)や、マリンITは全国規模で展開しており、目覚ましい成果を出しています。

地域発の問題を丁寧に取り上げ、IT、AIを用いてその解決を図ることで、設置団体だけでなく、地域のみなさんにも、「この大学が地域にあってよかった」と思ってもらうことが大切です。設立から20年余りの取り組みを経て、少しずつ定着してきたかなと思っています。

片桐恭弘

新型コロナがもたらしたもの

鈴木: 次は新型コロナ対応の話にならざるを得ないのですが、僕の感想としては上手に乗り切ったのではないかという印象を抱いていますが、いかがですか。

片桐: 小さな大学なので、最初はどうしたら良いのか分からず大変でした。とても苦労された学生さんもいましたが、おかげさまで、多くの学生さんはオンライン授業にしっかりと適応してくださいました。

教員もずいぶん頑張って、オンライン環境をどう使って授業するのかを積極的に試み、それを学内で共有してくれたので、他の教員がそれを見て「そんなことができるのか」とノウハウが広がり、わりとうまく進んだかなと感じていますね。

これからは原則的に対面授業になっていきますが、ビデオ教材の利点を活かし、オンラインの形も続けて追求してもらえればと思います。

鈴木: コロナ禍以前は、オンライン授業は少しネガティブというか、非常手段でしかないみたいな感じでした。ところがやってみると、先生たちが非常に良いビデオ教材を作られて、現在でも対面と並行している先生も結構多い。オンラインで授業するという可能性が思った以上に広がったなという印象です。

片桐: あと会議ももう全部オンラインというのもほぼ定着しました。学内でもいちいち移動しなくても、皆さん自分の部屋から入れるので、時間を非常に有効利用できる。
研究室の学生指導なども、場合によってはオンラインを使って、しかもオンラインと対面とを混ぜたりと、結構ややこしくなるはずですが、教員も学生も工夫して、ずいぶん効率的に上手くやろうとしているので、すごいなと感心しています。

鈴木恵二

未来大ならではの適応力

片桐: 他の大学と比較したことはないのですが、未来大のオンラインへの適応は早かったと思います。

もちろん基本的なインフラが整っていたというのもあります。学内にネットワークはありましたし、開学時から入学したら各自PCを買ってくださいというBYOD(Bring Your Own Device: 個人の機器を学校などに持ち込み利用するの意)だったので、様々な機材を貸し出さなきゃならないとか考えなくて良かった。そういう意味では恵まれていたと思いますね。

鈴木: それに加えて、コロナ禍でも「Open space, open mind」ということで、片桐学長が音頭を取って、みんなでオンライン授業の仕方を情報交換したのが、かなり効きましたよね。

正直に言って情報系の大学といえども、動画を撮るにしても、みんなであたふたして、撮ってみたら画質が悪い音声が悪いとなり、みんなで「どうしたらいいんだ?」、「これいいよ」という意見を持ち寄って作っていましたね。

片桐: 会議で使うマイクにはエコーキャンセリング機能などが入ってなきゃいけないのですが、そういうのも全員がよく分かっているわけじゃない。ですが、「そういうことをやりたかったらこれがいいよ」みたいな情報が共有されるのが早かった。

鈴木: 授業をする中で実感したのは、対面よりもオンラインの方が学生の学習に向いている授業科目があるということ。数学系など、じっくりと時間をかけて、自分でよく理解しながらこなしていくタイプの授業は、動画を止めることができるオンライン授業の方が成績は圧倒的に良くなりましたね。

片桐: 動画は何回も繰り返して見られるが、対面授業だと途中で分からないところがあっても進んでしまうので、なかなか追いついていくのが難しい。積極的な学生は友達に聞いたり、先生に聞きに行ったりするのですが、そういうふうにできない学生もいますから。

ただ、良い面もありますが、入学時から新型コロナの影響で大学が閉まっていて全然来られないとなると友達ができない。1年生が大学生活に慣れるには、やはり友達を作ってお互いに励まし合ったり、情報を交換したりすることが必要です。

中でも一人で暮らしの学生は孤立してしまった。どこへ相談に行ったら良いのか、それすらもなかなか分からないみたいな状況になって、非常に苦しんだ。そこで、情報ライブラリーを開放し、上級生が相談を受け付けるなどの取り組みを工夫して、少しずつ良くなっていった。

なんでもオンラインにすれば良いのではなく、先生や学生同士は、最初は対面で会って、お互いにある程度感触をつかんで、その後に効率の良いオンラインを使っていく。最初はその辺の使い分けが分からなくて苦労しました。

片桐恭弘

片桐恭弘(かたぎり やすひろ)前学長(2015年度〜2022年度就任)

1981年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。工学博士。NTT基礎研究所主任研究員・主幹研究員、ATRメディア情報科学研究所長を経て、2005年に公立はこだて未来大学教授に就任。機械翻訳、日本語の意味論・語用論、対話インタラクションの研究に従事。

人工知能(AI)研究と未来大

人工知能のパイオニア

鈴木: 僕が勘違いをしていなければ、片桐学長はAIUEOのメンバーですよね? 今言ったAIUEOというグループのメンバーは、日本における人工知能のパイオニアです。

僕は学生時代に、AIUEOが出された訳本『エキスパート・システム』を読んでいます。当時は、人工知能とは何かがよく分からない本ばかりの中で、AIUEOの本はだけ唯一まともに書いてあったのですが、訳者の欄を見るとAIUEOとある。「誰だ?この正体不明の人たちは!」と非常に衝撃を受けました。教授には「そんな正体不明のやつの本なんか読んで」と怒られましたが、あの本のおかげで人工知能について学ぶことができたというのが原体験です。

その後、教員になってから、あれを書いてくれたAIUEOのメンバーが、松原仁先生(公立はこだて未来大学特任教授/東京大学次世代知能科学研究センター教授)とか、中島前学長とか片桐学長とか、そういう人たちだったとことに気づいて、非常に感慨深かった。日本の人工知能を最初から見られていたという意味で、片桐学長はパイオニアです。

AIUEOとは

AIUEO(Artificial Intelligence Ultra Eccentric Organization)は、1977年の冬から2019年の秋まで42年間続いたAIの勉強会(後半2/3は休眠状態)。開始時のメンバーは、東京大学の学生だった斉藤康己氏、中島秀之氏(未来大第2代学長)、片桐恭弘氏(未来大第3代学長)、白井英俊氏の4名。イギリスのエセックス大学に留学していた斎藤氏がそこで学んだAI分野に魅了され、帰国後に他3名に声をかけスタート。メンバーを増やしつつ論文等の輪講を重ねた。『エキスパート・システム』(1985年、産業図書)、『メンタルモデル—言語・推論・意識の認知科学』(1988年、同)を翻訳した。

片桐: 日本ではあまり馴染みがなかった頃、外国へ留学して戻ってきた我々のグループの1人が「AIというのがあるみたいだ」というので、興味を持った学生が集まって勉強し始めたんですね。

当時、いわゆるパターン認識みたいなことを研究している先生は当然いました。その頃始まっていた第5世代コンピューターに繋がる、記号処理に基づいて知的機能を実現するという研究です。京大とかではやっていたかもしれないけど、あまり日本中の大学で広まっていたわけではなくて。

1970年代の後半、東大の学生が興味を持って自発的に集まり、こんな面白そうな論文があるよと輪講して、ああでもないこうでもないと議論するところから始めました。それが発端なので、先生から教わるというパターンではなかったのが特徴です。

片桐恭弘

第5世代から現在のAIへ

片桐: その後、ご存じのように第5世代という記号処理のAIがあったのですが、もてはやされたわりにはなかなか実用にならなくて、社会の関心が薄らいで冬の時代を迎える。まあ、AIというキーワードは残りましたが。

チェス、将棋、囲碁みたいなものはAIの活用として非常に分かりやすいし、他にも数式処理のようなしっかりとテクノロジーになった研究もありましたが、いわゆる人間の知能を実現するみたいな研究は下火になりました。

それが最近では、機械学習が脚光を浴びるようになって、今度は人間がかなわないくらいのすごいパフォーマンスを示すようになってきた。学生が書いたレポートなのかChat GPTが書いたのか、大学の先生が分からないというようなことも出てきました。

それだけに世の中に対する影響も大きく、人工知能が持つ弊害というか、テクノロジーが進歩すると良いことにも悪いことにも使えるという両面があるので、人々の幸せに貢献できるように、わきまえて活用することが、これからの大事なポイントだと思います。

以前のAI医療診断では、撮影したX線画像に癌があるかどうかをパターン認識させてみて、専門の先生と同程度、あるいはそれより精度が高くなっても、「誤診が起きたらどうするの?」という不安が拭えず、最終的に信じて良いのかというところが問題になりました。

最近は大量のデータを使うので、人間より良いパフォーマンスになるだろう、今回はもしかすると乗り越えられると感じている人も多いのでしょう。自動運転などは、車に運転を任せて事故が起きたらどうするのだろう、と私は思いますが、日本のメーカーは非常に慎重に進めています。

徐々にAI活用へ向かっていく中で、技術者だけで決める話ではなく、最終的には社会が受け入れるのかを決めていくのだろうと思います。

鈴木恵二

鈴木恵二(すずき けいじ)新学長(2023年度より就任)

1993年北海道大学大学院工学研究科精密工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。同大学での助教、准教授、教授を経て、2000年から2008年まで未来大に在籍。2008年から2015年まで北海道大学にて教授。2015年より再び未来大に在籍。2020年から副学長。人工知能、ディープラーニング、機械学習、観光情報学、マルチエージェントシステム、自律分散ロボット制御、複雑系工学の研究に従事。

未来大における研究ニーズ

鈴木: 未来大には重点領域研究という独自の研究経費の仕組みがあり、教員が何人かでグループを組んで共同研究の申請をし、審査が通れば研究費がもらえます。

同じ分野の研究者でグループを組むこともありますが、デザインの先生とコンピューターシステムの先生が組む、みたいな分野横断的に取り組まれるケースもあり、長年やってきた中から今いくつかが非常に育ってきましたね。

和田先生のグループのマリンITは、漁業関係者のDX化、働き方改革に実際つながっていき、日本全国、「和田先生がいないと」と言われるくらい広がっておりますし、新型コロナで止まっていますが、海を超えたインドネシアでも共同研究が始まっていました。

また、乗り合いの交通システムのSAVSは、効率的にどこをどのように走って、誰と乗り合わせるかをAIで計算する仕組みをつくり、これはMIRAIシェアという本学発のベンチャー企業になっています。

こういう仕組みは完全運行になかなか行き着かず、トライの段階で止まってしまうことも多いのですが、未来大のSAVSは実施地域数が100地域を超え、AIを使った交通システムとしては、北海道から沖縄まで日本で一番実績を上げており、これはかなりの地域貢献につながると期待しております。

あとはメディカル系として、ひとつは遠隔手術とAI技術を重点にした医師の支援システム。もうひとつはリハビリ支援で、療法士にお世話になる限られた期間の後に、患者さんご自身でリハビリに取り組む際にロボティクスの技術やさまざまな知見を使って支援するサービスです。

今お話しした3つとも未来大単独ではなくて、様々な大学や研究所、地域の方と協力して研究することで、成果につなげています。研究は、内に閉じこもるとなかなか広がっていかないという面がありますので、未来大のオープンさが良い成果につながっていると思います。このような研究活動の連携を支援しているのが、社会連携センターで、先生たちからのあれをしたい、これをしたいという積極的な提案を受けて、契約業務などを行なっています。

社会連携センター
社会連携センター

情報教育と未来大

AIとデータサイエンスの教育の特色

鈴木: 最近、全国的にデータサイエンティスト育成の取り組みが盛んですが、残念ながら、データサイエンスのトップクラス、人工知能をリーディングするような人材を育成するという点では、今のところ、欧米や中国から見ると非常に後れをとってしまっている。

未来大の場合、データサイエンスを教えるのは当然ですが、できればもっとハイレベルな、世界をリードするような人材を育てられないかと考えているですが、どうでしょう。

片桐: データサイエンスも人工知能も、テクノロジーや理論の先端は非常にハイエンドのほうに行ってしまっていますよね。ものすごい大きな研究費、トップクラスの研究者を集めて競わせるなど。一方で、応用範囲が非常に広くなっていき、社会全体でどうやって使うのかも研究していく必要がある。

未来大のメリットは現場が近いことです。国のレベルでやるような大きな話ではなくとも、小規模の実データに触れながら、データサイエンスを使って実験するリアルな経験を身につけた学生が育ってくれる。そういうところが未来大の特徴になっていくのではないでしょうか。

もちろん、AIの理論や基礎の研究にも軸足を置く必要はあって、新しい機械学習、人工知能の考え方に関すること、脳科学的な研究をやっている教員たちもいますし。大きな計算機などのリソースがあまりなくても、頭を使ってできることが多くあると思います。

現場志向と理論の二本立てのアプローチから、AIやデータサイエンスを自分たちのものにしていってほしいと考えています。

デザインと教育

片桐: 従来は、デザインというとモノづくり、製品の形を作るという話でした。それが、「モノづくり」から「コトづくり」へと変わってきた。建築であれば、建物だけでなく、中での住み心地までを考えるみたいな話です。例えば、「社会デザイン」という授業で、社会の仕組みをどうつくっていくかを学んでもらうのも、未来大のデザインに対する考え方の表れです。

デジタル化することがDXではありません。小中学校でも1人1台パソコンと言っていますが、それでDXは終わりじゃなくて、使ってどうするのか、使って学校の教え方がどう変わるのかが問題です。

自治体のDXならば、そのガバナンスのやり方がどう変わるのかまで踏み込まなくてはいけない。それが広い意味でのデザインだと思いますね。そういう少し踏み込んだところでは、未来大のデザインは強いだろうと思います。

地域や身近な暮らしの課題に取り組んだ様子を伝えるパネル
地域や身近な暮らしの課題に取り組んだ様子を伝えるパネル

未来大が目指すデータサイエンティスト

片桐: 未来大が目指すデータサイエンティスト像というのは、なかなか難しく、まだ定まっていないという認識です。

データサイエンスに関連する授業をいろいろとやってきたことを2020年に1つにまとめ、データサイエンス全体を解説する概論としてデータサイエンスオープンプログラム(DSOP)を開設しました。この2年ぐらいは、それを充実させてきました。

データサイエンス教育の必要性を感じている高校には、ビデオ教材などを提供して、見ていただくとことを始めていますね。

一方で、社会人のリカレントやリスキリングの需要も当然あって、プロフェッショナルを目指し即戦力を身に付けたいという点で、学生とは違うニーズが想定されます。そこで、プログラムを少し上位レベルにして、我々が取得している文科省の認定「リテラシーレベル」の1つ上、「応用基礎レベル」の認定資格を取る準備をしているところです。

様々な概念やテクノロジー、テクニックなどを学びつつ、多分社会人の人たちにとってリスキリングになると、解きたい問題が実際にあって、その問題解決にデータサイエンスを具体的に使うことを望んでいますよね。そのため、実際の企業のニーズを把握して、プログラムを作っていけるよう検討しているところです。

プロジェクト学習

鈴木: 一般的なデータサイエンティストの育成は、大体が教えて終わりと思うのですが、未来大は、地域と非常に近いことを生かして、学生のうちに実際への応用を体験してもらっています。その代表的なカリキュラムが、3年生の1年間を通して取り組むプロジェクト学習で、データサイエンスがどのように役立ち、こういうことを解決できるんだというのを実感できます。

例えば、函館地域は「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産に認定されていますが、発掘当時の様子や、データも2次元の紙で残っているだけでした。今年の3年生のプロジェクト学習では、今の技術を使って、昔の竪穴式住居を3次元化してみるという課題に取り組み、VR(バーチャルリアリティ)で中に入って、その大きさを体験できるようにしました。

これが実際のプロフェッショナルの方に非常に好評です。2次元の資料を頭の中で3次元化して、こうだったのかなと思い浮かべるのに非常に慣れが必要だったのですが、図面上の等高線から正確に3次元化したデータをVRを使っていろいろな角度から見られるようにしたところ、この遺跡はこんな感じだったんだ、と言ってもらえるようになりました。

プロジェクト学習のテーマは、身近な課題や企業の営利的な課題解決から、遺跡発掘といった文化的なことまで幅広く、これも特徴のひとつですね。

片桐: 遺跡のVR体験はとても良いトピックだと思いますよ。観光的なメリットもありますし、恐らく考古学の人たちにとって、学問的に新しいことを考えつく可能性もあります。ITやメディアテクノロジーをうまく広げていく良い試みになってきていますね。

オープンキャンパスでそれぞれの研究やプロジェクト学習の成果を説明する未来大生たち
オープンキャンパスでそれぞれの研究やプロジェクト学習の成果を説明する未来大生たち

何のために情報科学を学ぶのか

鈴木: 教育や研究、地域貢献という面に関して、様々なキーワードの中で、やはり大事だなと思うのがComputational Thinking。これかなと思ったのですが、いかがですか。

片桐: 良いところを突きますね。世の中で取り上げられて話題になっているキーワードは時代とともに変わっていきます。情報科学者なら当然持っているはずのComputational Thinking、計算論的思考は情報科学の考え方の基礎であり普遍的だと思います。

「情報教育とはプログラミングすること」というのは短絡的すぎますね。もう少し計算機的に物事を考えるというのはどういうことかを広く捉えて、それを大学の教育、それから外へ広げていくのがとても大事だと思います。

鈴木: 同意見です。インターネットが契機となり、世界がコンピューターのアルゴリズムで動くようになった。今のほとんどの社会システム、様々なものがもうアルゴリズムで動いてしまっていると。

今、人工知能に仕事が奪われるなどと言われていますが、もう既にあなたの仕事はコンピューターに支えられていますよと言いたい。コンピューターなしではあなたの仕事は出来ませんよ、という世界になってしまっている。

この先、コンピューターが我々の生活を様々な形で、知的産業や肉体労働も含めて変えていく中で、やはり大切になるのは今おっしゃっていただいたComputational Thinkingだろうと。

コンピューターについて学ぶというのは、社会システムのミニチュアを学ぶことだと僕は思っているんです。コンピューターという仕組みを学び、型を理解することで、世界、世間のシステムを学ぶ。だから世界のシステムがデジタル化されているかどうかに関わらず、こういう仕組みなんだというのが理解しやすくなる。

未来大に来て、単純にコンピューターが使えるようになる。あるいはそれを応用した技術者になれるというだけじゃなくて、世界の今ある仕組みがどうなっているのかを学ぶ。これはもう知力の問題ですね。見えないものを見る力、そういう知力を養う。そのきっかけこそがコンピューターだと僕は思っているのですが、どうですかね。

片桐: 大賛成です。前の話に戻りますが、ここまで技術が進むと悪用も可能になるという話がありましたよね。プライバシーの話など非常にセンシティブな話が出てきます。

例えば、北欧は政府に対する信頼感が高いので、国民がプライベートの情報を政府に渡すことに対してほとんど抵抗がないみたいですね。自分の情報を提供すことによって、政府のサービスが良くなるからと納得している。

日本だけでなく他の多くの国も、なかなかそういうシステムに対する信頼感は高くない。そういうところでも、安心して使ってもらえるように、システムがどうプライバシーを守るのか、ということを利用者に納得してもらう必要がある。

多分、そういう世の中をどうやって実現するのか、それを考えるのが、情報システムを含めた社会デザインになるのだと思うんです。

未来大キャンパス

これからの未来大

未来大のユニークさと今後の構想

鈴木: 公立大学として果たす地域貢献に関しては、今までも十分成功してきているという自負があります。ですので、これを継続できるような体制を今後も続けていき、地域の皆さんに「未来大があってよかった」と言ってもらえることを目指していきたい。

一方で、新型コロナが流行していたこの3年間のうちに、非常に良い先生方が赴任されてきております。中には世界トップクラスの企業に勤めていた経歴をお持ちで、びっくりするようなアイデアをお持ちの方とかがいらっしゃる。それが残念ながら新型コロナのせいで、地域の方々にご紹介する機会を持てませんでした。ぜひとも、そういう新しい先生方を含めて、今の未来大の研究ポテンシャルというものをもっと知っていただきたい。

また、やはり中高生の皆さんに未来大の中身をもっとよく知ってほしいですね。未来大は、情報系の大学として一括りにされがちですが、よく見ていただくと、実はとんでもなく広い領域を持った大学です。これだけ情報系の広い領域をカバーしている大学は本当に数えるほどしかない。しかも、先生皆さんがバラバラに活動しているのではなく、連携しながら研究しているという、奇跡のような大学です。

単なる情報系の大学ではなく、世界のシステムをカバーするような知見を学べる大学なんだ、ということをぜひ理解していただきたいなと。

今や小中学生でも学校でタブレットを使っている時代ですので、情報技術や人工知能などの技術に触れられるような機会をつくっていって、この分野を目指す人を増やしていきたいなと考えています。

エール

片桐: 様々な話が出ましたが、やはり未来大は「Open space, open mind」。教員同士の距離が近くコラボレーションをするカルチャーがあり、学生との距離も近いという、とても良い大学だと思っています。それを引き続き伸ばしていっていただく。

国際化については、大学間協定を結んでいる海外の大学から留学生が来ていますが、こちらから海外へ行く学生も少しずつ増えてきています。海外へ行くと視野が広がってすごく伸びますので、日本の中で閉じずに是非積極的に留学して欲しいです。

特に台湾からはかなり注目されていて、台湾でも未来大のような教育を一緒にやりたいと言われ、交流を始めています。あとはスリランカやフィリピンなどから学生が来るようになりました。特にアジアには、日本へ行って学びたいという学生、若者が多い。そういう人達にも十分に応えられるだけの教育を未来大はしているという自負を持って欲しい。

新型コロナがだんだん収まってきたので、世界に未来大の教育、交流が伸びていってくれるといいなと期待しています。

頑張ってください。

鈴木: ありがとうございます。本当に7年間、ご苦労様でした。新型コロナという困難な状況を乗り越えられたのも学長のリーダーシップがあったからだと思っています。

公式には未来大を離れられますが、私としては放すつもりはございません(笑)。是非、この先も様々なアドバイスいただければと考えております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

片桐前理事長・学長×鈴木新理事長・学長

(2023年2月21日 理事長室にて)